23:就活
休憩を終え、町へと足を踏み入れた。竈門家が隣町と呼ぶここは、大正時代の町というより、江戸の雰囲気を強く残した下町のように見えた。電柱はあるものの木製の平屋が立ち並び、お店は看板の代わりに大きな暖簾。洋服の者はおらず、竈門家が着用しているようなタイプの着物の人ばかりで、町人の数も多いとは言えない。文明開化の進んだ大正時代の面影はなかった。
町に入りすぐに炭治郎君と共に町で炭を売り始めた。売りながら仕事はないかと聞いたけれど、なかなか見つからない。
夕暮れまでにはまだ時間はあるけれど、私の鈍足を考慮し日が暮れる前に家に帰るなら、そろそろ町を出ないとならない時刻に迫っていた。
「おーい!炭治郎!こっちにも炭をくれ!」
活気に溢れ声高に呼ぶ声。顔にホクロがたくさんある五十歳前後の男性が、駆け足で近寄ってきた。
「北路(ホクロ)おじさん。残り二つだけど足りるか?」
「おぉ、売り切れちまう前でよかった!残り全部くれ……ん?こりゃーまた……、べっぴんな嫁さん貰ったな!」
「え?あ、ち、ちがう!桜さんは」
「昨今、竈門家に嫁入りしました桜です。よろしくお願いします」
「桜さん!!」
「ははっ!ノリのいいお嬢さんだ!」
いたずら心を出せば、真っ赤な顔で否定する炭治郎君。北路さんは、私と炭治郎君の反応で冗談と気づいたのか豪快に笑った。
(うぶな年下の男の子を揶揄うのって面白いかも…)
なんだかクセになりそうな感覚だったけど、これ以上調子にのると嫌われてしまうかもしれないので、そっと止めておいた。
「北路さん、今働き口を探しているのですが、なにかお仕事はありませんか?」
お金を支払い帰ろうとする北路さんに声をかけると、北路さんはしばらく考えこむ。
「今は、人手足りねぇって話は聞かねぇーなー。ま、べっぴんさんの頼みだ!小耳に挟んだら教えてやるよ!」
「ありがとうございます」
就活は難航中。すぐにでも見つかると思っていたんだけど、と、ため息の一つでもこぼしたくなった。
「桜さん、そろそろ帰りましょうか」
「うん!」
炭治郎君が背負いなおした竹籠の中は、炭を売り切ったから空であるはずなのに、今は野菜やちょとしたお菓子が籠半分程入っていた。その理由は二つ。
「炭治郎やぇ、帰るのかぇ?気をつけてな」
「炭治郎、今度家族皆で食べにおいで!おまけするよ!」
「炭治郎ちゃん、こないだは手伝ってくれてありがとうねぇー!」
一つは炭治郎様のお陰である。
今日一日一緒にいてよく理解しました。炭治郎様の人徳はすでに町に浸透しているのであると。
「ありがたや」
「……なんで俺を拝んでるんですか?」
「いえ、なんでもありません炭治郎様」
「様?」
それともう一つの理由は……。
「桜ちゃんまた来てね!僕ちん待ってるから!いつまでも待ってるから!!」
ある男性の熱い視線と桃色の声に苦笑い気味で返す。最近の若い人は都会に出てしまうそうで、嫁・旦那不足なのだとか。もはや、誰でもいいから!嫁にきてくれ!という危機迫った必死さを感じる。こーゆうタイプは母親とダックを組まれるとよりややこしくなるので、逃げるが勝ちである。
「桜さんのおかげで、今日はいつもより早く売れましたよ」
「そんなことはないです…けど…」
確かにあの人は炭を多めに買ってくれたし、お菓子も沢山もらったけれど、なんだか、同情するなら仕事をくれ。な気分である。