123:の2!

気が付いた時には、老夫婦の家の布団の中だった。

3日間寝ていたのよ、目が覚めてよかったわ。と言って涙ぐんだ老夫婦は、寝起きで状況の掴めない私に順を追って説明してくれた。


3日前の明け方近く。カマキリ鬼に襲われていたあの女性が「化け物が出た。助けてくれ」と家に駆けこんできた。治療をしながら話を聞けば、自分を助けて逃がしてくれた髪と目の白い女の子がまだ襲われている。そう聞いた老夫婦は、すぐに私の事だと気付いたらしい。急いで村の比較的若い男達を叩き起こし、鍬や鎌の農具を持って山へと駆け込んだ。
化け物らしき姿はどこにもなかったけれど、根っこから引き抜かれた木々が散乱しており、人間の出来る事じゃないと戦々恐々しながら進んでいくと、不自然に枯れたフジの花の近くで血だらけで倒れている私を発見し、今に至る。そう話した老夫婦は、本当に生きていてよかったと、再度胸を撫でおろしていた。
老夫婦にお礼と化け物はもういない事を伝え、あの女性はどうなったのかと聞けば、女性は「すまなかったと、伝えとくれ」と言って、私が目覚める数時間前にこの村を出て行ったそうだ。

全てを話終えた老夫婦は、今は何も考えずにゆっくり休みなさいと、優しい言葉を残し部屋を出ていった。









「…………」

布団に横になり目を閉じると、あの時の事をはっきりと思い出せた。

鬼の手足を砕き身動きが出来なくなった後、首を押さえ続け、陽光に晒して殺した鬼。生きながら火だるまにされたように苦しみ喘ぎながら死んでいく様と絶叫が、頭の中で何度もリフレインするのを、止まれと念じながら頭を抱え布団の中で丸まる。



私は、覚えている。左腕の鬼の時とは違って、意図的に殺した事を。殺そうと思って殺した事を。



こんな、狂気じみた殺人者がするような事をしてしまったと知ったら、未来の家族や……竈門家の皆はどう思うだろうか…。

「あんな残酷な事をする人間は私の娘じゃない」「俺の姉ちゃんはあんな事しない!こっちに来るなニセモノ!」「桜おねえちゃん怖い…」「桜さん、貴女は最低だ」と責め立てる未来の家族や竈門家の虚像に「でもしょうがなかった」と繰り返し呟いた。

途中までは確かに話し合いで何とかなればと、まだギリギリ冷静な自分を保てていた。けど、あのカマキリ鬼の「もしどこかに隠れてたり逃げたりしたら、代わりにお前の大切な人間殺して喰ってやるからな」と言う脅しを聞いてから、自分が自分でないような感覚に陥ったのだ。

直後に見た、炭治郎君と禰豆子ちゃんが殺され地面に転がる、五感に直接訴えてきた、あの現実味をおびた幻覚。今思えば、血海の上にはあったのは禰豆子ちゃんの着物と羽織だけだったし、炭治郎君の服装も見たことのない格好で、二人とは無縁な折れた刀まであって、違和感やおかしな所は沢山あったはずなのに、あの時は確かにそれが事実だと思い込んで、二人を傷つける全てをコロスという思考に囚われた。翌日までにカマキリ鬼が炭治郎君と禰豆子ちゃんを殺せる可能性などゼロに近いというのに…。



「はぁ……」

殺したくない、死にたくない、けど、殺さないと新たな被害を生む事になるし、死なないと強くなれない。鬼を殺せば罪悪感で心が締め付けられ、痛みに脆い身体が怪我することを拒絶する。こんな矛盾だらけで、皆を殺した鬼に復讐する事など出来るのだろうか。心が音を立てて崩れていく感覚を無視して、布団から手を伸ばし、枕元にある荷物の中から、私が描いた竈門家のイラストを取り出してじっと見つめながら、善逸くんに花を貰った時の事を必死に思い出した。

《泣いてもいい、弱音だって吐き出してもいい、未解決の問題を後回しにしたっていい、立ち止まって逃げてもいい、諦めさえしなければいいんだ。不幸に浸ることなく私に今出来る事を少しずつ精一杯やっていこう。諦めずに進んだ先に、未来があると信じて》

「…大丈夫、私は大丈夫…。まだ頑張れる…。諦めることだけはしないから。……だから、どうか無事でいてね。炭治郎君…禰豆子ちゃん…」

竈門家のイラストと薔薇の首飾りを抱えながら、また眠りについた。


















その後、怪我は完治はしていなかったけれど、長居はご迷惑になると思い、数日後に旅を再開した。そして、より慎重になった旅路を続けて二カ月近く。ようやく柱の方がいるかもしれない土地へと辿り着いた。
長い道のりだっただけに、土地に足を一歩踏み入れた瞬間、達成感で感動のあまりに泣いてしまったけれど、すぐにこれからが正念場だと気を引き締めた。

