26:花のような人

桜さんからはいつも花のような匂いと、変わった不思議な匂いがした。今までに嗅いだことのない、他の人とは違う匂い。
それは、未来人だからなのか、彼女特有なものなのかは、わからないが、その特別な匂いは雰囲気にも表れていた。
雑踏に紛れていても、スポットライトを浴びた役者の如く、目を惹かれ目立つ存在。
町で炭売りをしている時も、必ず人の目を引いた。日本人の中にいる外国人を通りすがりについ見てしまうような。それは、見目の良さばかりではなく、彼女の独特の雰囲気が成すものなのだろうと感じた。


桜さんの人柄を言葉として表現するなら、やはり、花のような人だろうか。




「六太くん、上手だね〜!」

ぱちぱちと小さく拍手をして、六太の地面に書いた絵を褒める桜さんと喜ぶ六太。見るものを和ませる、心穏やかな光景。
桜さんは人を良く褒めた。少し大袈裟な褒め方な気もしたが、人の良い所や長所を、その人自身に教えてあげたいのだと話していた。自分の良い所は自分では中々見えにくいし、気付きは、自信と勇気に代わるから、と。





母さんの内職を徹夜で手伝っていた禰豆子は、疲れからか今朝から少し発熱していた。禰豆子は「大丈夫」というが、家族全員が寝てなきゃダメ!と猛烈に反対し、しぶしぶ布団にもぐっているという状況だ。
そろそろ水が無くなる頃だろうと、水を持って部屋に向かうと、桜さんと禰豆子の会話が聞こえてきた。

「いつもありがとう。あとは任せて、今はゆっくり休んでてね」
「……はい」

静かに覗くと、桜さんが禰豆子の頭を優しく撫でていた。
大人しく撫でられる禰豆子の顔を見て、自然と表情が和らぐ。なぜなら父さんが死んでしまってから、誰かに甘える事をしなくなった禰豆子が、久しぶり頼りきった表情を見せていたから。
水を入り口に置いてそっと離れた。







本当の意味で花みたいだなと思った事もあった。


「きゃあぁーー!!!!」

あれは、春になったばかりの頃。
家全体に響く叫び声の元に慌てて駆け付けると、腰抜け状態の桜さん。
桜さんは俺に気付くと、四つん這いで俺の背後に隠れ、指を差し震える。

「いやーー!あれなに?!何の生き物?!あれが噂のゴキブリ??!気持ち悪いぃーーー!!」

指先の方向には、1匹のでっぷりと成長した大きなカマドウマ。
未来では、害虫という害虫が駆除され、クモ一匹さえも実物は見たことがないらしく、春になって増殖した虫に、いつも小さな悲鳴をあげてはいたが、ここまでの大きな拒絶反応はなかった。なんでもカマドウマは生理的に無理なんだとか。

「むりむりむり、ほんと無理ーー!!炭治郎様ー!助けて下さいお願いします!やつを、やつを!何処かにやってください!」

背中部分の羽織に顔を埋め、左右に振るように顔を擦り付け、助けを乞う桜さん。
兄弟に頼られた時には感じたことのない満足感のような気持ちに首を傾げながら、カマドウマをそっと逃げがしてあげた。






桜さんは、あり得ない程に力と体力がなかった。山育ちの花子や茂の方がよほど丈夫だし力もあった。

「桜ねーちゃん、ウソだろ……」

竹雄の演技かっかた深刻そうな言葉に、桜さんは、震える自身の右腕を見ながら、「そんな…まさか…こんなことがあっていいのか…」と歴然の戦士が初めて負けを経験したように呟いているが、ただ単に茂に腕相撲をして負けただけである。
茂と腕相撲をしてあっさりと負け、二人とも?マークを浮かべ首を傾げながら、再度勝負をしてのこの台詞。

未来では機械に頼りすぎな生活が問題視されており、最近では体力作りのための運動が国から推進、補助などの対策を練っていたけれど、楽に慣れた習慣を正すのは難しく、日本どころか世界規模で国際問題になっている。だからしょうがないの、私は未来では平均の部類だったの…と言い訳のように話していた。



花のように、害虫が天敵で、そして、か弱い。
野に咲く一輪の花のように、人を優しく穏やかな気持ちにさせる。
色とりどりの花束のように、その場を華やかに明るくさせる。
笑顔は、咲き乱れた花々のように見つめたくなる。




まるで、《花そのもの》みたいな人だな、と思った。





※大正コソコソ噂話※
カマドウマ見たことない人は、絶対に画像検索しないでください。ゴキブリとかコオロギ、クモなんかが苦手な人は特に。興味本意から新しいタブをひらいて、カマドウマなんて検索しちゃだめですよ。


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