18、学パロ両片思い→両思いの甘め

※連載本編夢主の学パロですが、本編の結末とは無関係な話です。




ここはキメツ学園のカウンセリングルーム。心に問題を抱えた生徒達が、今日もこの部屋の扉をノックする。

「はい、どうぞ」

ノックの後にカウンセリングルームに入ってきたのは、背を丸め疲れ果てた様子の男子生徒。正面の椅子に案内するも、顔は下を向いたままなので表情は伺えない。染めたのだろう髪色とつむじだけはよく見えた。

「学年とお名前を教えてください」
「一年筍組……、我妻善逸、です」
「一年の我妻君ですね。私はスクールカウンセラーの夏眼漱石(なつめ そうせき)です。あだ名は人間失格。よろしくね」
「いや、人間失格って太宰治だし、そのあだ名嫌すぎじゃない?!」
「学生の頃からのあだ名です。私にとてもピッタリだってお友達が」
「嬉しそうに言ってるけど、きっと嫌味で言われたと思うんですけど?!てか、カウンセラーが人間失格ってあだ名なんか嫌!!」
「元気になってなによりです」
「ツッコミせざるを得なかっただけですけど?!」
「では気を取り直して、いくつか質問させていただきますね」
「強引にもってったよ!」

入ってきた時の様子と違っておかしな顔芸をしながらはしゃぎ始めた我妻君に、元気だけど少し情緒不安定かしら?と、手元のカルテに書き込んでいく。

「カウンセリングに来た理由を聞かせてください」
「……ストレスで胃に穴が開きそうだからです」
「そのストレスの原因は分かりますか?どんな時に症状が強く出ますか?」
「分かってます!!原因は!あの!二人!です!」
「あの二人とは?」
「竈門炭治郎と桜ちゃんです!!」
「いじめを受けていると?」
「いじめじゃないけど、今思えば、ある意味イジメみたいなものだわコレ!!!」

汚い高音で騒ぎ始めた我妻君は、同じクラスの竈門炭治郎君とその幼馴染だと言う一学年上の桜さんとの事を話始めた。








「炭治郎君、伊之助くん。善逸くんちょっと借りるね?風紀委員で引き継ぎたいことがあるんだ」
「あぁ?好きにすればいいんじゃねか」
「もちろん構わないが…」
「ありがとう。じゃあ善逸くん行こう」

部活も委員会もない、とある放課後。教室で炭治郎と伊之助の3人でだべっていると、桜ちゃんが声をかけてきた。桜ちゃんと話せるのは、たとえ業務連絡だとしても嬉しい、…嬉しいのだけど、純粋に喜べない理由が2つあった。

その内の1つが…誰かさんの嫉妬。
ちらりと炭治郎の顔を覗けば、長年付き合った者でなければ気付かないような、僅かな不服さをにじませた顔で言った。

「委員会の引継ぎだけなら、ここで充分じゃないか?」

いや、ほんとごもっとも。委員会の事だけなら2〜3分で事足りるはずなのに、桜ちゃんは、何かと「委員会の引継ぎがある」と俺を呼び出して、わざわざ屋上や体育館裏とかに連れて行くのだ。字面だけなら、桜ちゃんが俺に気があって呼び出しているようにしか見えない。けれど、それは事実無根で、ある意味逆の内容だったりするのだけれど、そんな事を知る由もない炭治郎は、俺と桜ちゃんの仲を勘繰りまくって、猛烈な嫉妬を向けてくるのだ。

「ほ、ほら風紀委員の仕事、だから、あ、あまり委員会以外の人に知られちゃ駄目というか…なんというか……ね!あ、じゃあ、急いでるから善逸くん借りてくね!」

明らかに裏がありますといった感じに狼狽えた桜ちゃんは、誤魔化すように話した後、俺の手を引っ張って教室を出た。ちなみにこのやり取りは、既に13回目だったりする。





「ぜ、善逸くん、あの事…聞いてくれた?」

顔を真っ赤にして、恥じらいながら聞いてくる桜ちゃんは凄く可愛い。可愛いのに!!!

