▼ 未来の一歩
私たちの始まりは本当に最悪で――――
「貴方こそちゃんと前を見て歩いてください…っ!」
「あ?てめぇが前を見れば良いだけだろうが」
「はぁ?なんですか、偉そうに…!」
――――そして、宝物。
×××期、調査兵団入団。
首席で卒業したが、あえて調査兵団に入団した名前は不安と期待を胸に王に心臓を捧げた。
「お母さん、お父さん…私、調査兵団に首席で入団したよ…」
そんな小さな呟きは晴天の空に消えていった。
―――――――――――
シワ一つない制服を身に纏い、
長くて綺麗な栗色の髪をなびかせ、とある人物を探す。
長い廊下の先に目的の人物を見つけ思わず大きな声を出して名前を呼ぶ。
「エルヴィンっ!」
名前を呼ばれた人物はゆっくりと振り返り、名前の姿を確認して優しく微笑む。
「やぁ、待っていたよ。やっと来たね」
「うん!早くエルヴィンに追い付けるように頑張ったよ!」
「あぁ、首席で卒業だと聞いたよ。よく頑張った」
一回りほど小さい背の名前の頭を優しく撫でると彼女は満足そうに微笑んだ。
「配属先の話は聞いたかい?」
「あ、うん!エルヴィンの元で働けるって!」
そんな時、少女ははっとした顔をする。
「あ!もうエルヴィンなんて呼んじゃ駄目だよね!エルヴィン兵士長って呼ばなきゃ…!」
「名前にそんな呼ばれ方をするなんてなんだかおかしな気分だな。好きに呼んで構わないよ」
そんな優しい言葉に胸が温かくなりながらも名前はフルフルと首を横に振る。
「駄目です!公私混同はしないと決めたのです…!でも……」
「でも?」
少し言いにくいのか、下を向きながら小さく言葉を紡ぐ。
「二人っきりの時や、お仕事が終わった後は今まで通りでも良い…?」
彼の表情が気になるのか、チラチラと顔を盗み見ている少女が可愛いらしくて笑いが隠せないエルヴィンは優しく告げた。
「もちろんさ。名前の好きにすると良いよ」
その一言を聞くと、ばっと顔を上げ嬉しそうに頷く。
「うん!」
――――――――――
「本日よりエルヴィン班でお世話になることになりました、名前です。宜しくお願い致します…っ」
緊張した面持ちで配属先で挨拶をすれば、温かな拍手で迎えられる。
そして優しい笑みを浮かべるエルヴィン。
「ようこそ、これから共に頑張ろう。あと、もう一人うちの班には居るんだが…」
困ったように眉を潜めながら遠くを見つめるエルヴィンはその内紹介するよ、と言葉を濁した。
温かな陽射しがまるで入団を歓迎してくれているようだった。
そのあと、仕事に慣れるためにはまずは何でもやってみるということでエルヴィンに頼まれた書類を持って歩いていると前から男が一人歩いてきた。
まだ道がわからずキョロキョロとしていたせいで、その男性が歩いていたことに気が付かなかった名前は反応に遅れた。
しかも、その男性も前を見ていなかったようでそのままぶつかり書類が宙を舞った。
名前は派手な音を鳴らして転んだが、相手の男性はすぐにバランスを取り直したせいか全く動じていなかった。
「す、すみません…っ!怪我はありませんか??」
明らかに怪我がありそうなのは自分ではあるが、ここは余所見をしてしまった自分にも非があるため謝る。
そうすると予想外の反応が返ってきた。
「チッ…痛てぇな。余所見してんじゃねーよ、チビが」
眉間に深く皺を寄せ、こちらを睨見つける男。
確かに自分も余所見をしていたが、余所見をしていたのはそっちも同じではないか。
それに被害の大きさで言えばこちらの方が大きい。
なんとも理不尽な言いように腹がたった名前は、そのまま立ち去ろうとした男の腕を掴む。
「貴方こそちゃんと前を見て歩いてください…っ!」
「あ?てめぇが前を見れば良いだけだろうが」
「はぁ?なんですか、偉そうに…!」
「……てめぇ、俺のこと知らねーのか?偉そうに、じゃなくて偉いんだよ」
さらに深く刻まれた皺が怖かったが、知らないものは知らない。
「こんな偉そうな最低最悪な調査兵団の方は存じ上げておりませんし、存じ上げたくもありません!」
「てめぇ…」
凄い剣幕で睨まれたが、こんなことで負けたくはなかった。
エルヴィンに告げ口してやる、などと考えながら次に返す言葉を考えていると後ろから良く聞き覚えのある優しい声が聞こえた。
「名前、大丈夫かい?戻ってくるのが遅いと思っていたら何があったんだい?」
床に散らばる書類を見ながら名前のことを見ると、隣にはよく見知った顔があることに気が付く。
「リヴァイも、こんなところに居たのか」
「え…?」
リヴァイ、そんな名前は聞いたことがある。
確か人類最強とかいって崇められてた人の名前は……
「リヴァイ…?」
名前が無意識に名前を呟くと、感じの悪い奴がこちらを睨む。
「…呼び捨てにすんじゃねぇよ」
「嘘だ…、こんなチビでむかつく最低な奴がリヴァイ副兵長なわけがない…っ!」
「あ?」
「こんな最低な人、認めません!」
その一言に掴みかかろうとしたリヴァイの前に立ちはだかるエルヴィン。
「エルヴィン、どけ」
「落ち着きなさい、二人とも。何となく状況は把握したが、リヴァイはもう少し落ち着いた方が良いし、名前も言い過ぎだ」
エルヴィンに言い納められれば、確かに言い過ぎだったと反省する。
年は同じぐらいに見えるが、きっと年上だろうしこんなんでも先輩なのだ。
「………ごめんなさい」
素直に謝ったことに驚く様子を見せたリヴァイ。
そんな彼は全く反省していない様子で、名前を睨み付けていた。
そんな様子を見ていたエルヴィンが彼の名前を呼べば大きな舌打ちを一つして、遠くを見つめる。
「これからはリヴァイも名前も私の班なんだ。仲良くして欲しい。それにリヴァイだってここに来てまだそんなに経っていないだろう?仲直りの握手でもしなさい」
そう言うと彼の手と名前の手を取り握手させようとする。
素直に従おうとする名前だったが、彼は手を振りほどいた。
「汚ない手で握手なんてごめんだな」
再びカチンときた名前もエルヴィンから手を振りほどく。
「私だってこんな奴と握手なんてごめんよ!こんな最低な奴が皆の憧れのリヴァイ副兵長だなんて信じられない!!」
「……別に好きで憧れられてるわけじゃねぇ。お前らが勝手に俺のことを想像して憧れてるだけだろう」
「確かにそうだけど…。私は貴方のこと憧れたり尊敬なんてしませんから!」
やれやれも言う顔のエルヴィンを挟んで、二人は睨みあった。
これが私とリヴァイの出会い。
リヴァイはこの時、自分に向かってはっきりと物を言う名前に驚いていた。
これまで自分に関わってきた人物はエルヴィンと奇行種のような変わり者以外、このように接してくる人物が居なかったからだ。
ここに人類最強のコンビが生まれたのだった。
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