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大きな窓から下を見下ろすとコクーンの街並みが一望できる。
私はこの場所が好きだ。

"巨大空母飛空艇リンドブルム"


PSICOMに所属している私は士官学校の先輩であったシド・レインズの誘いから彼の理想である"人の手でのコクーンの統制"を目指して彼の指示で動いている。
PSICOMに入隊したのだって彼の指示のようなもの。
そんなある日、下界のルシが現れて、そのメンバーを援護するとの要請があり、この飛空艇に乗っている。
PSICOMにバレればきっと除隊どころでは済まないが、彼からの要請だから良いのだ。
私はもう彼中心で動いているわけだし、人生捧げてしまったようなものだし。



「何故ここにPSICOMの人間が居るんだ」


突然後ろから声をかけられ、振り返ると桃色の髪をした綺麗な顔をした女性が一人立っていた。
私を敵とみなしているのか剣に手をかけている。

そこで私はPSICOMの制服を着ていることに気が付く。
そしてこの女性が見かけない顔であると思い、考えを巡らせると一つの過程に辿り着く。


「あ、貴女が下界のルシさんですか?」


今にも剣を抜こうとする彼女を見て自分の過程が間違っていないと確信する。
彼女に敵意がないことを証明するためにゆっくりと両手を上に上げて謝る。


「ルシ、なんて言ってしまってごめんなさい。確信ができなかったもので。私は貴女たちの敵ではないわ。捕まえようとも殺そうとも考えていない。むしろシドが貴女たちの味方なら私も味方、かしらね」

「レインズの知り合いなのか…?」



綺麗な顔に眉間を寄せて呟く彼女がおかしくて、ひとまず肯定の言葉を一つ告げる。
シドが私の正体を明かしてないのなら私もまだ明かすべきではないだろう。



「きっとまたすぐに会うと思うわ、またね、美人さん」




その宣言通りですぐに彼女と再会することとなった。
それはルシの仲間である二人を救出するという作成会議の場所である。

シドに連れられて会議室に入ると、その場に居たルシ御一行が息を飲んだのがわかる。
バンダナを巻いた威勢の良い男が「PSICOMの人間が居るなんて聞いてねー」とこちらに向かってくるのを美人さんが待てと止めているのを眺めていると、シドが口を開く。



「彼女をPSICOMに所属はしているが、私たちの味方だ。これからの作戦にも協力してもらおうと考えている。彼女はPSICOMの少佐であって私の婚約者だから安心して欲しい」



で、作戦について話そうか、と言うシドの言葉にルシ御一行は付いていけていない様子であった。
私とシドを交互に見つめて、固まっていた。
バンダナくんなんて「ありえねぇ」と呟いており、シドに満面の笑みを送られていた。

そんな中、今後の作戦に関して話し合いをしていったのだった。







―――――――――――――――




リンドブルムの艦体の中はとっても広い。

ここで勤めている者はこの艦体の中に住んでいるようなものである。
だからある程度、位のある者に対しては一つの部屋が与えられている。

シド・レインズ、彼はこの艦体の責任者でもあるため、もちろん私室が与えられている。そこは執務室からつながっている部屋で、一番大きな窓が付いた部屋である。
名前は当たり前のようにその部屋の窓辺に腰掛ける。
コクーンを一望し、これからの戦いに一抹の不安を覚えた。
嫌な予感ほどあたる。それが怖かった。


「風邪、ひくよ。こっちへおいで」


優しく呼びかけ、大きな手を広げベッドに腰掛けるシド。
不安を消すかのように、その腕の中に飛び込み、しがみつく。


「不安かな?」


言葉にできなかった。
言葉にしてしまったら、この戦いを辞めようと言ってしまいそうな気分だったから。
だから彼の大きな腕の中でうずくまり、言葉を飲み込んだ。


「名前は後悔している?私とこうして歩んできた道を…」


らしくなかった。
いつも自信満々で芯が通っているシド。
彼もまた一世一代の大勝負で不安なのかと思っていた。


「後悔なんてしてないですよ、シド。貴方と歩んできていっぱい良いこともありましたから。絶対シドの婚約者になんかならないって学生のころは思っていたんですけどね」

「そうだね、でも君は敬語だけは抜けなかったね」

「確かに、もう癖ですよ」


彼の顔が見たくて、視線を合わせると吸いこまれるように唇を合わせた。
最初は触れるだけのキス。それが徐々に深くなって呼吸が苦しくなる。

彼とは愛の言葉を囁きあったことなんてない。
そんな甘い関係ではないから。色々な利害の一致のようなものでこのような関係になった。お互いちょうど良かったのだ。
だからたまにはそういう関係にもなっていた。
きっと寂しさや重圧からのを不安定な心を埋めるだけの何の意味も持たない行為。

けれど、いつからか私には意味を持っていた。
でも言葉になんて出さない。彼がちょうど良い関係を望んでいるならそれで良い。
彼は少なからず私には弱みを見せてくれたから、それだけで十分。

愛、なんて必要ない。必要ない。必要ない。


触れた唇を離すと同時に背中が柔らかいベッドに付く。
視界には天井とシドの真剣な表情だけ。
このまま時が止まれば良いのに、なんて乙女なこと言わないよ。

彼の首に両手を回し、もう一度キス。
そして彼の手が私の身体に優しく触れて行く。彼の触りかたは優しすぎて悲しくなる。愛されているんじゃないかって勘違いしてしまいそうになる。

ねぇ、もっともっと触れて欲しい。―――――――――



――――――――――――――――


肌寒さに目を覚ますと広いベッドには自分一人しか居なかった。
隣に手を伸ばすとほのかに温かい。それに自分自身の身体も温かい。きっと彼の腕の中で眠っていたのだと思う。

もう彼は隣には居ないのに私の身体には彼の優しい感触が残っている。
素肌をシーツで包み、彼の温もりを抱いた。




きっと愛しているのは私だけのはずなのに、どうしてこんなに温もりが残っているんだろう。
この温もりが冷めて欲しくない。

いつから自分はこんなに彼を愛してしまったんだろう。







重なり合った肌から伝わる温もりをずっと持て余してるよ