134:本当に欲しかったものは、帰る場所

「善逸くんは、どうしたい?」

見捨てる事も、押し付ける事もしてこない、俺を気づかった桜ちゃんの言葉が、胸に優しく溶けていく。

きっと、俺がこの後逃げても、桜ちゃんは何も言ってこないだろう。「そっか」と言って微笑むだけだと思う。でもそれは、俺を見限るという事ではなく、俺の事を想った上での発言だから、その後も普通に友人として接してくれるのだろう。

だけど、その反面、俺には、成し遂げられる未来があるのだと言ってくれている。俺が夢見たような未来に手を差し伸べてくれている、俺自身を望んでくれている。
それが、どれだけ優しくあたたかさに満ちたことか、どれだけ俺が望んでいたことか、どれだけその言葉が嬉しかった、桜ちゃんはきっと気付いてないのだろう。



(俺は、どうしたいか…)


俺には夢がある。
弱い人や困っている人、泣いてる人を助けて守ってあげれる身も心も強い人で、皆から必要とされ、毎日のように感謝される。俺とは正反対の性質を詰め込んだ人間になりたいという夢が。

だけど現実の俺は弱くて、すぐに泣いて、失敗すると相手の反応が恐くてすぐに逃げた。誰からも必要とされたことはないし、自分に浴びせられるのはいつも罵声と幻滅の声だけ。こうなりたいと思って努力をしても、すぐに結果が出ないから飽きるし、嫌になって中途半端に投げ出したりもした。

妄想の中では女の子をピンチから救ったり、沢山の人から賞賛を向けられているのに、現実では、女の子に騙されて、借金取りから夜逃げしてるだけですし。妄想と現実の乖離が激しいのは百も承知だ。

今回の事だって、桜ちゃんを借金取りに巻き込むつもりはなかった。ただ、桜ちゃんに会いたかっただけなんだ。それなのに、巻き込むどころか、遊郭に売り飛ばされそうにまでなった。
桜ちゃんを助けなきゃと心では強く思っているのに、口も身体も思う様に動かない。唯一出来た事と言えば、お得意の逃げることだけ。
桜ちゃんは、必死で俺を庇って守ってくれたのに。なのに、俺ときたら………。





………そんな、俺でも、変われる事ができるだろうか。





桜ちゃんが、桑島のじいさんを見た時の、あの安心しきった顔を、俺にも向けてもらえるようになるだろうか。誰かに必要とされるだろうか。誰かを笑顔にすることが自分にもできるだろうか。




変わりたい。

俺は、ちゃんとした人間になりたい。





「俺はーー」


俺が出した答えに、桜ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔を見せた。









※大正コソコソ噂話※
善逸が桑島さんに恩義を感じ、家族として愛している描写は原作にしっかりあるので、その部分はこの連載では書きませんが、原作と同じ様にこの連載の善逸も桑島さんに感謝をしています。


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