なにせ、お婆さんが言った「柱の方が住んでいるかもしれない家」のおおよその場所は、八王子の半分くらいの土地の広さを指していたので、ピンポイントな場所までは分からないのだ。更に、今も柱の方がここにいるかも不明。情報が何一つ掴めないまま「何の成果も得られませんでした!!」な結果に終わってしまう事も考えられた。これは今まで以上に根気のいる聞き込みになりそうだと懸念したけれど、意外にも半日で聞き込みは終了した。

なぜなら、聞く人の半数以上が柱の方の名前を知っており、「柱や鬼狩りは知らないけど、その人なら、今もあの山の中腹に住んいる。目つきは悪いがとても親切な人だ」と口々に言ったからだ。


ようやく会える。ようやく本当の一歩を進める。


今までにない成果に気が逸ったのと、竈門家を出てから半年以上をとうに超えているという焦りの気持ちが、失敗を招いたのだろう。少しでも早く会いに行こうと前だけを見て足早に進んだのが原因だったのか、気付けば柱の方に会いに行く山中で道に迷ってしまっていた。


「ど、うしよう…ここどこだろう…」

八王子のような都会と違って何の目印もなく、植物や森林、果木ばかりが続き、どちらから来たのか、どちらへ行けばいいのか、皆目見当がつかないレベルまできてしまった。完全な遭難だ。あれ?と思った時に引き返すべきだったと後悔しても遅く、既に日も暮れてしまっている。
役に立たなくなった地図をしまい、どこか休めそうな場所を見つけて野宿するしかないと、歩きを再開した。

季節は初秋に差し掛かった晩夏の時期。フジの花の開花時期はとうに過ぎており、もしもの際の逃げ場所はないけれど、過去の野宿で鬼に出会ったのは、左腕の鬼と花子という鬼の子の2回だけ。目的地まであと少しなので、どうか、どうか鬼に遭遇しませんようにと願うも、月と空が望める広めの場所に出た時、鬼と遭遇してしまった。


月光を浴びた鬼は、鬼というより、西洋の化け物のトロールに近い風貌をしていた。
二メートル以上ある革色の図体は、筋肉と脂肪でずっしりとしている。薄汚れ擦り切れた羽織は小さく、丈が胸あたりまでしかない。こん棒に見える大木を手に持ち、言葉にならないうめき声を上げながら、ご飯の時間だと喜ぶ子供のように大木を地面に叩きつけている。
鬼に遭遇してしまった恐怖を感じながらも、私は鬼の動きを見て、少しだけ安堵してしまった。それは鬼の動きがとても鈍重で、一つ一つの動作がスロー再生のような速度だったからである。この鬼が一歩進む間に、普通の人なら五歩は進んでいるだろう。よちよち歩きを始めたばかりの赤子のような不安定な動きで、こちらに向かって歩いてくる姿に、花子ちゃんや茂くんでも逃げ切れそうだと思った。
これなら、何かあっても私の左腕だけでも対処できそう。そう感じた私は、比較的冷静な心情のまま鬼へと話かけた。

「あの、私と話し合いませんか?」
「ヴァあー」
「鬼について知りたいんです。あなたが攻撃しなければ私も手は出しません!」
「マァバァー」

知性がないのだろうか。無視と言うより、思考能力がなく本能のまま動くしか出来ないように思えた。

鬼はこちらの言葉に何の反応も示さず、ゆっくりとした動作で大木を横に振り上げた。左手で攻撃を受け止めて、大木を取り上げてからもう一度話しかけてみよう、そう思いながら振り下された大木を左手で受け止めた、刹那。この左腕になってから、初めて「重さ」を感じた。

「っ!!」

重さは衝撃に代わり、殺しきれなかった衝撃と共に左腕が後方に引っ張られ、筋力のない両足で支える事はかなわず、吹き飛ばされてしまう。

叩き付けられた地面で丸まりながら、激痛の波を堪えるように奥歯を強く噛んだ。

「はぁっ、いま、のはっ、」

左腕のお蔭で8割以上の衝撃を殺せたらから、いくつかのかすり傷程度で済んだけれど、もし、この左腕がなければ、即死だっただろう。初めて、相手の力が、私の左腕の力を上回った瞬間だった。

