22:淡く育つ

「ふー…風がきもちいい〜」

町の入り口に木々が作り出す涼やかな木陰に、二〜三人が余裕で座れる大きな石。近くに一本だけ咲くライラックの木は、数十の紫色の花を咲かせ、そよ風に爽やかな甘さの香りをのせている。
おあつらえ向きの休憩場所でほっと一息。


「だらしないとこ見せて、ごめんね」

火照り顔を冷ましていた濡れタオルを取り、隣で水を飲む炭治郎君に頭を下げた。炭治郎君は優しい顔立ちにさらに優しさを含ませた。

「俺も休みたかったので、ちょうど良かったです」
「……ありがとう」

いい子だよなぁ、としみじみ思う。まだ12歳なのに、未来での同年の子よりしっかりっしているし気が利く。むしろ私なんかより大人だなー、と思うこともしばしば。

「……」

改めてじっくりと炭治郎君を観察する。
私よりほんの少しだけ小さな背丈。先ほど手を引かれた時に気づかされた、豆がつぶれ固くなり、炭焼きや家事で荒れた、働き者の手。長男だからと甘える事なく弟妹に愛情を注ぎ、母親を誰よりも気遣う。他人の私さえも助け、私も未だに頼り切ってばかりの状況。

「炭治郎君はさ、ちゃんと………、…。」
「?はい」

甘えたり、寄りかかったりできているのだろうか。
思い出されるのは、妹弟達の頭をなでる姿と、父の代わりに自分が家族を支えるのだと気を引き締める姿。けど、それは強制された感情ではなく、本人の優しさや強さから来る自然な想いなのは、この三カ月近くずっと一緒にいて、よく分かっている。


自然と手が伸び、赤みががった頭をゆっくりとなでる。

「桜さん?!」

山を四時間近く歩いても火照らなかった顔が、簡単に赤く染まった。無言で撫で続けていれば、炭治郎君は汗もかき始めた。


「炭治郎君はさ…」
「は、はい……」
「頑張ってて、えらいね」

固まっていた炭治郎君は赤い顔のまま視線をあげ、私をきょとんとした表情で見つめた。

「頑張ってる、ですか?」

撫でるの手を一旦止めて下ろし、頷く。

「うん、全部に対して。改めてえらいなー凄いなーって。炭治郎君は頑張ってるよ」

尊敬の念を込めて言葉を紡いだ。

「いつもありがとう」

どうやったら炭治郎君みたいな出来た子が育つのか。葵枝さんだけじゃなくて、お父さんも素敵な人だったんだろうと容易に想像がついた。

「…私は、まだまだ頼りないけど、これからもっと頑張るから。そしたら炭治郎君。たまには甘えてたり寄りかかったりしてね?」

恩返し云々より、頼って欲しいなって感情が強く先に出てくる。まあ、ある意味恩返しの一種ではあるんだけど。

私の言葉を聞いた炭治郎君は言葉を初めて聞いた赤子のように、ぽかんとしていた。その時、少し強めの風が吹き、木漏れ日の隙間から強い日差しが降り注ぎ、数秒間炭治郎君の表情を隠す。

風が止み、次に炭治郎君の顔が見えた時には、大切な何かを抱えるような優しい笑顔を浮かべていた。

「今も十分助かってますし甘えてますよ。母さんは楽になったって喜んで、禰豆子達も懐いて毎日楽しんでます。…家も、より明るくなりました。桜さんが家にいてくれて、…俺は幸せです」





「…………なんていい子なの!炭治郎君!!」
「わっわ、桜さん!」

感涙を浮かべながら炭治郎君をぎゅっと抱きしめ、頭をぐちゃぐちゃに撫でくりまわすと、炭治郎君の顔は茹でタコみたいに真っ赤になった。初めてみるうぶな反応が可愛いすぎて、さらに強く抱き締めてみると、今度は湯気まで出し始めた。

「桜さん…!」
「ふふっ!」

とりあえず、就活を頑張って、早くお金を稼ごう。そしたら、炭治郎君にたらの芽の天ぷらをいっぱい食べさせあげるんだ。






炭治郎君越しに見える、数本のライラックの木が無数の紫色の花を咲かせ、風にゆれていた。



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