120:幸せな家庭を気付いて、家族仲良く暮らす未来

※善逸の過去を完全に捏造しています。ご注意ください。




気付いた時にはすでに、俺は多くの孤児と共に廃寺に住んでいた。

親に捨てられたんだとさ。
おみぐるみに名前もなかったから、「善良な人に拾われてどこかで生きて」なんて僅かばかりの愛情もなく、むしろ「早く死んでくれ」とでもいうかのように、雷鳴響く豪雨の中、草木に隠され捨てられていた。

生後間もない赤子が、雨で体温を奪われ飢餓状態での生存率はゼロに近い。

けど、俺は生き残った。

拾われたのが捨てられた直後だったのか、俺は運よく無事だった。
俺を拾った男は逸嘉(いっか)と言ったらしい。今にも消えそうな命を哀れに思い、拾いはしたものの、男は病を抱えた70過ぎの独り身。育てる余裕はなく、俺が育った孤児が住む寺へと、抱きかかえてきた。

逸嘉じいさんの善行で命拾いをしたのだから、貴方も善行で誰かを助けてあげれる人間になりますようにって意味で、善逸って名前を付けられた。まぁ、その逸嘉というじいさんが寺に訪れる事は二度となかったらしいケドさ。

俺が捨てられていた地域は孤児が多く、孤児自体そう珍しいものではなかった。親のいない子供が住む区域なんてとこもあるくらいだ。その一角に俺が育った寺はあった。
寺は施設と言うより、親のいない子供達が居場所を求めて集まった、吹き溜まりにちかい場所だった。年上の者が年下の面倒や常識、働き方、文字の読み書き等を教えるのを年々繰り返し、一人でも生活出来るようになった者は寺を出ていく。たまに俺みたいな孤児が来るから、寺は何時も一定数以上の子供がいた。

中には寺にずっと留まる人もいて、その内の一人が代表として皆を纏めていた。その人は、耳が聞こえなかった。一番面倒見てくれたその人の耳になってあげようと、手助けするために強化されたのか、それとも生まれつきだったのかはわからないけれど、物心ついた頃から、とにかく俺は耳が良かった。

寝ている間に人が話した内容を知っていることがあって、気味が悪るがられた事をきっかけに、自分の耳は他の人と違う事に気付いた。それから、聞こえてくるさまざまな音を注意深く聞くと、相手が何かを考えているかもわかった。



他の人より耳がいいと気付いたばかりの、まだ小さな頃。俺には好きな女の子がいた。同じ寺に住む、2つ上の女の子。
その子はとても悲しい事があってひどく落ち込み、1日中泣いている日があった。俺はその子に元気になって欲しくて、悲しい音を消してあげたくて、沢山の言葉をかけた。4つ上の女の子に教えてもらった、「元気を出して」って花言葉の甘野老を渡したりもした。けれど悲しい音は消えなかったばかりか、女の子の泣き声と悲しい音を更に大きくさせてしまう。
困り果てていると、そこに5つ年上の男が通りがかった。いつも眠そうでやる気のないようなやつだ。顔がちょっと良いだけであんま喋んないし、何考えてるのか分かんない不思議な奴。そいつが、通りざまに女の子にサラっと一つの言葉を投げかけた。俺なんかが思いつかない、斬新な言葉。だけど、心から思いやりに溢れた言葉でもあった。

その瞬間、女の子の音が反転した。

悲しい音が、キラキラと輝く音へ変わったのだ。その音の変化は、豪雨がピタリとやみ、雨雲から太陽が顔を覗かせ、青色に変わった大空に虹がかかったぐらいの大きな変化。
音と同じくらいに、女の子自身も大きな変化を見せた。泣き顔を笑顔に変え、眠そうな男の元に抱き付くように駆け寄り、目をキラキラと輝かせ泣き笑い。
貴方はなんて素晴らしい人。私には貴方が必要です。貴方の助けが必要です。そんな音をさせて、女の子は男に甘えていた。

俺は音の変化の綺麗さと、たった一つの言葉で、こんなにも音は変わるのかと衝撃を受けた。もし、この音の変化を自身に向けられたら、きっとそれは、俺の宝になる。この音の変化が欲しい。乾いた喉に水分を求めるように乞うた。

でも、音の変化をもたらしたのは俺ではなく、あいつ。
元気に笑う女の子と、眠そうなあいつを見て、俺は「元気になってよかった」と思う気持ち以上に、「俺がしてあげたかった」と悔しい気持ちでいっぱいになった。

同時に、だからか、とも思った。女の子に好かれたい下心があったから、女の子の為なんかじゃなくて、自分の為の言葉だったから、女の子の心には響かなかったのだ。










「〜〜ちゃんえらいわね!もうそんな事出来るの?」
「うん!お母さんの為に頑張ったんだ!」
「なんていい子なの!さすが私の子だわ!次もお願いね?」
「任せてよ!」
「お母さん、僕は?」
「〜〜くんは、もうちょっとかな〜?また明日お母さんと頑張ろうね?」
「うんっ!!僕、次は失敗しないよ!」
「何度失敗してもいいのよ?頑張りやさんでえらいわね」

仕事終わりの夕暮れの帰り道。すれ違いざまに母親と子供達の楽しげな会話が聞こえてきた。わが子を誉める母親の図は、町中でよく見かける日常の一つだ。

(いいな…)

