19、お腹に頭突きするレベル

※炭治郎が、桜が黒い彼岸花食べて死のうとした事を知っている前提。
煉獄さんが亡くなった後で、桜と煉獄さんは仲良かった設定。炭治郎は桜が煉獄さんの事好きだったと勘違いしてる(未来に煉獄さんと顔も性格もめっちゃ似ている友人がいたから懐かしくていっぱい話しかけていたのを炭治郎が勘違いしてた)(煉獄と桜は互いに良き仲間の認識だった)。炭治郎15〜16歳。炭治郎視点。



煉獄さんが亡くなってからしばらくしたとある日。鬼殺隊はまだ通夜のような空気から抜け出せないでいた。それも仕方なのないことだ。炎が勢いよく燃え上がるような刀捌きで鬼を圧倒し、仲間を助け周囲を鼓舞する力強い魂。弱気を助け強気を挫くその精神のあり方に、憧れ救われ、影響される者も多かった。
煉獄さんが鬼殺隊にもたらした影響は測りしれない。俺もその一人で、あの時もっと俺が強ければ……、と何度も後悔はしたけれど、煉獄さんから引き継いだ意思や想いを鍔にのせ、前に進み続けると改めて決意をしたのがついこの間の事。
鬼殺隊の皆も、今は苦しいだろうけれど、いつかは必ず前を向いてくれると信じている。皆、身体だけでなく心も強い人達ばかりだから。…けれど、桜さんの心配だけは消えなかった。同じ年の煉獄さんとは仲が良く、……おそらく煉獄さんを異性として、…好いていた桜さんの落ち込み方はそれは酷い有様だった。
「同じ列車に乗っていたのに、何もできなかった、苦しい。ごめんなさい」と後悔と懺悔を吐き続け、もう二度笑顔を見る事が出来ないのではとさえ思える程。俺ばかりでなく、しのぶさんや甘露寺さんの言葉も届かない様子で部屋に引きこもり、毎日を泣いて過ごしているようだった。
俺は桜さんの力になりたい。桜さんにとっての煉獄さんのような存在になる事は出来ないだろうけれど、また明るく前を向いて欲しい。そして…また、花のような笑顔を俺に見せて欲しい。そう心から思った。



桜さんは現在、蝶屋敷の一室、しのぶさんの隣の部屋を借りてそこで暮らしている。禰豆子を甘露寺さんにお願いし、桜さんの部屋へ向かい、蝶屋敷を歩いている途中。突然、居間から漂ってきた刺激臭が鼻を突き刺した。咄嗟に、口呼吸に切り替えて匂いを遮断するも、しかめっ面と鼻にこびりついた匂いの記憶は中々消えない。

この刺激臭の強さの正体はおそらく、毒、だろう。しのぶさんの刀に仕込まれた毒と同じ系列の匂いがするので、かなり強力な毒であるのも推測できた。

しかしなぜ居間から?しのぶさんが毒の調合でもしているのか?けど食卓でもある居間でするだろうか?
何かおかしい、と部屋を覗くように入ると、そこには桜さんがいた。

見えた桜さんの横顔は、苦しそうな、悲しそうな表情で、眉間に皺をよせ、手元を見ている。

その手元には、全体象は見えなかったけれど、黒い歪な花のようなものが見えた。刺激臭の原因はあれだとすぐに理解する。

「………っ!」

そこではっと思い出す。前に桜さんから聞いた話を。

《彼岸花に毒があると知り、食べて死のうとしたこと。死んで未来に帰ろうとしたこと》

それは、今の状況に似ていないだろうか…。好意を抱いてた人の死に耐えきれず、毒の花を食べ……死のうとしている。
過去から得た情報と現状を結び付き統合して気付いた事実に、心臓どころか、全身が氷ついたように冷たくなる。けれど、それは一瞬で激しい怒りの炎へと変わった。桜さんが、口を開け、手元の毒の花を食べようとしたからだ。

「なっ!何をしているんだ!!」
「え?…あ」

口を開けている最中だったせいか、毒の花は桜さんの口の中へと落ちていった。一瞬の静寂の後、桜さんは顔を真っ青にし、口元に手をやり苦しそうに呻く。


口にした。……毒の花を。


そう理解した瞬間、何かを考える余裕もなく身体は呼吸を使い、桜さんの元にタックルするよう移動した。

「ごほっお!!」
「飲んだのか?!」

言葉なく、苦しそうに涙目で咳き込む桜さん。それなのに、口から手を放さずに毒の花を吐き出す気配はない。それは、……本気で死のうとしているという事に他ならない。

「ふ、ふざけるな!!」
「!!」

力づくで桜さんの手をどかし、口の中にある毒の花を取り出し遠くへ投げ捨てる。
ごほごほと咳き込む桜さんに、怒りと悲しみを覚え、衝動のまま泣きながら怒鳴りつけた。

「なぜ死のうとしたんだっ!!」

怒りと《また失っていた》かもしれない恐怖に、声も手も震えが止まらない。

「なぜ死を選ぼうとしたんだ!そんな事しても…煉獄さんは喜ばない!」

桜さんの肩を掴む手が爪先まで冷たい。身体は血の気が引いているのに、頭は沸騰してしまうかのように煮えたぎっている。

「禰豆子も、しのぶさんも甘露寺さんも善逸も伊之助も…………俺だって!!桜さんには生きていて欲しいのに、勝手に死のうとするなんて!」

そんなの…。

「絶対に、赦さない」

けど、一番赦せないのは自分自身だ。誰よりも、しのぶさんよりも煉獄さんよりも桜さんを一番に想っているのは自分だと胸を張って言えるのに、俺は、桜さんの生きる希望になる事さえ出来ない。




