133:どうしたい?

竈門家の秘密のあの場所と似た、少し開けた小高い山の中腹。甲府盆地を見下ろせる場所で、先程購入した花達を空へとばら撒いた。
色とりどりの花達は、風に乗りどこかえと飛んでいく。想いをのせた花が皆の元に届きますようにと、静かに祈りながら見送った。




「今日ね、皆の命日なの」

後ろで静かに私を見守ってくれている善逸くんに背を向けたまま、空を見上げながら話しかけた。

「命日?」
「前に話したでしょ?私を助けてくれた、竈門家の皆の」
「桜ちゃんが一緒に暮らしてた、家族」
「そうそう。葵枝さん、竹雄くん、花子ちゃん、茂くん、六太くん。皆ね、びっくりするくらいあったかい人達だったんだよ。世界を優しさで救えるなら、間違いなく竈門家だけで世界を救えるレベルだから」

竈門家と過ごしてきた記憶は幸せなものばかりなのに、最後の最後で、思い出を書き消すように、どす黒い怨念と憎悪が渦巻いている。


「皆はね、……鬼、に殺されたの」


それから私は、しる限り全ての事を善逸くんに話をした。始まりの鬼舞辻無惨。鬼は人を喰い、不死身に近い存在。倒せるのは陽光と日輪刀のみ、鬼殺隊、柱、育手。そして、竈門家の惨劇の日の事、桑島さんに弟子入りするまでの旅路で感じた事。


話は長くなってしまったけれど、善逸くんはいつもと違う真剣な眼差しで聴いていた。


「……………死んでほしくなかった、守りたかった、助けたかった。私にあの時力があれば救えたかもしれないって、何度も考えた」

過去に戻ってあの悪夢をやり直せたらどんなにいいだろうか。そしたら絶対に、今度は皆を死なせない。だけど、それはどうしたって叶わない。

「だから、皆の仇を取るためにも、炭治郎君と禰豆子ちゃんがこれ以上辛い目に合わないためにも、私は戦う事を選んだんだ」
「それが、桜ちゃんが鬼と戦う理由なんだ。だけどさ、怖くないの?…だってさ、死んじゃうかもしれないんだよっ?」

心配から語尾が若干強まった善逸くんの問いかけに、囁くような声で答えた。

「…怖いよ。すごく怖いけど、諦めた時の方が怖いかな…」

皆の事を忘れてしまいそうで、炭治郎君と禰豆子ちゃんと二度と会えなくなりそうで。

「だから、私は戦う。泣いたって、弱音を吐き出したって、未解決の問題を後回しにしたって、立ち止まって逃げたって、諦めさえしなければいい。その進んだ先に、きっと未来があるから」

この事を決意するきっかけをくれたのは、善逸くんだよと意味を込めて微笑むと、善逸くんはなんだか泣きそうな目で下唇をかんでいた。

「桑島さんが言ってたように、善逸くんには、誰かを助けてあげれる力があると思う。桑島さんがあんなに力強く推すなんて、よっぽど才能があるんだよ。私は、善逸くんが鬼殺隊になったら、きっとその誰よりも早い足で、沢山の人の窮地に駆けつけて、沢山の人の命を救えるんじゃないかなって思うんだ」

なんでかな。弱虫で泣き虫で女好きで困った所もあるけど、善逸くんが鬼殺隊になって、色んな人を助けてる姿が容易に浮かぶんだ。誰かを守れるかっこいい男の子として。

「だけど、鬼殺隊になれって言ってるわけじゃないの。鬼はすごく強いから、戦いの途中で命を落としちゃことだってある。そう考えると、善逸くんには、平和に暮らしていて欲しいて気持ちもある。だから俺は関係ないって、このまま逃げてもいいって思ってる。桑島さんには私から言っておくよ」

そう言ってから善逸くんを見ると、私の視線を感じたのか、ずっと何かを考えるように下を見ていた善逸くんがゆっくりと顔を上げた。戸惑うような視線と交わった直後、善逸くんに問いかけた。

「善逸くんは、どうしたい?」



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