進撃の巨人 | ナノ


▼ 貴方の罪を共に背負いましょう






壁外調査。

それは調査兵団の者にだけ許された行為で、壁の外に出るという任務である。



エルヴィン兵長の元で結成されているエルヴィン班。

そこには副兵長であるリヴァイや実力のある者が集まっていた。



そんな班に所属した、訓練兵を首席で卒業した名前は初めての壁外調査の作戦に参加していた。

なんとも最悪なことにリヴァイ副兵長の補佐役を任命されてしまい、二人の間はピリピリとしたムードが流れていた。


エルヴィンには仲良くやるんだよ、と子供を諭すかのように念を押されてしまい、なんとも情けない状態であった。




「おい、クソ生意気なチビ」


「……………」

「おい、お前のことだ」




この副兵長は本当に人を怒らせるのが上手なようだ。



「何、リヴァイ」


「てめぇ、呼び捨てはやめろと言っただろう」

「だったら副兵長と尊敬出来るような態度を心掛けてください。私は貴方が副兵長なんて認めてません」




そしてまた重い空気が漂う。

周りにいるエルヴィン班の人たちも冷や冷やとこちらを見つめていた。



後方中央の一番安全な陣に位置していた私は、まだ巨人に遭遇はしていなかった。

周囲が木に囲まれ、不気味な空気に包まれたそんな時、突然前方から黒い煙弾が放たれる。



前方というのは陣のど真ん中だということだ。

これを意味しているのは陣のど真ん中に巨人の侵入を許したということだ。


先程の空気から一辺。

リヴァイの雰囲気も一気に緊迫したものに変わる。




「おい、俺を尊敬してなくてもなんでも良いから足をひっぱるなよ、新人」


「……わかってるわよ。貴方になんか迷惑かけない」




巨人の出現に対応出来るよう刃を引き抜く。


そうすると前方から来たのは巨人ではなく、エルヴィンや他のメンバーたちだった。





「陣の中に奇行種の侵入を許してしまった…!こちらに7メートル級も何体か向かっている。今、各隊に撤退を促している。すまないが…」

「他の隊やエルヴィンが逃げられるように巨人の足止め、殿を俺の班ですれば良いんだな」




エルヴィンが最後まで言う前にリヴァイがそう告げる。


その瞬間、班員が息を飲んだのが分かった。



リヴァイは名前をチラリと見るとすぐにエルヴィンに向き直る。




「エルヴィン、そこのクソチビを連れていけ。新人は邪魔だ」




予想もしない言葉に驚きを隠せず、リヴァイに近付く。




「待ってよ!私も戦えるわ。貴方や班員に迷惑はかけない。私だって調査兵団の一員よ。…それに立体機動には自信があるの」




エルヴィンと目が合う。

名前はエルヴィンを強く見つめ頷く。


それを見た彼は小さく息を吐くとリヴァイを見据えて言った。



「名前の実力は十分にある。ただ経験が少ないだけだ。リヴァイ、きっと彼女の力は役に立つだろうし、経験も必要だ」


「………了解」





それ以上討論している時間もないため、話は打ち切られる。


遠ざかるエルヴィンや他の班員たちを横目に前からやってくるであろう巨人に睨むように見つめた。




他の班員の撤退の様子を見ていると、突然前方が騒がしくなった。

視界に入ったのは複数の巨人と戦いながら撤退する調査兵団の者たちだった。


数人は怪我を負っていて、目を背けたくなる光景だった。





「おい、目を反らすな。来るぞ。てめぇは俺の後ろに居ろ。俺からなるべく離れるな。立体機動に移る準備をしろ。行くぞ」



リヴァイの言葉を合図に一斉に立体起動に移る班員たち。

散り散りに巨人に向かっていったが、各員息ぴったりの連携で7メートル級の巨人を倒していっていた。


訓練以外で初めての立体機動。

怖くないといえば嘘だった。怖かった。
怖かったが、前を進むリヴァイの背を見ると不思議と落ち着いた。



出来る、練習と同じだ。

そう心に言い聞かせていればリヴァイが巨人に向かっていく。


それに着いていくように接近し、リヴァイが首を削ぎやすいように先行し狙っていた巨人の目を狙う。

立体機動の扱いは歴代一番だろうと言われた名前。


目にも止まらぬ早さで目を抉ると、リヴァイがすぐさま首を削ぐ。



何度かそれを繰り返しながら巨人の数を減らしたが、一向に減る気配がしなかった。



その時、遠くから悲鳴が聞こえる。




「おい、行くぞ!行けるか?」


「愚問よ、行けるわ」




上手く立体機動のガスを吹かして悲鳴のする方に向かえば、そこは地獄絵図だった。


奇行種がいると聞いていたが、まさか3体も居るとは思っていなかった。

辺りは血の海が出来ており、腕の無い者や足のない者、息絶えてる者が複数居た。




「なに……これ………」



「名前よ、今は見るな。目の前の敵だけ見ろ」




リヴァイの声にはっとする。

今は仲間の死を忌む暇はないのだ。



「とりあえず1体片付けて、息のある者を連れて場所を移して体制を取り直すぞ」


「……了解」




惨事に目を背けながら獲物に向かう。

リヴァイの動きに合わせて先手先手で動き、奇行種の腕や目を狙う。

他の2体は班員を貪っているためこちらには気付いていない。


今がチャンスとばかりにリヴァイは1体の首を削ぎ、息のある者を連れて場所を移した。








――――――――――




息を潜めるように森の中で生存者の確認をする。

15人居た班員の内、9人しか残って居なかった。
しかもその内4人は手や足が無かったり、手足があってももう使える状態に戻るとは言えない状態であった。


