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喉の底、震える声を振り絞って言葉を紡ぐ。
何度か言おうとして飲み込んだ言葉、でも、今しか聞くことが出来ないだろう。

光り輝く貴方に向かってこう尋ねる。


「私のこと、少しでも好きという感情はありましたか…?」


「……だいきらいだよ」







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ルシ御一行がパラメキアに潜入するということで、名前は一人別行動を取っていた。
いや、シドがそうするように仕向けていた。
彼女は一応PSICOMの人間であるから表だってパラメキアへの潜入任務をすることも出来ないし、もう一つ彼女をルシ御一行と行動させたくない理由が彼にはあった。

だが、運命の歯車は上手く回ってくれることはなかった。



フィフス・アークの地にて彼はルシ御一行を待ち構えていた。
ルシとしての使命ではない。
自分での意思。運命に抗おうとした。

こんなはずではなかった。

人の手でコクーンを統制する世を作りたい…そう考えていたっだけだった。
地位や権力も手に入れることができ、やっとというところでこの悪魔のシルシが右手のできてしまった。


ルシ一行がやってきて、彼の姿を見つけると信じられないという表情をし、何故、と尋ねる。
何故か、理由なんかわからない。運命に抗いたいと思ったのだ。

異形の力を使いルシ一行の行く手を阻むが、彼らの希望の力には敵うことが出来なかった。最初から少し諦めていた。この物語を終わらせて欲しいと感じていた。
彼らに希望を託そうと手を伸ばした時、そこには居るはずのない人間が立ちつくしていた。



「何故…何故君がここに……」


彼の呟いた声は誰にも届いては居ない。
何故なら彼の呟いた声よりも大きな声で彼の名を呼ぶ大きな声が響いたから。



「シド……どういうこと…なの?」



何故彼女、名前がここに居るのかは分からない。
彼女は自分の命令によって騎兵隊とともに居て、この場所には居ないはずだから。
彼女は自分の言うことを無駄に破ることはしない。
だが、あることに気が付く。彼女の嫌な予感というものはあたる。そんな時の彼女は自分の勘のままに動くということを忘れていた。


「私…、なんとなく嫌な予感がして……」


やはりそうか。
せっかく彼女の知らない場所で静かに退場して、彼女には自分のいない世界で生きていって欲しいと思っていたのに。

もう声を出すことすら無理そうであった。
指先から感覚が失われていく。あぁ、クリスタルになるのか。それともシ骸だろうか。
彼女の今にも泣きそうな顔が映る。
何か言ってやらなくては、と思うが口が動かない。


そんなシドの代りに言葉を発したのは名前だった。


「私のこと、少しでも好きという感情はありましたか…?」


彼女から出てきた言葉とは思えないほどに意外な言葉であった。

一度も愛の言葉を囁きあったことなどない。
そういう関係でもなかった。私たちは理想を元に共に過ごしてきただけだから。
軍人である以上、弱みを作るべきものではないと思っていた。
愛する者を作ってしまえば、それは必ず弱みになるだろう。
だからあえてそういう愛の言葉を囁くような関係にはなっていなかった。簡単に言うと都合の良い関係であった。

だが、彼女の気持ちには気が付いていた。
だから知らないふりをしていた。気付かないふりをしていた。
彼女の中で自分という存在が大きくなっていくことが怖かった。


だから私は最期に精一杯の言葉を彼女に告げた。



「……だいきらいだよ」



身体が凍っていく瞬間に見えた彼女は少しだけ、微笑んでいた。

きっと彼女の精一杯の強がり。
私に心配をかけないようにとした強がりだろう。


だから私も微笑んだ。




ほら、もうシド・レインズに縛られなくて良いんだよ…と心を込めて。






だいきらいって囁いた。君は少しだけ笑顔をくれた