俺はそれをいつも羨ましく眺めていた。

さっきの子供が褒められていたことは、俺があの子供の年齢よりもっと小さな頃に出来ていた。でも、それを誰かに褒められたことはない。寺では出来て当たり前の事だったから。
だからといって何かを褒められた事がない訳じゃない。耳の聞こえないあの人や、知らない大人に褒められたことは何度かある。だから、褒められたり、期待される事がどんな甘味よりも甘い物だと俺は知っている。

親や家族がいたら、毎日褒められたり期待されたりと沢山の愛情をもらえていたのだろうか。一度失敗したり、泣いて逃げてたとしても、見限られる事もなかったのだろうか。それは、きっと想像する以上に優しい世界なのだろう。もしもを想像するだけであたたかい気持ちが溢れてくる。

……だけど実の親に捨てられた俺は本当の家族の元には戻れない。大半の子供達が当たり前のように得ているモノを、貰うことも知ることも二度と来ない。












俺が12の頃。5つ上の眠そうなあいつと、2つ上の昔好きだった女の子が寺を出て行くことになった。結婚するらしい。

「笑顔であったかい家庭をつくる」そう幸せそうに笑い合っていた。きっと二人なら、理想どおりの家庭を作れるだろう。

いいな、……いいなぁ。

俺も家族が欲しい。帰る場所があって、笑顔でお帰りなさいって出迎えてくれるかわいいお嫁さんがいて、目に入れても痛くない子供達がいて、夕飯は皆で笑いあって食べて。そしたら家族のために、辛い仕事だって頑張れる。

肩を寄せ合い寺を出ていく二人を祝福と羨ましさで泣きそうになりながら見送っている時、そうだ、と気付く。自分はもう家族の元には戻れないけど、二人みたいに自分の家族を作る事は出来るじゃないかと。

家族は一人ではできない。俺も、一緒に幸せであたたかい家庭を作ってくれるお嫁さんを探そう。自分がしたかった事を、して欲しかった事を家族にしてあげるんだ。







自分の家庭を持った時に、家族の証である名字を残そうと、自分で考えて名乗った。我妻(あがつま)だ。幸せな家族を一緒に作ってくれる奥さんを探す、そんな意味と決意を込めて。

我妻善逸と名乗り始めてからしばらく経ったとある日。
寺の金が盗まれた。犯人探しの議論をする中、音で犯人のわかった俺は勇気を振り絞り申告した。だけど、そいつは普段そんな事をしないような真面目な人間だったし、証拠もない中、「隠し事や嘘をついている音がする」って理由しか言わない俺を誰も信じなかった。それどころか逆に怪しまれ、あげく金を盗んだ奴に罪を擦り付けられ寺から追い出される羽目になった。
耳の聞こえないあの人に一生懸命訴えたけれど、耳が聞こえないからか、俺の「音」の話に困ったような顔と音しかさせなかった。








それからずっと一人で生きてきた。一人で町を転々と過ごす中、俺に優しくしてくれる女の子が現れた。その子はお茶屋のお嬢さんでとても話上手な子だった。俺に優しくしてくれた、笑顔を見せてくれた、俺の話を聞いてくれた、俺を好きだと言ってくれた。俺はこの子と出会うために生まれてきたんだと嬉しくなって、すぐに結婚を申し込んだ。お茶屋の女の子は「嬉しい」といって笑った。

だけど、俺の耳は、優しさとは真逆の音を拾っていた。それでも俺は、お茶屋の女の子を信じたくて、真逆の音を聞こえないふりをして、耳を塞いだ。信じたいものだけを信じた。


そうして、よく騙された。何度も、…何度も。










夢を見るんだ。幸せな夢なんだ。俺は強くて、弱い人や困っている人、泣いてる人を助けて守ってあげれる仕事について、皆から必要とされ、感謝されるんだ。
家に帰ると、かわいいお嫁さんと子供が出迎えてくれて、幸せだなって笑うんだ。
…そうなりたいのに、実際の俺は逃げるし、怯えるし、よく泣くし、気の利いた言葉一つ言えないし、必要とされないし、騙されるし。俺は、俺が一番自分の事、好きじゃない。


夢と現実は互いに手を伸ばしているはずなのに、手が届かない程に遠くにあって。二つが重なる未来が訪れるとはどうしても思えなかった。








※大正コソコソ噂話※
善逸の過去は原作でも明らかにされておらず、謎が多いキャラクターでもあります。今後何らかの形で、公式により善逸の過去を知る事になるかもしれませんが、当連載ではお得意の捏造設定で行きます。
当連載では、今回のお話のように、善逸の過去は、獪岳と同じような生い立ちを送ってきたとします。原作で善逸は獪岳は同じ師匠の元で修業したのに、その結末は正反対を進んでいきます。それに、始まり(生い立ち)を一緒にすることで、より結末が際立つのではないかと考えた次第です。二人の関係性や人生の全てが、145話の扉絵なのではないかと思います。
人格の形成、善悪の取得は、遺伝か環境かの論争をよく目にするかと思います。赤ちゃんは天使なのか悪魔なのか、性善説や性悪説などの言葉が有名かと思いますが、双子の研究等からも今の論文、研究、議論の結果、人格形成や善悪取得等については、環境と遺伝同じくらい影響するという答えが定説となっています。善逸の出世について、獪岳と同じ事にすることにより、上記のような仮説を裏に、善逸という人間が、桜や炭治郎に絡む事でどう変化していくのか、また比較対象としての獪岳が際立つように書いていけたらいいなぁと思いましたまる


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