10:ワタシノカミサマ

微睡みの中、春のお日様みたいにぽかぽかとあたたかい気配がした。泣きたいくらいに優しくて、心地良い。もっとその優しい温度に縋りたくて、手を伸ばす。

「……え?」
「……あたたかい」

ゴツゴツと硬いけど温かいそれを頬に当ててほっとする。じっくり堪能しつつ、ぼんやりと目をあけて温かい気配の元を辿ると、小中学生くらいの額に痣のある少年が、ぽかんと目を見開き顔を赤く染めていた。

「……」
「………」
「…………」
「あ!お兄ちゃんがおねえさんに手をだしてる!」
「ほんとだ!」
「やらしー」
「やらちー」
「ち、ちがーう!!!」

見れば、小学校低学年と幼稚園ぐらいの子達が、痣の少年を揶揄うようにじゃれついている。痣の少年は赤い顔のまま否定しているけれど、下の子達は反応が面白いのか更に楽し気に騒ぎだした。
…なんと、癒される光景なのだろう。温かい気持ちで眺めていると、襖がバンっと音を立て開いた。

「みんな、病人の部屋で騒がないの!」
「「「ごめんなさーい」」」
「……目覚めたばかりなのに、騒がしくてごめんなさい。…お身体は大丈夫ですか?」

頭上から私を覗いたのは、天使でした。いや、とんでもない美少女でした。年齢は10歳〜12歳頃だろうか?幼い顔立ちながらも、均衡の取れたパーツは一つ一つが可愛らしい。

「はい…、大丈夫、です」

半ば恍惚したように頷くと、心配気に揺れていた桃色の瞳は、安堵に変わる。

「良かったです。おねえさん、14日間も眠っていたから…」
「14日…?」

え、14日間眠っていた…?なんで?というか、ここはどこなの?この子達は誰?私は何をしていたんだっけ?
起きたばかりのぼんやりとした思考が徐々にはっきりし、覚醒する意識と共に記憶が甦ってくる。



たしか、授業で歴史博物館にいて、気付いたら彼岸花だらけの場所にいて、それから…、明治大正の町みたいな所で、…森で、男の人に、殺されそう…に。……あぁ、そうだ思い出した…!私は殺されそうに死にそうになっていたんだ!

「あ、わ、わたし死にたくない、痛いのはもう嫌…」

恐怖の記憶に囚われ、自身を守るように頭を抱え込む。周りで小さな子達が心配している気配はわかったけれど、気にする余裕もない。
過呼吸気味になった時、ふわりと左肩と背中に温もりを感じた。そこから湯船に浸かるように、じんわりと暖かさが伝わる。

「もう大丈夫ですよ、貴女は助かりました。生きています」

痣の少年が安心させるように背中を優しくぽんぽんとたたき、慈悲に満ちた仏のように強く微笑んだ。

「…あ、」

自然と一筋の涙が流れた。

朧気ながらもちゃんと憶えている。痛くて、寒くて、苦しくて、辛くて、地獄のような場所で死んでしまいそうになった時、この優しく温かい少年が助けくれた事を。死にたくない、と言ったら、必ず助けますと誓った少年を。

「……貴方の名前は」

「俺は、竈門炭治郎です」

神様を信仰する人の気持ちが少しだけ分かったかもしれない。
地獄から救い上げてくれた恩人に、涙を溢しながらありったけの感謝の気持ちを込める。

「…炭治郎君、私を助けてくれてありがとう」



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