「炭治郎君の好みのタイプ……」
「あ、はい、聞いてきました」

顔を真っ赤に染める理由も、話す内容も、俺を呼び出す理由も、全て、炭治郎の事。桜ちゃんが俺を呼び出す理由は、片思いしていると思い込んでいる、炭治郎関連の相談だけ。

「ごめんね、善逸くんばっかりにこんな事頼んで…。ほら、伊之助くんだと炭治郎君にすぐバラしちゃいそうだし、禰豆子ちゃん達も教えてくれるけど、家族以外にしか言えない本音ってあるじゃない…?だからどうしても善逸君に頼り切りになちゃって…」
「桜ちゃんのためなら…なんてことないよ…」

というか、桜ちゃん、ここどこか分かってる?校庭の端にある、両想いになれるって噂の木の下だよ???しかも教室から丸見えの位置にあるからね?!さっきから強い視線感じない?!ちょっと視線をずらして見てごらんなさいよ……ってほらぁーーーー!!炭治郎めっちゃこっち見てるよ!ガン見してるよ!!表情見えない距離のはずなのに、表情までわかるよ。あいつ目が真剣だよ!!怖いから!てか、桜ちゃんもしかして全部わざとやってる?!トークアプリで要件は済むのにわざわざ呼びだすし、しかもなぜか絶対に炭治郎がいる時だし!明らかに嘘くさい呼び出し理由も、呼び出す場所が告白スポットだったりするのも、わざとなの?!だとしたら、大成功だよ!おめでとう炭治郎は嫉妬の炎にまみれてるよ!より桜ちゃんに想い馳せてるよ!!俺という被害の元にね!!

「それで…炭治郎君なんて言ってたの?」
「桜ちゃんみたいな子って言ってたよ。むしろ桜ちゃんがタイプというか、好きなんじゃないかなあいつ」

もうお互いにさっさと気付いてくれ、と少し投げやりな心情になって、「答え」に近いギリギリの言葉を言ったみた。だけど桜ちゃんは、悲しそうに首を振る。

「それはないよ。……私なんて、ずっと幼馴染ポジションだったから…家族の一員くらいにしか思われてないよ…」
「ある意味『家族』だと思ってるだろうね、炭治郎は。もう試しに告白しちゃえばいいんじゃない?すぐにでも本当の家族になれると思うけど?」
「…フラれたら立ち直れなくなりそうだし……。私、しのぶちゃんや蜜璃ちゃん、カナヲちゃん、梅ちゃんみたいに魅力的じゃないから……」
「学園四大美女がなに言ってるんですかね」
「それに比べて、炭治郎君は優しいし、頼りがいもあるし、皆の人気者だしモテるよね…。あ、この間なんてね炭治郎君がーーー」

あぁ、また始まった。桜ちゃんと話せるのに、純粋喜べないもう一つの理由、甘ったるい惚気が。
恋する女の子の顔をした桜ちゃんはいつでも見ていられるのに、柔らかそうな口からあふれる大量の砂糖が直接胃に流れ込んできて胃もたれを生じさせ、思わず耳をふさぎたくなった。










「遅かったじゃねーか善逸!!」

教室に戻ると、伊之助が文句を垂れながら机を揺らしていた。隣の炭治郎はというと……、

「桜はどこに行ったんだ?」

真っ先に桜ちゃんの事を聞いてきた。

「あー…桜ちゃんなら、先に帰ったよ」
「また先に帰ったのか…。家隣同士なのに………」

ずぅん、と音を立てて落ち込む炭治郎。

「桜に最近避けられている気がする…」
「あぁ?炭治郎、桜に避けられてんのか?さては、飯でも奪って怒らせたんだろ?」
「伊之助じゃないんだから、炭治郎がそんな事するわけないだろ。…………あー、たまたま用事が重なっただけじゃない?」

嘘だ。桜ちゃんは実際に炭治郎を避けている。何でも「つい最近、恋心に気付いたので、炭治郎を目の前にすると恥ずかしくて挙動不審になってしまう」からだとか。

俺の言葉に納得していない様子のまま、炭治郎は「…俺達も帰ろうか」と言って席を立ち上がった。





「善逸…!この後少し話さないか?…聞きたいことがあるんだ」

三股の分かれ道でそれぞれの家の方角に向かって帰えろうとした時、炭治郎に呼び止められた。こうなると察していた俺は、また痛みだした胃を押さえながら、炭治郎と共に近くのファーストフード店に移動した。




「善逸は、最近……、桜と仲いいよな…。さっきも木の下で何を話していたんだ…?」

炭酸飲料を一口飲んだ後、何でもない様子で小さく笑いながら言う炭治郎は、隠そうと思っているのか気付いてないのか分からないけれど、言葉には未消化の嫉妬心が含まれていた。

「言っとくけどな、炭治郎が勘違いしてるようなことは1ミリもないからな!」

ええ!悲しいくらいにありませんとも!!!別に、「相談している間に善逸くんの事が……はーと」なんてロマンスも期待なんてしてなかったんだからな!!ほ、ほんとなんだからなっ!!

