124:鬼、とは

聞きたい事が沢山あって、でも何から話そうか分からなくてもたついている私を一旦落ち着かせた桑島さんは、治療がてら話を聞こうかと、二人が暮らす家へと案内してくれた。








家はそう遠くない場所にあった。果樹園と言える程の一面に広がる桃の木々を抜けた先にある、竈門家より2〜3倍程大きな木製の家。開けた見晴らしのいい山の中腹あたりにあり、盆地の地形の関係で、村や町、川、森などが一望出来た。
ここの地域一帯は桃の産地として有名で、収穫の時期に合わせたお祭りは沢山の人で賑わうらしい。今は時期ではないので町は閑散としていると桑島さんは話していたけれど、ここから見下ろした先に見える町の人々は、隣町の何倍も多いように見えた。

先程通ってきた所にあった桃は桑島さんが意図して作ったのではなく、昔から生えていた自然の桃で、品種的に今の時期もギリギリ収穫が可能らしく、今も普段の食料として重宝している。梅雨から晩夏の間は家の中には常に桃があるのだと桑島さんは私の治療をしながら話してくれた。だから、家の中にまで桃の香りが染みついているのかと、鎮痛薬入りの白湯を飲みながらぼんやりと思った。









「先ほどは取り乱してすみません。それと助けてくれてありがとうございます」

治療を受け後、居住まいを正してお礼を伝えれば、桑島さんは目つきと正反対の、安心させるような優しい微笑みを浮かべた。

「気にするでない」
「本当に、本当にありがとうございます。……あの、貴方も助けてくれてありがとうございます」

同じ部屋の隅で、桃を食べながら外を見ていた男の子はこちらをチラリと見て、ハッと嘲笑う。

「助けたわけじゃねぇ。勘違いするな」

言葉には冷たさが含まれていて、決して照れ隠しで言っている訳ではないのだと、ありありと伝わってきた。敵意を感じる様子に困惑していると、桑島さんは宥めるように彼の名前を呼んだ。

「獪岳。威嚇するでない。すまんの、桜。儂の弟子の、獪岳じゃ」

紹介された獪岳さんは、私に視線を合わせる事なく無言を貫いている。桑島さんはしょうがないなとため息をついた後、私に問いかけた。

「聞きたいことが、あるんじゃな」

慎重に頷いて、ゆっくりと言葉を一つ一つ吐き出した。

「すごく、すごく…大切な人達を、……鬼に、…殺されました」
「そうか…。それは辛かったの…」
「……。……、………。すみ、ません」
「ゆっくりでよい」

桑島さんの優しさに刺激され、竈門家の皆の思い出が蘇り、涙が溢れそうになる。無言のまま目頭を押さえ、泣かずに話さなければと感情を抑え込み、少しだけ震えた声で続けた。

「二人生き残ったのですが、離れ離れになってしまって……。その子達を探すために、皆を殺した鬼を…倒すために、お世話になった場所を離れたのですが……」

半年以上が過ぎたけれど…色んな事があった。自分の事、鬼の事、これからの事、見つからない炭治郎君と禰豆子ちゃんの事。

旅路の途中、一気に最終目標である、強くなって仇を打つ。からではなく、まずその第一段階として、《鬼を知ために、鬼狩り様を探す》という目標に変更し旅を続けてきたけれど、

「鬼って何ですか…」

それが今、叶おうとしている。

「なんで人を襲うのですか」

ようやくこぎ着けた目標に、歓喜と緊張と不安で震えている両手を、抑え込むように強く握りしめた。

「お願いします。教えて下さい、鬼について」

私は、私が立ち向かっていく存在を知る必要がある。


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