「…じゃ、……ですか?」

震える声のまま懇願するように呟く。

「俺…じゃ、だめですか?」

煉獄さんのように、桜さんの心に光を灯すことはできないかもしれない。けど、かならず約束する。

「嫌なことも、辛い事も、俺が守るから…!」

桜さんは何もしなくていい。いてくれるだけでいい。だから、

「頼む。辛くても生きていてください」













「…なにを…されているのですか…?」

居間に充満する刺激臭で気配と匂いに気づかなかったが、いつの間にかしのぶさんが、居間の入口に、呆然とした様子で立っていた。ふと、先ほどから反応のない桜さんを見れば、顔を真っ青にし、ぐったりしている。

「まさか…毒が!!!」

すでに毒の成分は体に吸収されていた?!手遅れだったかと焦り、桜さんを横抱きにして叫ぶ。

「しのぶさん桜さんの治療をお願いします!毒を、毒を飲んだんです!!」
「…毒?」

しのぶさんは訝し気な顔で桜さんと俺を見たあと、台の上、床、そして落ちた毒の花を見て、理解した様子でため息を吐く。

「炭治郎くん。桜さんは毒なんて服用していませんよ」
「ですがこの刺激臭は毒と同じ匂いがします!」

いいから早く治療をと目で訴えると、しのぶさんは再度ため息を吐く。その様子は呆れを含んでいた。
しのぶさんは地面に落ちた毒の花を拾い、俺に差し出すように見せる。

「こちらを良くご覧になってください」

刺激臭がより強くなったが、近場でよく見ると物体が花ではない事に気付く。黒くなっていて匂いも原型をとどめていないが、これはよく目にするものだった。

「これは、失敗したタラの芽の天ぷらの塊です」
「タラの芽の毒?!」
「違いますよ。いい加減毒から離れてくれませんか?」

額に青筋を浮かべ笑うしのぶさんは言った。
桜さんは酷く落ち込んでいたけれど、割と早い段階で立ち直っていたらしい。そして今日、「皆に迷惑をかけたお詫びと、皆健康に元気でいてもらいたい。これからも一緒に頑張って行こう」という気持ちを込めて、しのぶさんと甘露寺さんに手伝ってもらいながら、皆に振舞う夕飯を作成。

その中でタラの芽の料理を作っている最中に、ちょっとした連鎖的事故が起こり、色んな材料が混ざりに混ざってしまったあげく焦がしてしまう。

タラの芽は今年最後の収穫だったらしく、桜さんが「これ捨てるの勿体ないよね。せっかく炭治郎君の為に買ってきた最後のタラの芽だったのに!…匂いきついけど食べれないかな?食べれそうだよね?」と少し好奇心を含ませてしのぶさんに同意を求めるように質問。もちろんしのぶさんは「お腹壊しますよ」と正論を述べたけれど、桜さんが未練がましい顔をしていたので、まさか…、と思っていたとの事。

「捨ててくださいと言ったのに、やっぱり食べようとしたのですね…」

毒の花のように見えたのは、タラの芽が焦げ黒く固まり、偶然、花のような形に変形したから。

「……」

しのぶさんの話を聞いて、勝ってに勘違いして騒いでたのを自覚し、先程とは別の意味で顔が青ざめた。

「桜さん白目向いてますね………」
「うわーーーー!!!桜さんーーーー!!!」









桜の行動。
割りと早い内に立ち直っていた桜。炭治郎は怪我の治療や煉獄さんの家に行ったりしていたので気付いていないが、桜は、強くなるために引きこもって部屋で筋トレしていた。
そしてタラの芽の天ぷら失敗。
今年最後のタラの芽なのに…。もったいない(悲しい)。すごい匂いしてるけど(クサすぎて苦しい)、もしかしたらいけるんじゃないかと、食べようとした瞬間に炭治郎登場。
炭治郎の怒鳴り声にびっくりして、手が滑り口に入ってしまう。そしたら、あまりのマズさに、ウエっとなる。そこを炭治郎にタックルされる。この時炭治郎は気付いてないが、みぞうちに刀の先っぽがぶっささり、おえぇえ!!となる。吐きそうだったけど、それは恥ずかしいからと吐かないように手で押さえつけ我慢していたのに、炭治郎が桜の口から焦げたたらの芽を取り出して投げ出した瞬間、またもや刀の部分が腹にあたり&口の中に手を突っ込まれた恥じで瀕死。
という訳でした。炭治郎的にはドシリアス、桜的にはとばっちり?な事件でした。


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