進撃の巨人 | ナノ


▼ 彼と私の複雑な関係






「昔から気になってたんですけど、兵長と名前さんって…その……付き合ってるんですか?」



言いにくそうに呟く元教え子のエレン・イェーガー。

彼が訓練生の頃、立体機動の講師をしていた為、昔から認識がある。




「へっ?」



あまりに唐突すぎて反応が取れずに変な声を上げてしまう。


結論から言うと付き合ってはいない。

こんな世の中で恋人同士なんて甘い関係になれるはずがない。





「結論だけ言うと付き合ってはいないかな」


「なんですか…その曖昧な答え」

「子供には早いってこと」




難しい顔をして悩むエレン。

エレンみたいな純粋な子に話せるわけがない。




「でも、兵長と名前さんってなんだか親密ですよね。104期のメンバーが確認しろってうるさくて」



この話からはもう逃れられると思ったのに続けるエレン。




「リヴァイとは良いパートナーよ。エレンとミカサのようにね」



…そんな純粋な綺麗な関係ではないけど、と心の中で呟く。





「でもでも!よく名前さんの講義のあととかに兵長来てましたよね?」



鋭い。

こうやって誰に見られているかわからないから来て欲しくなかったのだ。




「ほら、この話はおしまい!私から話せることはここまでよ。そんなに気になるならリヴァイに聞いてみなさい」



「俺に何を聞くんだ、エレンよ」




背後から聞こえたいるはずのない声が聞こえる。
それは紛れもなく話題の渦中の人物その二。

エレンはもちろんのこと私の動きも止まる。




「で、俺に何を聞くんだ」


「へ、へ、兵長?!」

「ちょっと気配消さないでよ、リヴァイ」



エレンは明らかに動揺。
私は話をそらすことに集中。



「別に何もないです!」

「そう、何もないわよ。ただエレンと色々話してて私が冗談でリヴァイの名前を出しただけ」


「……………」



眉間の皺が怖かったが、ここは気が付かないふりをする。

エレンは私の言葉に大きく何度も頷く。



「よし、仕事再開だよ、エレン」


「はい!俺も行きます」




その場に居ることが気まずかったので早々にリヴァイと同じ部屋を出る。


だからそんな私たちをリヴァイが怪訝な顔をして見ていたなんて全く気が付かなかった。









――――――――――――




「おい、ここ汚れてるぞ。早く掃除しろ。削がれてぇのか」




執務室に戻ったリヴァイは不機嫌さMAX。

リヴァイ班の皆はびくびくしながら仕事をしている。

そんな中、そっと私の側に寄り小声で話し掛けて来たのはリヴァイ班で私を抜いて唯一の女隊員のペトラ。



「名前副兵長、兵長と喧嘩でもしたんですか?」


「えっ?」

「兵長、機嫌がいつもの倍悪いからみんな副兵長と喧嘩でもしたんじゃないかって話してて、聞いてこいって言われたんです」



気まずそうにそう告げるペトラ。

なぜ機嫌が悪いと私と喧嘩でもした、なんてなるんだ。



「喧嘩なんてしてないわよ。勝手にリヴァイが不機嫌なだけ」




そんなことを小声で話していれば、間が悪いことにエレンがバケツの水を溢してしまう。




「……エレンよ、首を出すか死ぬまで躾られるか選べ」


「………っ、すみません!」

「謝罪はいらない。早く選べ」




不機嫌中の不機嫌。

何故そんなに不機嫌なのかはわからないが、ただバケツの水を溢してしまっただけであそこまで怒られる必要はない。


ペトラの元を離れてリヴァイとエレンの元に向かう。

明らかに助けを求めるエレンと睨み付けてくるリヴァイ。



エレンはこんなに可愛いのにリヴァイは可愛くない。




「そこまでにしたら、リヴァイ。エレンが可哀想よ」


「あ?お前は関係ない」

「関係あるわ。エレンは大事な教え子だし、皆がリヴァイの態度に困ってる」