今まではこの左腕だけで何とかなったけれど、もし今後より強い鬼に遭遇した時は、左腕と右手以外は、何の能力も筋力もない弱い身体のままの私はなんの太刀打ちも出来ない。

(………シンデ能力を奪わなければ、私はただ弱いまま……。けどウバエば…)

墜ちてきた思考にハッとし、今は目の前の鬼に集中しなければと、首を振る。
慢心してた数秒前の自分を叱咤しながら、次の攻撃の衝撃を少しでも減らそうと、左腕を構えた。次の瞬間。黒い人影が横を通り過ぎた。え、と声を出している間に、黒い人は刀を振り上げ、大木を握った鬼の右腕を切り落とした。

「先生!やりました!」

達成感に満ちた声の方に目を向けると、腕の切断面を押さえ藻掻き苦しむ鬼の近くに、私と同じ年くらい少年がいた。胸元を大きく開けた黒い着物と、勾玉がついた紐を首に巻き付けた、目つきの悪い男の子。手には刀が握られており、刀についた血が、鬼の右腕を切り落とした張本人である事を示していた。

「バァマァーーー!!!!!」
「!!!」

鬼が森全体を揺るがす咆哮を上げた。鼓膜が破れそうな大音量の後に、切断された右腕からホースが暴走するように肉体が生まれ形作られ、3秒も満たない内に新しい右腕が完全復活。直後、右腕は隣の男の子に向かって振り落とされた。

「!危な」
「雷の呼吸壱の型 霹靂一閃」

その声が聞こえた瞬間には、鬼の首は地面に落ちていた。
速い、なんてものじゃない。人間が目で追える速度の限界を超えている。まるで稲妻が走ったような、一瞬の出来事だった。

「最後まで油断するでない、獪岳」
「はい先生」

鬼の首を切った人物は刀を鞘に納め、男の子に指導する言葉に続けて「じゃが、初戦であの動きは立派じゃ」と褒めているのを、ぼうっと聞き流しながら、目の前の状況を整理し始めた。


三郎さんが言っていた、鬼を倒す方法は二つ。太陽の光か、鬼狩り様が持つ特別な刀のみで、今、この方は、刀で、…鬼を斬った。

(鬼は…)

鬼を見ると身体が灰のように消えている最中で、数秒後には骨も肉も残らずに完全に消失。

(……鬼が消えた。という事は、あれは、鬼狩り様が持つ特別な刀…)

男の子との話を終えたおじいさんは、カツンカツンと足音をならせながら、私に向かって歩いてくる。おじいさんの足元を見ると、右足が木の義足だった。
おじいさんは私の目の前でしゃがみ、傷を痛ましそうに見た後に、辛そうに言った。

「まずは治療じゃな」

心臓がどくどくと音を立てて、心が沸々と湧きだつ。今、自分がひどく興奮しているのが分かった。
私はお礼も忘れて、高ぶる感情のまま叫ぶように問いかけた。

「あ、あの!もしかして、貴方は、鬼殺隊の柱、桑島慈悟郎さんですか?!」

三角模様の着物と右足の義足。左目下に大きな傷跡を残した三白眼のおじいさんは、口髭と口角を上げて、ニッと笑って言った。

「元、な」






それは、八王子から甲州街道を下った先にある東八代郡の片隅。甘い果実の香りが漂う、桃源郷と呼ばれた土地でのこの出会いが、後の私にとって大きな分岐点をもたらすこととなった。いい意味でも、……悪い意味でも。







※大正コソコソ噂話※
116話のお婆さんは昔の話をしていました。痴呆の症状です。娘さんの名前、かんなり、は雷の別名。

夢主は八王子から甲州街道を下って、山梨県の東八代郡(現在の笛吹市あたり)に来ました。桃の産地だし、桃源郷って言われてるしね。

夢主が出会う「柱」の人は、ギリギリまで、不死川実弥と迷いましたが、色々考えて妄想した結果断念しました。この二人相性良くないというか、似ているというか、なんと言うか……。だからこそ萌えるのですが…。何とか奇跡起きて実弥の継子になり、実弥ルートを開始出来たら、柱合会議で炭治郎と再開し、禰豆子刺した師匠である実弥をその場で叩きのめし、ガチ喧嘩が勃発すると思います。炭治郎と禰豆子と再会した途端、夢主は無条件で炭治郎の味方になるので、実弥さんはもうプンプンです。更に冨岡さんとも仲良くなるし、夢主が変な気を利かせて二人の仲を良くさせようとしてくるので、更にプンプンな実弥さん。更に更に、玄弥との問題にも顔を突っ込んでくるので、更に更にプンプンな実弥さん。炭治郎と一緒で、実弥さんの神経を逆なでするのが上手な夢主さんです。このルートの夢主はめっさ強くなっていると思います。師匠にびしばし扱かれているので。凸凹で口喧嘩?ばかりしているような稀血コンビですが、お互いの存在に救われてたんじゃないですかね。別名、夢主強くなりすぎルート。
(絡みキャラ:実弥、玄弥、冨岡、しのぶ、蜜璃)


