147:三人それぞれの関わり方

「真っ白に鬼に間違えられて、戦いを吹っ掛けられたんだけどよ、最初は勝負しごたえがあったのに急に弱くなって、俺が鬼じゃないって気づいてから勝負しなくなったから、俺が勝つまで《鬼を探して倒す旅》ってのに付いてってやった」
「それストーカーじゃん?!!てか、桜ちゃんは元気なのか?!」
「元気かは知らん!!」
「はぁあ?!少しくらいはわかるだろ?!桜ちゃんは泣いてたり怪我したりしてないのか?!」
「泣いてるのは見たことねぇが、いっつも血ながしながら暗い顔してたぜ!!」
「大問題!!!」
「伊之助!桜さんとこの間まで一緒だったと言ったが、それはいつの話だ?」
「この間だ!」
「だからそれはいつだよ?!何年何月何日何曜日で、どれくらいの間桜ちゃんと一緒に居たかって聞いてるんだよぉお!!」
「細かい日時なんて覚えてるか!この間ったらこの間だ!!」
「もうやだこの猪!!大雑把にも程があるだろっ?!」
「季節はいつだ?秋か、冬か?」
「季節は変わってねぇよ。今と同じ冬だ」
「最終選別の前と後どっちだ」
「前だ。真っ白に最終選別の話を聞いた」
「桜さんは今どこにいるか分かるのか?」
「最終選別の話した後にいつのまにか消えてたんだよ!!うがぁー!今思い出しても腹立つぜ!!まだまともに勝負してないってのによ!」

最終選別は12月末。季節が変わっていないという事は、ここ2〜3カ月以内の出来事だ。

「それと、伊之助…。さっき花を枯らすって言っていたが、それは本当か?花を咲かすの間違いじゃないのか?」
「そうだ!かわいい桜ちゃんが花を咲かすならまだしも、枯らすわけないだろっ?!嘘つくなよ!!」
「あぁ?!嘘じゃねぇ!」

黒く光ってばぁーってやった。と身振り大きく話す伊之助から、嘘をついている匂いはしない。実際に見た光景を話す口ぶりからも見間違いではないように思えた。

(幸せだと笑って花を咲かしていたのに、いつも血だらけで、暗い顔で…、花を枯らす…?)

焼きつくような焦燥感に胃の内容物が全てせり上がりそうになった。早く桜さんを見つけないと、取り返しのつかない事態になってしまうかもしれない。いや既になりかけているのかもしれない。

「善逸。善逸が知ってる桜さんの事について全て教えてくれ」

桜さんを心配に想うばかりに、早口になった問い。善逸は不安そうに眉を寄せた。

「それよりさ、先に炭治郎が知ってる桜ちゃんについて話せよ。さっき桜ちゃんが亡くなってる?鬼?って言ってたよな……どういう事だよ」

善逸の疑問はもっともだ。珍しく聞く姿勢をとる伊之助にも分りやすいように簡潔に話をした。

「二人には話しただろう?2年前の12月、俺が留守にしている間に家族が殺され、禰豆子が鬼にされたと。殺された家族の中には、……桜さんもいた」
「!!さっきも言ったけどさ、桜ちゃんはちゃんと生きてた!温かったし、ご飯も食べてたし、汗もかいてたから、死人なんて思えない!」
「真っ白は血の通った生き物だったぜ」
「桜さんは、俺がこの手で埋めたから間違えるはずがない…」

右腕は切り落とされ、胸には風穴を開けて、父さんの部屋で息絶えていた桜さん。死の場面とあの時の心情が思い出され、震えた弱々しい声が出てしまう。

「人違いってことは…」

善逸の俺を気遣うような言葉に、首を横に振る。

「人違いなんかじゃない。善逸の知る桜さんが家族絵を持っていた事が何よりの証拠だ」

この世に2つしかない誕生日の贈り物が、まさかこんな形で繋がるとは思ってもいなかったが。

「禰豆子のように鬼になったのかと思ったが、それは違うんだな?」

再度確認するように言えば、二人ははっきりと頷いて見せた。

「真っ白は鬼じゃなかったぜ」
「もちろん!断言できる!桜ちゃんは人間だった」
「そうか…。俺が話せるのはこれくらいだ。……善逸、教えてくれ。桜さんに何があって、何と言っていたのか」

善逸は、真剣な顔つきでちょっと長くなるけどと言って語り始めた。

「桜ちゃんが八王子の山の中で泣いてるのを見つけたんだ。炭治郎が話した、桜ちゃんの死から数カ月後のな。それから2〜3カ月くらいは近くに住んでたから何回か会ってた。その中で、炭治郎と禰豆子ちゃんについて聞いた事があってさ、桜ちゃん言ってた。事情があって離れ離れになってしまった。炭治郎と禰豆子ちゃんは自分が死んだと思ってる。だから、ずっと探し歩いているんだって」