馬は5頭。


怪我人を馬に乗せて走るのはこの状況では無理だ。
ガスの残り残量も少ないため無駄な戦闘は避けなければならない。

生き残るには決断が必要とされていた。






「怪我人はここに置いていく」




リヴァイが重い口を開くと、意識のあった怪我人に絶望の色が広がる。
そして怪我をしていない仲間の間でも不信感が募った。



「仲間をここに置いていくというんですか?!」

「ここに置いておいけば巨人の餌食になることはわかっています!!!」

「見捨てるんですかっ?!」



口ぐちに反論が出る。

名前も置いていくなんて考えられなく、反論しようとした。
しかしその時、リヴァイの手が視界に入ると血が滲むほど拳を握りしめているのが見えた。


彼もまた自分の意見に反論したいのだ。

しかし今他に最前策がない。何故なら……





「お前たちは全員で仲良くここで巨人の餌になりたいのか。馬は5頭しかいない。ちょうど怪我人を除いた数だ。今ここで助けを待っていたらすぐに巨人に見つかる。それなら生き残れる確率のあるものが馬に乗り、ここを立ち去るべきだ」




無表情で班員の顔を見つめるリヴァイ。
誰も何も言えなかった。

そんな中、声を発したのは一番怪我の状態がマシだった班員だった。




「……行ってください。リヴァイ副兵長の言う通りです。ここに助かるかもわからないような怪我人と共に残っていても皆さんも危険になるだけです。だから行ってください…」



結論は出た。

もう方法はそれしかなかった。




怪我をしていない5人が馬に乗る。

そして怪我人を置いてエルヴィンの元へと走ったのだった。





リヴァイは一度も後ろを振り向かなかった。
















――――――――――――




「無事だったか…!」


私たちの姿を確認したエルヴィンはすぐに駆け寄った。



「エルヴィン……っ!」



私の頭の中にはあの森に置いてきてしまった怪我人のことでいっぱいだった。
どのように状況を説明してあの場所に戻ろうか考えていると、後ろからリヴァイがやって来た。




「怪我人の4名を森に置いてきている。ガスと刃を補給したらすぐに救出に向かいたい」



そう告げている間にもすぐに救出に向かえるように準備をするリヴァイの姿を見て、名前も救出の準備をした。



「私も行くわ…!」




ガスと刃を補充して、救急セットを持ち、馬にまたがるとエルヴィンに制止される。





「今は駄目だ。まだ奇行種がうろついているのだろう。そんな危険な場所に君たち二人を行かせることはできない」


「今なら助かるかもしれない」



リヴァイは引かなかった。

先程は冷酷にしていたが、やはり置いていくことは苦渋の選択であの握り拳は見間違いじゃなかったのだ。




「駄目だ、許可出来ない」


「それは命令か…?」

「命令だ」





見つめ合う二人。

リヴァイはやはりまた拳を強く握ったまま、馬から降りた。





「エルヴィン!でも…!!」



「名前、これは命令だ。リヴァイも納得したんだ、君も納得しなさい」





エルヴィンとリヴァイは逆の方向に立ち去っていった。

リヴァイの背中は痛々しく見えた。



他の兵士はこそこそとリヴァイの判断を冷酷だ、鬼、最低、と罵っていた。



















――――――――――――




森へ行くことが出来たのは次の日の朝だった。



そこに待ち受けていた現状というのは、巨人に食べられたわけではなく所持していた銃で頭を撃ち抜かれた4体の死体だった。
死んだあとに巨人に踏まれたりしたのか死体の損傷はひどい有様だった。


他の兵士がその死体の回収をはじめているのを悔いるように見つめて、また拳を握りしめているリヴァイ。



名前はそっとその手を包み込むようにして握った。





「……リヴァイの選択は間違っていないよ」


「…!」

「あの怪我人をかついでいたらきっと私たちも死んでた。私たちの…私の命を守ってくれたのはリヴァイでしょ?」




驚いたのか目を見開き、そして目を伏せた。




「本当にこれが正解の選択だったかは誰にもわからない」


「うん、でも私の中ではやっぱりこれが最善策だったと思うよ。だから後悔しないで……」




包み込んでいた手を握り返されると、握手のような形になる。




「後悔はしていないさ、ただ…答えを導くのは難しいと思った。ふん、まさかクソチビに励まされるなんてな…。うちの班の一員として認めてやる、名前よ」



無表情なのはいつもと変わらないが、なんとなく微笑んでいるように見えた。




「リヴァイ副兵長…?」


「今さら副兵長なんていらんよ」




リヴァイは握っていた手を離すと、近くに咲いていた花を摘み、死体のあった場所にそっと置いた。






「俺がいつか巨人を一匹残らず絶滅させる。……それがこの選択の償いだ」




ゆっくりと立ち上がり、その場から名前の方へ振り向いた。




「名前よ、そういうことだから見てろ」





後ろから光が差し、リヴァイを照らす。
それがとても神秘的で綺麗だった。

私はこの光景を一生忘れないだろう。





「私も負けないわ、リヴァイ」







貴方の償いに力を貸しましょう。

それが生き残った私たちに出来る唯一のことだから。
















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