「………エレンを庇うのか」


「庇うも何もただ水を溢しただけでしょ。拭けば良いじゃない」

「庇ったらそいつの為にならんぞ」

「そんな大袈裟な。ほら、エレンは仕事に戻って、ここは私が片付けるから」




行き場を失ったエレンと行きを飲むリヴァイ班。

エレンを座るように促せば小さくお礼を言うので笑顔で気にしないでと言う。



「そんなことより、リヴァイのその態度をやめて」


「何がだ」

「皆が迷惑してるの。何が気に入らないのかわからないけど、そんなピリピリしてたら皆が可哀想でしょ!」




よくぞ言ってくれたと思いながらも、そんなことを不機嫌なリヴァイに言えるのは流石名前だと心の中で以心伝心するリヴァイ班。



名前は不機嫌MAXなリヴァイを無視し、溢れた水を拭いて片付けた。



雑巾を洗うため水道のある場所に行き、後片付けをして執務室に戻ろうとすれば壁に寄りかかり腕を組むリヴァイに遭遇する。




「おい…」


「何?反省して頭でも冷やしにきたの?エレンはまだリヴァイ班に来たばかりなんだから可哀想でしょ」



「そんなにエレンが好きか」




何を言い出すのかと思えば突拍子のないことを言い出すこの男。




「はい?何を言ってるの?」




気が付けば所謂壁ドン状態。

不機嫌な顔をドアップで見なければいけなくなる。




「ちょっと、ここを何処だと思ってるの?」


「お前がエレンエレンうるさいからだ。以前はエルヴィンエルヴィンと言っていたし、そんなに優しげな男が良いのか」

「ちょっと、今エルヴィンは関係ないでしょ?!それにエレンは私の可愛い教え子の中の一人で…「気に入らねぇな」




最後まで言葉は続かず唇に柔らかい感触と共に口内にはするりと舌が入り込む。

逃げようと肩を押すがもちろんびくともしない。
そのまま舌を絡め取られ、呼吸が苦しくなると共に足に力が入らなくなる。




「ん…っ、」




気が済むまで口内を弄べば、銀色の糸を引きながら離れる唇。


自分の唇をペロリと舐めるリヴァイを見て不覚にもかっこいいと思ってしまう。

きっと私がそんなことを考えてるだなんて彼は思ってもいないだろう。


だってあの日から私はリヴァイへの気持ちを封じたのだから。





「お前は俺のモノだろう?」


「私はいつからリヴァイのモノになったのよ…」

「あ?そりゃぁ、あの日お前が俺に何を泣きついて…「あぁ!もうやめて!そこまで!!」




意地悪そうに笑うリヴァイ。

何だかやられてばかりでムカつく。




「まぁ、良い。胸糞悪いから俺の前で男といちゃつくな。それだけだ」



それだけ言うと気が済んだのか、その場を立ち去ろうとする。

意味のわからないことばかり言われて腹がたった名前は立ち去ろうとするリヴァイの腕を引いて自分の方に引き寄せ、そのまま彼の唇に触れるだけのキスを落とす。



「よくわからないけど、別にエレンのことは可愛い教え子としか思ってないし、エルヴィンのことだってとっくに家族としか見えてないよ、馬鹿兵長っ!」




突然の名前の行動に目を丸くする。

普段あまり表情が変わらないだけあって、こんなに目を丸くしている彼を見るのはレアだ。


満足そうに先に執務室に向かう名前。







「……人の気も知らねぇで、クソが」




そんな名前の後ろ姿を苦し気に見つめ、呟いたリヴァイの声は誰にも届くことなく広い廊下に消えていった。









そしてそんなことを言っているなんて思ってもいない名前もまた顔を赤く染めつつ壁に背中を預けてぼそりと呟く。




「この気持ち、言えたら楽なのにね…」










近いようで遠い。

そんな――――――――――








彼と私の複雑な関係





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