132:師範の師範は弟子似??

桑島さんはその場で善逸くんの借金を現金一括で支払い、中身を確認した悪徳金融の二人は、「毎度あり。またご贔屓に」と言って、約束通りあっさりと帰っていった。この間、たった30秒間の出来事である。
あまりのスピード解決に善逸くんと二人で唖然としていると、桑島さんはさらに衝撃発言をする。

「善逸といったかの?儂の弟子にならんか?」
「弟子?」
「え、桑島さん、」
「桜との会話を聞いてて分かった。善逸、音がよく聞こえるんじゃろ?」
「音…?」
「な、なんで!!」

善逸くんの驚き方は、肯定を意味していた。桑島さんは何かに気付いた様子で、一人頷く。

「やはり…師範と同じじゃな」

桑島さんは改めて善逸くんの前に立ち、杖をカンと鳴らした。

「善逸、お前には才能がある!」
「……俺に才能?」
「あの逃げ足の速さ、そして音。鍛えれば、儂より強くなるかもしれんぞ」
「ん…桑島さん、ちょっと話遮りますけど、あの逃げ足の速さってことは、私達が逃げ回っているのを見ていたってことですか?それになんで、あんな大金持っていたんですか?家に出る時は持ってなかったですよね?あと、私と善逸くんの話をきいていた?………いつから私達を見てたんですか?」
「桜が、善逸を蹴っておった男を吹き飛ばしたあたりかの?それから呼吸を使って一度家に帰って金を取ってきたんじゃ」
「私が吹き飛ばした………って!すっごく、初期の段階じゃないですか!」

勿論感謝はしているのだけれど、もっと早く助けに入ってくれても……という思いが顔に滲み出ていたのか、桑島さんは「正義は遅れて登場するものじゃろ?」と茶目っ気たっぷりに笑っていた。

「それで、善逸。どうじゃ?鬼殺隊になれば、女子にモテるぞ〜」
「桑島さん、善逸くんは鬼や鬼殺隊について何も知らないんです」
「おおぉ!儂としたこが!まず鬼とはな」

鬼について説明を始めた桑島さんに、思うところがあって、待ったをかけた。

「桑島さん。鬼や鬼殺隊については、私から話したいのですが、…いいですか?」
「桜がか?もちろん、かまわんが…」
「ありがとうございます!あ、あと借金の立替よかったんですか?結構な額でしたけど…」

桑島さんがかなりの額を蓄えているのは知っているし、見知らぬ人であっても困っている人がいたら、なんの見返りもなく助けてしまう人だというのは、この半年で幾度となく見てきた。
だからこそ私がこの町にきて、桑島さんの聞き込みをした時、町の殆どの人が桑島さんの事をしっていたのだ。「顔は怖いけど優しい人」だって。

けれど、今回はさすがに気軽に払えるような金額でもない。伺うように確認をすれば、桑島さんは見栄など欠片も感じない、嘘のない顔で笑った。

「柱時代の蓄えじゃ。大した額じゃないから、返そうなんぞ思わんでよい」

善逸くんと一緒に、桑島さんへ何度もお礼を伝えた後、善逸くんの両手を取って向き合う。

「善逸くん!これから、ちょっとだけ私に付き合ってくれない?」
「え!付き合う?!!も、もちろん!!喜んで!!!!」

明らかに「付き合う」を誤解している善逸くんに、静かに訂正を加えた。

「…………訂正するね。私の用事に付き合ってくれない?」





※大正コソコソ噂話※
捏造設定
桑島幕伝(まくでん)さん。
桑島さんの師範、かつ元鳴柱。数十年前に他界されている。線が細く見た目は病弱そうな美青年。任務に乗り気じゃなく、仕方なくやっている部分もあったけれど、当時の柱の中では一番強かった。桑島さんと同じ名字なのは、鬼関係で天涯孤独になった桑島さんを家族として迎え入れたから。

善逸と似ており、自覚なしの才能持ち、耳がよく聞こえ、(逃げ)足が速く、自信がなくかなり気が弱かった。だけど、やる時はやる男。善逸と違う部分は、女性が苦手だったこと。


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