116:鬼殺隊の柱

毎日ではなかったけれど、週に何回か善逸くんは私の元へと通った。私は変わらずに前と同じ様に働きながら色んな場所を訪れ、鬼狩り様や炭治郎君禰豆子ちゃんの聞き込みを続けた。
そして月日はあっという間に流れ一月ほど経過した頃。私は一つの大きな手掛かりにこぎ着けた。



「ほ、ほ、本当ですか?」
「本当よ。人喰い鬼は詳しくないけれど、鬼狩り様なら少しだけ知ってるわよ」

小さな公園の石積みの花壇に腰掛けた小柄なお婆さんは、皺だらけの顔で穏やかに笑った。

「こないだ山菜を取りに山へ出かけたのよ。だけど、私ったらドジよねぇ。途中で足を挫いて動けなくなったのよ。あっという間に日が暮れて、待ち構えていたかのように、人喰い鬼に襲われたわ。死を覚悟して目を瞑ったけど、待てども痛みはなくて。目を開けたら死んだのは私じゃなくて、鬼だったのよ。灰になった鬼の先には、鬼殺隊のあの方が立っていたわ」
「鬼殺隊?鬼殺隊って…鬼狩り様の事ですか?」

80近い年齢だろうか。お婆さんは肯定するようにゆっくりと頷き、僅かに震える手を頬に当て、少女のように微笑んだ。

「とても…素敵な方だったのよ」
「それで、その鬼殺隊の方はどんな方でした?今はどこにいるんですか?」
「その方は、鬼を倒して私を家まで送ったらすぐに帰ろうとしたのよ?だから私、慌てて引き留めてね。ぜひお礼をとお家に招いてごちそうしたのよ。そこでお話を聞いたわ。その方は柱という、鬼殺隊の中でも一番強い方なんですって。素敵ねぇ」
「鬼殺隊の柱…ですか」

鬼殺隊とは、鬼狩り様が所属している組織の名称で、どちらかと言うと鬼殺隊という呼び名の方が正しいのだと言う。鬼殺隊は強さによって称号が与えられ、その中でも《柱》はトップの称号のようなものらしい。

(鬼殺隊の柱。すごく強い人。組織でいう幹部みたいな人って事だよね?…その人なら絶対に鬼についても詳しいはず!!その人に会って話を聞きたい!!)

まずは《鬼について知る、そのために鬼狩り様を探す》と決めてから2カ月。そして竈門家を出てから4ヶ月。ようやく得た、第一歩となる確実な情報に、感情がぶわりと高ぶるのを感じた。

「お婆さんお願いします!!教えてください!その鬼殺隊の柱の方は今どこに居ますか?まだお家にいらっしゃいますか?!」

前のめりで叫ぶように懇願すれば、お婆さんは柔らかい表情を悲しそうな表情へと変えた。

「あの方は一週間程滞在した後、帰られてしまったのよ。ずっと居てくれてよかったのだけれど…。今は何処にいるかは分からないわ…」
「そうなんですか……」

お婆さんの答えに身体の力がガクリと抜け落ちる。

「ごめんなさいねぇ。でも、あの方のお住まいなら知っているわ」
「ぇえ!?」

それは逆に凄くないですか?!と頭を勢いよく上げ、お婆さんに話の続きを催促するように目で訴えると、お婆さんはゆっくりと語り始めた。

なんでも、お話の中でお婆さんと柱の方の故郷が一緒ということが判明したらしく、話していく内に大体の場所を察したらしい。柱の方は今もそこに住んでいるけど、鬼狩りで忙しくあまり家に帰れないでいる。だから、今何処にいるかは分からないけど、おおよその家の場所なら知っているわよ、との事。

「無理を承知でお願いします…。柱の方のご自宅教えて頂けませんか…?私どうしても、人喰い鬼について知りたいんです。知らなきゃいけないんです。その為にも鬼殺隊の方に会いたいんです!」

お婆さんの目の前に立ち、勢いよく頭を下げると、お婆さんから少し困惑した気配を感じた。まあ、もっともな反応だろう。見ず知らずの人間に、恩人の居場所を教えるのは抵抗があるのはわかる。仮に私が敵だとしたら、恩を売る裏切り行為に近い。
けれど、よやく掴んだ情報。藁をも掴む勢いで、何度も何度も頭を下げた。

「悪用しようなんて思っていません!大切な子達の為にも、私は前に進まなければいけないんです!!お願いします!」

頭を下げて数十秒後。お婆さんはゆったりした穏やかな声で「顔をあげてちょうだい」言った。顔をあげるとお婆さんは、小さく微笑んでいた。

「何か事情があるのねぇ。いいわよ、教えてあげるわ」
「いいんですか?!」
「ええ。あの方はそれくらいで怒るような人ではないでしょうしねぇ。ただ、正確な位置まではわからないし、本当にいるかどうかはわからないけど…いいかしら?」

覚悟の上ですと強く返事をして、お婆さんの横に座り、地図を広げる。

「この甲州街道をこちら側に進んだ先。……ここが私の故郷よ。そしてここ辺りに、あの方のお住まいがあるはずよ」
「ここ、ですか…。遠いですね」

鉄道や車を使えば、何て事のない距離だけれど、懐に余裕のない私は徒歩しか移動手段がない。徒歩でここまで行くとなると、それなりに時間がかかるだろう。

「そして、柱の方の名前はーーーーーよ」

教えて貰った名前を忘れないように、メモをとっていると、若い女性の声が響き渡った。

「あっ!お祖母ちゃん発見!!もう探したんだから!また勝手に出歩いて!!心配したんだよ!!」

20歳くらいの女性が息を切らしながら走ってきて、私とお婆さんの前に仁王立ちした。その顔には心配と安堵、怒りが混じっている。

「あらあら、かんなり、走ってどうしたの?」
「もう!!かんなり、はお母さんの名前でしょ!相変わらずぼけぼけなんだからっ!」

怒る女性は途中で私の存在に気付き、感情的な所を見られて恥ずかしかったのか、取り繕うように笑った。

「ごほん。え、と。貴女、祖母の相手してくれたんですか?すみません、祖母がご迷惑かけなかったでしょうか…?」
「いえ、ご迷惑だなんて。貴重なお話を聞けたので、とても感謝しています」
「そう?…ならよかったです」

当たり障りない会話を終えた女性は、またお婆さんに向き合う。

「お祖母ちゃん帰るよ。……じゃあ私達失礼しますね」

女性は私に会釈をした後、お婆さんの手を取り、お婆さんの足取りに合わせてゆっくりと歩きだした。夕日を浴びる後ろ姿は理想の孫と祖母の図で、なんだか微笑ましさと同時に哀愁を覚えた。

「あら、かんなり、もう帰るの?私、旦那さまをここで待ってるんだけどねぇ」
「だから〜!かんなりは、お母さんだってば!それと、お祖父ちゃんはもういないでしょ?!てか、お祖母ちゃん、また変な話してないでしょうね?鬼がどうとか〜」

話の内容は聞こえなかったけれど、私はその後ろ姿を見送った後に、手元の地図に視線を落とす。

「ここに、鬼殺隊の柱の方がいるかもしれない…」

次はここを目指そう。


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