21:300年差
マラソン大会とかで、最初に猛ダッシュして、最後バテる体力配分苦手なバカいるよね?それ私です。
「ねぇ、町まで、あと、どれく、……らい??」
「今、半分進んだところですよ」
山が珍しすぎてたからって、最初の内に体力を使いすぎてしまった。
額から流れ落ちた汗が地面にいくつもの染みを作る。脇腹を押さえ、ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、と荒々しい呼吸を整えながら聞いた質問の答えで心が折れそうになった。
「まじで?」
「まじで、です」
炭治郎君は心配そうに、少し休みましょうと背中を擦ってくれるが、その顔には疲れも汗もなく、呼吸の乱れもない。
「炭治、郎君、は疲れて、ないの?」
「?はい。長男なので」
何当たり前の事を?と副音声が聞こえそうな、きょとん顔で首を傾げる。
ん?あれ?今、私、疲れてないの?って聞いたよね?なぜに答えが「長男なので」?関係ないよね?その理屈で行くと、全国の長男さんは疲れ知らずになるよ?
たまに出る、炭治郎君の生真面目天然発言に、いつもなら何かツッコミ言葉を返すのだけど、その体力もなく、痛む喉に唾を流しこんで、そっか…と流す。
というか、ゆっくり歩いているとはいえ、もう2時間は歩いているのに全く疲れの色が見えないなんて……。
前々から思っていたけど、竈門家の皆、体力的な意味で可笑しいよね?
竹雄君は片手で薪割り斧を持ち上げるし、禰豆子ちゃんは指弾きでそろばん粉砕していたし、炭治郎君は犬みたいに鼻がいいし、癸枝さんは頭突きで猪撃退して、嬉しそうに今日はぼたん鍋ね、って笑ってたし。…ちょっとした恐怖である。
今まで、昔の人は凄いなって思考で誤魔化してたけど、やっぱりなんか違う気がする。と頭を傾げた。
その後も迷惑をかけないように死に物狂いで頑張ったお陰か、いつもよりだいぶ時間が掛かっただろうけど、なんとか無事に町へ到着。
「よーやぐ、づ、づいだ…」
「桜さん、口から泡が出てます!」
慌てる炭治郎君に、流れ落ちる汗と泡を袖で拭った後、にっこり(したつもり)顔で親指をたてグッジョブサインを送る。
「だ、だいじょーぶ。…さ、まちにいこー‥」
「だいじょーぶ。じゃない!顔が茄子色だ!休憩しますよ!!」
生まれたての小鹿みたいに震えてる足を見て、これ以上歩けないと悟ったのか、炭治郎君は私の腕を力強くひっぱり、休憩できそうな木陰に向かって歩きだした。
「………(はぁ…)」
引っ張られながら、結局迷惑かけてしまったなと意気消沈する。
でも、しょうがないの。まさか4時間もかかるとは思わなかったし、未来では未成年でも乗れるカプセル型の小型飛行車とか、自動スイスイ靴さえあれば、自力で歩くことなくどこでも行けちゃうから。4時間も歩き続けるなんて経験したことなかったの。未来人は昔の人みたいに体力がないんです……。……明日から体力作りしよ…。
※大正コソコソ噂話※
竈門家の住む曇取山から町までは、現在の登山コースなんかを参照に4時間程(ゆっくり歩いて休憩しながら)と推定しました。竈門家ならもっと速くつくし、炭治郎一人なら更にもっと速い。