鼻のいい炭治郎は、少しだけ安心したように肩の力を抜いて笑った。

「それで善逸……。前話した、あの事だが……」
「あー、はい、はい。桜ちゃんの好みのタイプだろ?聞きました、聞きましたとも」
「?どうしたんだ善逸。目が死んでるぞ?」
「あー気にしないでクダサイ。さっきと同じ展開だと思ったダケナノデ!」
「?そ、そうか…。すまない、善逸にこんな事頼んで…。禰豆子や花子は、「いいから悩んでないでさっさと告白しなさいよ!それで応えが分かるから!」って当たって砕けろ方式を言うばかりで…。すまない、善逸」
「明日の昼飯、炭治郎のおごりな」
「それで…桜はなんて言ってたんだ?」
「炭治郎みたいな優しい人だってさー。むしろ炭治郎がタイプというか、好きなんじゃないかな桜ちゃん」

ハンバーガーを口にしながら、かなり投げやりに言えば、炭治郎は静かに首を振った。

「それは、…ない。ずっと、ずっと桜だけを見てきたから分かるんだ。桜は俺の事を……幼馴染程度にしか見ていない」
「やー、ある日幼馴染から異性へと突然コロッと変わるかもしれないだろ。いやむしろ、変わった後かもしれないじゃん。もう試しに告白してみれば?すぐにでもその長年の想い報われると思うけど?」
「…さすがに想いの年月が長すぎて、フラれたら立ち直れなくなりそうだしな……。それに、桜は人気だからな、引く手あまただろう?」
「桜ちゃん学園四大美女だしモテるもんな〜。可愛いよな〜ほんと」
「桜は、可愛いだけじゃないぞ!この間の桜はーーー」

あぁ、また始まった。どっろどろに甘ったるい惚気が、と耳をふさぎたくなった。大量の砂糖が熱に溶かされ飴状態になった物を無理矢理飲まされているような胃の重さを感じ、深いため息を吐いた。












「気付いてないのは本人達だけ。しかも俺をはさんで惚気話をするもんだから、胃がムカムカしてしょうがないんですよ!!」
「なるほど、そんな時にはこれがいいでしょう。ラッキーアイテムの耳栓です」
「耳栓?!適当すぎじゃない?!朝の占いみたいになってますけど?!あんた占い師じゃなくてカウンセラーでしょ?!」
「まあ落ち着いて。妬みは心によくありませんよ?これでも食べて落ち着いて下さい」
「いやこれカツ丼じゃん!刑事が犯人に出すやつ!!」
「それで、その二人はその後進展はあったんですか?どうなったんですか?ライバルは?悪女は?はっ!まさか二人に悲劇が……?」
「話の続きが気になるおばちゃんかっ?!」
「いいから続きを早く話して下さい。カウンセリングの時間は30分しかないんですよ?途中で話切られるのが一番気になるんですよ」
「あれ?俺のカウンセリングだよね?これ??」

我妻君は私の言葉に、顔面以外にも手足や身体、声を全面に使って、過剰に反応している。カルテにオーバーリアクション気味と書いて、話の続きを促せば、我妻君は渋々と話を再開した。

「それからも、擦った揉んだがあって両思いになって今は恋人同士だけどさ、また愛の告白がなぜか俺が物理的に間にいるのにしやがるし。二人ともあつ〜い視線で見つめあってるけど、間に俺いるからね?俺空気じゃないよ?影薄い幻の6人目じゃないからね?
恋人になったらなったで、目の前でいちゃいちゃいちゃいちゃ!!!他人から生まれた糖分の過剰摂取で、俺の胃はズダボロですよ!!」
「は〜御愁傷様です。無事にハッピーエンドで良かったじゃないですか。ちょっと物足りない気もしますが。まぁまぁ面白かったですよ」
「擦った揉んだの中には、幽霊退治の途中でロッカーに閉じ込められた、誘拐気味にナンパされた桜ちゃんを助けた炭治郎と犯人ぼこぼこにした禰豆子ちゃんとしのぶ先輩にカナヲちゃん、ラッキースケベ炭治郎、後夜祭のお相手、勘違いからの大喧嘩、嫉妬しすぎてブラック化、事故チュー、伊之助聞き間違いからの参戦、初デート密着24時とか色々あったけどね」
「カウンセリングは予約もできます。次は、いつきますか?お菓子とお茶も付けますよ」
「話の続き気になりすぎじゃない?」
「ちなみに、これが今日の診断結果と処方箋です」
「処方箋???なになに……。……診断名は恋人なし男の僻み、治療方法は彼女を作ること…?」
「我妻君モテなさそうですけど、いつか彼女出来るといいですね☆」
「余計なお世話だよ!!!!!!」


カウンセリングを終えた我妻君は、もう二度と来るか!と喚いていたけれど、最後に部屋を出る際に、ポツリと呟いた。
「散々振り回されたけど、もちろん二人には幸せになって欲しいと思ってるよ。今世こそは、さ」と言って泣きそうに笑っていた姿が、とても印象深く残った。


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