ちなみに、94話で夢主は「北の道」を選び進みましたが、「西の道」を進むと行き倒れている所を鱗滝さんに拾われすぐに炭治郎禰豆子と再会します。鱗滝さんに拾われる前に一回死んで豪腕ゲットしてるので、このルートの夢主は炭治郎と共に鬼殺隊目指して修行します。恋愛要素薄めでオールキャラみたいな感じかな。別名、原作沿いに近いようなルート。
(絡みキャラ:善逸、伊之助、珠世、愈史郎、冨岡、実弥、しのぶ、蜜璃、無一郎)


「東の道」を進むと、蝶屋敷ルートになり、東の町でしのぶに保護され蝶屋敷で暮らします。夢主は自身の「死んで能力奪う」力を知る前なので、花を枯らす力(右手の鬼殺しは気付いてない)しか使えません。蝶屋敷でしのぶさんに医術を教わり、治療班として活躍し炭治郎と再開。夢主の精神ケア?もしのぶや蜜璃がしてくれる&カナヲアオイも加わり5人できゃっきゃわいわいするので、比較的ほのぼの??と暮らしますが、選択肢をミスりまくる(戦いたいとか言い出して死にかける)と、しのぶさんがヤンデレ化?する分岐もあり。その時は、監禁してると思われないような、策略からしい頭のいい監禁?をしてくると思います。
蝶屋敷の皆が炭治郎→夢主を応援してくれるので、炭治郎的にも優しいルート。別名、しのぶ過保護ルート。
(絡みキャラ:しのぶ、カナヲ、アオイ、蜜璃、行冥、玄弥、村田、後藤)


「南の道」を進むと、炎の師弟ルートになり、鬼に襲われている所を煉獄さんに助けられ、その関係で蜜璃(&しのぶ)とも再開します。夢主は自身の「死んで能力奪う」力を知る前かつ、豪腕もない弱々ですが(右手の鬼殺しは気付いてない。途中で気付くかも)、煉獄さんに刀を教わります。煉獄さんと鍛練したり世話してあげたりしている内に(暮らしているのは蜜璃の家)、とてもいい雰囲気に。同い年だし。ちなみに煉獄さん救済でもある。一番恋愛色が強いルートで、炭治郎的には苦しい難関ルートかも。別名、炭治郎嫉妬ルート。
(絡みキャラ:煉獄、蜜璃、伊黒、しのぶ、宇随)


さらに76話でしのぶさんと蜜璃ちゃんが任務に行かず竈門家にお泊りした場合、二人が竈門家を全力で逃がしてくれるので竈門家全員助かりますが、二人は亡くなってしまいます。その場合、竈門家全員で鱗滝さんとこに移住して、夢主(隠的な立ち位置)と炭治郎と禰豆子と竹雄で鬼殺隊目指し修行します。竈門家全員で鬼殺隊一家みたいな感じになります。冨岡さんが竈門家に絡まれ懐かれます。無表情で嬉し困惑する冨岡さん。鱗滝さんも含め皆でほのぼの?な感じもしますが、カナヲと伊黒のメンタルが心配なルートでもあります。別名、竈門家鬼狩りルート。
(絡みキャラ:冨岡、カナヲ、伊黒、煉獄)


さらにさらに、84話の最初の方で夢主が無惨に鬼化させられいたら、夢主鬼化ルートに進みます。竈門家の生き残りは炭治郎と禰豆子、六太で、禰豆子は鬼化せずに鬼殺隊に。炭治郎の目的が夢主を人間に戻す事に変化。夢主は禰豆子のように克服?出来ず、完全に鬼化し、色んな場所をウロウロ。記憶はまったくない状態だけど、炭治郎禰豆子しのぶ蜜璃には攻撃しずらそうな感じ。鬼化した夢主は童磨に可愛がられるので、しのぶのさんのSAN値がピンチ。別名、鬼サイドかつ、炭治郎禰豆子しのぶSAN値直葬ルート。
(絡みキャラ:無惨と上弦〜下弦の鬼、しのぶ、蜜璃)



関連話 116


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