117:誰かに必要とされる自分

「いやぁあああぁあーーーーー!!!!桜ちゃんは俺と結婚するんだーーー!!約束したんだーー!」
「善逸くん私達そんな約束してないよね?!とりあえずは、離れて!鼻水ついてるし!」
「オラッ!善逸離してやれ!お嬢さんが困ってるだろうがぁ!」
「いやぁあああああーーーー!!桜ちゃんは俺が好きなんだー!だから結婚するんだー!!」
「好きだけど、結婚する好きじゃないからねっ?!」
「ほらぁア!今、俺の事好きって言ったよねぇ?!!言質取ったからね?!俺達は今ここで結婚するんだぁーーー!!」
「頭イカれたか?!なんて力でしがみついてんだ、おまえはよ?!みっともねぇぞ!オラッ!オラッ!離れろっ!」

善逸くんのお勤め先である呉服屋さん。そのお店の前で、私の腰にしがみついて泣き叫ぶ善逸くんと、善逸くんを引き離そうとポコスカ殴ったり引っ張ったりする呉服屋の店主さん。悪目立ちする私達に、沢山の野次馬の視線が突き刺さり、羞恥心から顔が赤く染まった。




事の始まりは、数分前。鬼殺隊の柱の方に会いに行くため、今日八王子の町を発つと決めた私は、お別れの挨拶とお礼をしに、呉服屋さんで働く善逸くんの元へと訪れていた。
突然の訪問だったけれど善逸くんは驚きと嬉しそうな笑顔で迎え入れてくれ、数日ぶりの再会は和やかな会話から始まった。
軽い世間話も終え、さて本題へとなった時、善逸くんの事だから「なんでどうしてどこにいついくの」攻撃がありそうだと思い、話が長くなりそうだと想定した私は、呉服屋さんの店主さんに断りを入れ善逸くんの時間を少しだけもらう事にした。それでも10分程で話し終えるだろうと気軽に話し始めれば、善逸くんの笑顔は徐々に曇り始め、最終的には世界の終末を見たような悲壮な表情へと変化。話ている最中もずっと沈黙を貫き、そのまま口を開く事はなく、すべての話が終えた。意外だなと思いながら「善逸くん?じゃあ、私そろそろ行くね?今までありがとう」とお茶菓子を渡しながら伝えると、善逸くんはわなわなと震えたかとおもえば、突然私の腰にしがみつくように抱きつき、町中に響き渡る大声で叫び出したのだ。

呉服屋さんの前で立ち話をしていた関係で、善逸くんの叫び声に気付いた店主さんが慌てて引き離そうとしてくれたけど、善逸くんのしがみつく力が強く中々離れず、今に至る。


「善逸くん落ち着いて!まず結婚はしないから!後、一生のお別れってわけじゃないし、また落ち着いたら会いに来るよ!あ、炭治郎君と禰豆子ちゃんに再会出来たら、二人を連れて遊びに来るね!きっと善逸くんも二人の事好きになるよ!本当にいい子達なの。ね?だから落ち着いて。どうどう」
「…………」
「また、会えたらご飯にでも食べに行こうね。近い内にでも(いつになるかわからないけど)」
「その別れ際の女の子の「またご飯でも食べに行こうね」は、二度と会わないやつだーー!!イィヤァアアーーーッ!!!いやぁあああ!!」

説得?も虚しく更に大声を出す善逸くんは、おそらく無意識だったのだろうと思うけれど、私の腹部に擦りつけていた顔の位置を上げ、あろうことか胸へと場所を変えた。

「!!!!」

流石に恥ずかしくなり、咄嗟に

「きゃあ!!!どこに顔やってるの!」

と叫んで、つい《左手に力を入れてしまった》。

「うぎゃあ!」
「うおぉ!!」

善逸くんと呉服屋の店主さんは驚きに叫び声を上げながら、1〜2メートル程吹っ飛び地面に転がる。

「はっ!!!ご、ごめんなさいいーー!!!」

道端で目を白黒させる二人に、慌てて駆け寄って謝罪をした。









《全力ではなかったのもあり》二人に怪我はなく、土下座をする勢いで猛烈に平謝りをすれば、呉服屋の店主さんは、なぜ自身が吹っ飛んだのか分からない様子で首をかしげながらも、「善逸が悪い、気にしてねぇ」と許してもらえたどころか、休憩所を話場として貸してもらえる事になった。

先程のような大騒ぎはしていなかったけれど、結婚だの距離が離れすぎているだのなんだのぶつぶつ言う善逸くんの顔は、店主さんに怒られていくつか青あざとタンコブを作っていた。

「あの、善逸くん。聞いて」

冷えたハンカチを善逸くんの顔に当てながら、真剣に話しかけると善逸くんは涙目の上目遣いで視線を合わせた。

「善逸くんには本当に感謝してるの。きっと善逸くんに会えなかったら、私、きっとまだあの宿でグズグズしてたと思う…。善逸くんのお蔭でまた前を向けたし、道筋も見えてきた。それに、善逸くんの明るさとか面白さに、私、この2カ月間本当に救われてたんだ。…ありがとう」

こうして今、前のように笑顔でいられるのも善逸くんのおかげ。そう感謝の気持ちを込めて微笑むと、善逸くんは、私の瞳の奥まで覗くように無言で見つめていた。

「だから、炭治郎君と禰豆子ちゃんと再会してやるべき事をやったら、必ずまた会いに来るよ。その時、本気で結婚したいと思える人が出来てたら紹介してね。あ、ちなみにアドバイスってわけじゃないんだけど、女の子は色んな人に求婚してる人より、自分だけを一生懸命見てくれる人の方が好きかもしれないよ。頑張ってね。善逸くんならきっと素敵な人すぐに見つかるから」

最後の方は冗談のようにフフっと小さく笑う。善逸くんは無反応だったけれど、そのまま続けて、優しい口調を意識しながら問いかけた。

「ねぇ、善逸くん。善逸くんは何かして欲しいことや、……欲しいものある?」

あの時、色んな矛盾に悩み落ち込む私に、善逸くんがくれた「私の欲しいもの」。それがどれほどの大きなきっかけとなったかは善逸くんは知らないだろう。だからこそ、私も同じように善逸くんにしてあげたい。私が感じた気持ちの全てを返せるとは思わないけど、心からそう思った。

「欲しいもの…」
「と言っても、お金あんまりないから高価な物とかはあげれないんだけどね」

善逸くんは、私が提供できる範囲での欲しいものがすぐに浮かばなかったのか、ぼんやりと遠くを見ながら考えあぐねる様子を見せた。すぐに決まらないならこれだよねと、善逸くんに指切りの小指を差し出す。

「善逸くんの欲しい物、次会う時にまで考えといてね。そして、また会った時に教えてね」

「約束」と言って、善逸くんと指切りをした。


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