トンベリの虫歯




「トンベリ。歯を磨いてから寝ろ」

いつものように主人から歯ブラシを渡されたトンベリは、イチゴ味の歯磨き粉を付けて、口にくわえる。
前歯、奥歯、歯茎など丁寧に磨きあげ、水で口をゆすぐ。

今日はいっぱい美味しい物を食べた。
朝ごはんにヨーグルトをかけたシリアル、お昼にはクラサメ特製ホットサンド、オレンジ。おやつはメープルナッツマフィン。夕食は、ミートドリアと海老のカクテルサラダ、デザートはババロアだった。

トンベリは幸せな顔で、ベッドに潜った。




ズキズキと痛み出したのは、次の日のお昼だった。好物のクリームパスタを目の前にして、歯がズキズキと痛む。

「どうした?食べないのか?」

(歯が……痛いの……)

トンベリは頬を摩る。本当に痛くて、口を開けたくないのだ。

「口を開けてみろ」

(痛いから嫌です……)

だが、主人であるクラサメは思いっ切りトンベリの口を開けた。痛みが前進に走り、トンベリは涙を堪える。

「虫歯だな。しばらくチョコスプレーのドーナツをはじめ、おやつは抜きだ。カヅサのところで治療するぞ」

(やだやだやだっ!痛いのやだっ!!)

トンベリはぴょん、と椅子から降り、猛ダッシュでリフレから飛び出した。
あの変人奇人のお世話になるくらいなら、どうにかして自分で治す!

従者の脱走にクラサメは苦笑した。歯医者だけは昔から断固として逃げ回っていた。カヅサは歯医者ではないが……変わりはないだろう。

トンベリを追いかけてクラサメは、片っ端から行きそうな場所を探す。自室、サロン、テラス、0組の教室。どこにもいない。さて、彼はどこに行ったのだろうか?

奇人変人の魔の手から逃れたトンベリは、主人の恋人ユラに泣きついていた。歯が痛くて痛くて堪らないのだ。

「痛いの?甘いのしばらくの間は禁止だよ。ジュースもダメだからね」

トンベリは「嫌だよぅ」と首を何度も首を振る。大好きな物を我慢したくないのに。

ユラはトンベリを優しく背中を撫でた。クスン、クスンとトンベリは好物を食べられないこと、歯が痛いことに涙を流す。

「甘いの食べたいの?」

(うん)

「しょうがないなぁ。これで我慢してね」

ユラが取り出したのは、キシリトール入りのガムだった。味はブルーベリーだ。

(キシリトール?)

「うん。キシリトール入りだから歯を丈夫にしてくれるよ。でもちゃんと歯磨きはしなさいね」

(あい)

「痛いから氷で冷やそうね」

ユラは氷袋を2つ作り、トンベリの頬に包帯で巻く。頭の上で結ぶと、何の生き物かわからなくなっている。

クラサメが来るまでの間、2人はチェスをしたり、絵本を読んだりして過ごした。
夕方近くになり、ユラの部屋の扉が叩かれた。

「ユラ。私だが、トンベリはいるか?」

「ちょっと待ってて」

ユラは扉の向こうにいるクラサメに伝えた。30秒もたたないうちに、ユラはトンベリを抱えて出てきた。
チェスや絵本を読んだりしているときに、お昼寝タイムへ突入してしまったようだ。

「すまない。迷惑をかけたな」

「大丈夫。寝てるうちに治療したら?」

「ああ。そうするさ」

クラサメはユラに軽いキスをして、今のうちにカヅサの下へと向かった。

「クラサメく〜んっ!!ついに……僕へ……その体を差し出してくれるんだねっ!?」

クリスタリウムの奥にあるカヅサの部屋に着いた途端、カヅサが涙を流した。何年待ち望んだことか。

相変わらずの態度に、クラサメもいつもと同じ態度で――。

「凍死させるぞ?」

「はい、ごめんなさい」

「今日はトンベリの歯の治療を頼む」

スースー、と眠っているトンベリは可愛い。今のうちに虫歯治療をしてしまうと主人は考えたようだ。

「良いよ。同期の従者だからね〜」

治療用ベッドにトンベリを寝かせて、カヅサは鼻歌まじりで治療を始める。熟睡しているのか、いっこうに起きる気配がない。
1時間もしないうちに、虫歯の治療が終わった。それでもトンベリは眠り続けている。

「さて、クラサメくんも始めるよ」

不気味な笑みを浮かべて、クラサメに近寄るカヅサ。クラサメは一歩後ろへ下がる。

「お前、人の話を聞いてたか?」

クラサメはトンベリを抱き上げる。

「代金だよ〜」

「これで勘弁しろ」

次の瞬間、カヅサと部屋が氷の世界に変わった。ブリザガを瞬時に唱え、自分の身の危険を脱した。

たっぷりとお昼寝をしたトンベリは、夜元気に活動していた。
冷蔵庫を開ければ、大好きなおやつが入っていた。お昼寝をして、寝過ごした挙げ句に夜ご飯も食べていないのだ。

ぐー、とお腹が鳴り、トンベリが手を伸ばした物は、チョコスプレーがかかったドーナツだ。

「トンベリ。それはだめだ。お前のご飯はこっちに用意してある」

クラサメにドーナツを取り上げられてしまった。

(……はーい)

少し不満そうな顔で、クラサメのあとを着いていく。すると、テーブルの上には魚貝いっぱいのスープパスタが置かれていた。

「ここで仕事をしているから、冷めないうちに食べろ」

(いただきます!!)

器用にフォークとスプーンを操り、スープパスタを口に運ぼうとした途端――。

(○△□×※☆!!?!)

治療したばかりの歯が、痛くて口が開かなかった。



おわり。




------------------------

相互リンクサイト様のFantastic Orchestra、高梨奏さまに相互記念としていただきました!!

奏さまの書くトンベリは最高に可愛いです!
もう本当に嬉しいです♪
素敵な文章の中でトンベリとじゃれあわせてくれてありがとうございます!

これからもよろしくお願い致します。


*ゆら*

[ 8/15 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]