未来からきた桜さんが、この時代を探し歩くのは相当苦労しただろうに、それでもずっと俺と禰豆子を探し歩いていた。その真実だけで、心臓がぎゅっと苦しくなる。

「それから桜ちゃんと別れたんだけど、数か月後に再会したんだ。その時はすでに、桜ちゃんは鬼殺隊になるために、爺ちゃん…元鳴柱の育手の元で修業してた。戦う理由を聞いたら、炭治郎と禰豆子ちゃんを守るため。皆の仇を討つため。って言ってた」
「桜さんは、俺と禰豆子を守るため…、家族の仇を討つために、鬼殺隊の道へ進んだのか…」
「あぁ。修業の間も何度か、炭治郎と禰豆子ちゃんを探してたのを見た事がある。爺ちゃんの伝手頼って手紙出したり、聞き込みしたり…。色々あったけどさ、俺が修業を始めてしばらくは順調だったよ。……だけど、去年の8月。爺ちゃんが出かけてるときに、近くに鬼が出たんだよ。それで、俺と桜ちゃんが代わりに退治に行ったんだけど、俺弱いから鬼の攻撃に気絶しちゃって……。……気付いた時には桜ちゃんは、手紙だけを残して消えちゃったんだ」
「桜さんは無事だったのか…?怪我はしていないのか?手紙には何か書かれていなかったのか?」
「何があったか分からない。手紙に鬼は倒したって書いてあったけど、それ以外の事は何も書かれてなかった。…だけど…。うろ覚えだけど最後に桜ちゃんが言ってた言葉がある」

善逸は、下を向き顎に手を当て、思い出すようにゆっくりと話し始めた。

「炭治郎君と禰豆子ちゃん、皆のためにっていったけど、全部、私のせいだった。私が幸せを壊した。なのに、死にたくないって言って悠長にいって。今までの事全部……無駄だったのかな。……みたいな事言ってた。すごく辛そうで、こっちまで泣きたくなる音だった。……だから、俺、桜ちゃんを探すためにも、鬼殺隊になろうって、思った。もしかしたら居るかもしれないと思って、最終選別にも行った。まあ、桜ちゃんは居なかったし、俺も気付いたら運よく生き残ってただけだけどさ」

思わず「はっ?」と荒げた声がでてしまう。桜さんのせい?桜さんが幸せを壊した?違う!全ての元凶は鬼舞辻無惨で、桜さんのせいなわけない!!

「そんなわけないだろう?!」
「俺に言うなよ!俺だって桜ちゃんが何か勘違いしてるとしかおもえないと思ってるよ!!」

その鬼に何か言われたのか。何かがきっかけで桜さんは思い違いをして、自分を追い込んで、そして鬼を倒す旅に出て、傷だらけになっている?大切な人が今もどこかで苦しんでいるのに、今すぐ何とかしたいのに、何も出来ない無力感から後悔が漏れ出る。

「もっと、早く気付いていれば…」

自分へ向けての遣る瀬無い言葉だったのだが、善逸は状況的に自分に言われていると思ったのか眉を下げた。

「いやだってさ…桜ちゃんから聞いてた二人が、まさか鬼殺隊員と鬼になってるなんて思わないだろ…。それに桜ちゃんに話を聞いた時は、13歳の炭治郎君と12歳の禰豆子ちゃんだったから、その年齢のままの印象だったしさ。家族絵だって一回しか見てない。男の話なんて覚えてるわけないし、禰豆子ちゃんが鬼になってるとか普通考えつくか?俺も探してたんだよ!ずっと、ずっと」
「あ、いや。すまない。善逸じゃなくて、俺自身に言ったんだ。善逸には感謝している。思い出してくれて助かった。ありがとう」
「ど、どういたしまして?!次!伊之助!お前が知ってる桜ちゃんのこと話せよ!」
「あぁ?さっき言っただろうが!!」
「お前のは情報が少なすぎなんだよ?!」

二人が騒ぐように言い合っている横で、今俺が出来る事がないかと必死に考えた。桜さんをすぐにでも探しに行きたいが無闇矢鱈に行動しても、良い結果は何も生まれないだろう。
桜さんが生き返った、泣いて山の中にいた、俺たちを探し歩いていた、白くなった髪と目、怪力、鬼殺隊を目指した理由、消えた理由、花を枯らす。与えられた情報に糸口がないか思考していると、畳の上で寝転がっている禰豆子が、桜さんに貰った家族絵をじっと見ているのが見えた。

「そうだ……」

まだ確かめていない事、場所が一つあったと気付き、はっとして立ち上がる。畳の上で寝転がっていた禰豆子に、行くぞと声をかけると、禰豆子は小さく頷いてから箱の中に入った。急いで箱を背負い、二人とお婆さんに、少し出かけてきますと声をかけ、外へと駆けだした。

「なんだ!山まで勝負か?!」
「えぇ?!炭治郎待てよ!どこ行くんだよ!!」

追いかけてくる二人を振り返り叫んだ。

「家だ!」



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