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君はいつも笑顔だった。

名前はどんな時でも、いつでも笑顔で近くにいるだけでその場の空気が明るくなるような、そんな人物だと思っていた。

士官学校を卒業して、自分の指示で彼女をPSICOMEに入隊させた。
そんな時も文句は言わず、エリート街道進めるなんて幸せですね、と笑って見せた。
頭の良い彼女のことだから、私が彼女を利用して情報を手に入れようとしていることなんて分かっていたはずなのに、彼女は文句一つ言わずに笑ってシドに人生を捧げるって約束しましたから、と言った。

学生の間はシドさんと呼んでいたが、私が学校を卒業してから呼び捨てにさせた。
レインズではなく名前で呼ばれることがなんとなく心地よかったからだと思う。

彼女がPSICOMに入隊し、地位を築いていったが、私の指示には忠実だった。
忠実だったが、彼女は彼女なりの筋が通っていて、違うことは違うと言って私と正面からぶつかってきた。それは学生時代からもそうであり、珍しかった。
自分の意見に反対する人間なんてきっと彼女ぐらいだろう。
だからいつの間にか、彼女の笑顔に、人柄に惹かれていって、彼女に婚約しようと告げたのだろう。

幸せそうに笑う彼女を見て、一生彼女を守りたいなんて普通の人間が考えるようなことを考えてしまった。
だから罰が当たったんだろう。
彼女にPSICOMから除隊しないか、と聞こうとしていた日だった。
そんなある日、ルシのシルシが右手に現れ、ルシにされた。
彼女に除隊を進める言葉は二度と出なくなってしまった。


それでも彼女に会いあたくて、突然彼女に会いに行った。
彼女は突然会いに来たシドの姿に驚いた表情をしながらも、すぐに笑顔を見せた。



「シド、こんなところでどうしたんですか?お仕事です?」

「いや、ちょっと君に会いたくなってね、迷惑だった?」

「変なシド。全然迷惑じゃないですよー、さ、私の部屋に入ってください」



少し狭い名前の部屋は、あまり物が置かれてなく、生活感がない。
それもそうだろう。彼女は最近出世して中佐になった。この若さでその地位になるということは大変なことが多い。だからきっとあまりこの部屋には帰ることができていないのだろう。


「あまり部屋の中見ないでくださいね、恥ずかしいので」


鼻歌交じりで、飲み物を用意する彼女を見て右手が疼いた。

彼女を幸せにしてあげたかった。
しかし私の使命は別に出来てしまった。その上で彼女の立場は邪魔になってきてしまうだろう。きっと彼女は私のルシとしての使命は邪魔をするだろう。


「はい、どうぞ。温かい内に飲んでくださいね。…なんか、シドから突然会いにきてくれるなんてなんだか嬉しいですね」


そう笑顔で呟く彼女の言葉にルシとしてではなく、シド・レインズとしての心がずきんと痛んだ。
彼女はいつからかシド・レインズ中心で世界が回ってしまっている。
そんな中で自分という存在が裏切りという形で消えたら、彼女はどうなってしまうのだろうか、と一抹の不安がよぎった。


そのまま彼女の部屋でゆっくりとしていると、リンドブルムに帰還できる時間をとうに過ぎてしまっていることに気が付き、彼女の部屋に泊まることになった。

少し狭いベッドで身体を触れあわせながら眠る。
名前は仕事で疲れているのか、シドの手を握りしめながらすぐに眠ってしまった。

シドは綺麗な寝顔を眺めながら、そっと前髪を寄せるようにして頭を撫でる。



「君にとって私の存在ってなんだろうね」



そう小さく呟くと、まるで聞いていたかのように寝言を言った。



「…ん、シド……好き、ですよぉー…」



どきんと心臓が跳ね、全身の血流が良くなったことに気が付く。
あくまで寝言ではあるが、寝言でまあでそんな言葉を言ってもらえるとは思わなかった。
起きている時には口ではお互いに愛の言葉は囁き合わない。それがちょうど良いと思っていたから。
でもやはり好きな女にそういった言葉を言ってもらうのとでは、全然違った。

シドは綺麗な顔を歪めながら、名前の頭を優しく撫でて、小さく呟く。



「私も名前のことを愛しているよ」


ただその呟きは名前に届くことはなかった。
届かせるつもりもなかった。

何故ならルシである自分は消えて行ってしまうだけの道具の存在だから。







だからきみには言わないぼくの中の一番の言葉