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「名前ちゃん、いつまで外に居るつもりや?風邪ひいてまうよ」



お店の扉を開け、そう声をかける彼の顔を見て「出雲さん、もう少しだけ」と言えば少し切ない笑みを浮かべながら、「ならこれを肩に掛けぇ」と小さな毛布を一枚肩に掛けてくれた。


私の視線の先は一つ。

綺麗な夕日に照らされている街並み。


こんな綺麗な夕日を見るとどうしても彼のことを考えてしまう。



そう、すごく幸せだったあの素敵な日々を…。




















――――――――――――







下校時間はもう30分前に過ぎ、部活に入っている者は部活動に励み、部活に入っていない者は下校時間になればすぐに帰宅する。
だからこの時間に帰宅する生徒の姿はまばらになっていた。

せっかく今日は彼と帰ろうと思っていたのに、担任に呼ばれたためこの時間まで拘束されてしまったのだ。



「(今日は尊さんのところに行くって言ってたからもう居るわけないよ、ね)」



そんなことを考えながら歩いていると、ガラの悪い男子学生数人にぶつかってしまう。
面倒事は嫌いなので、慌てて謝れば「おい、ちゃんと前見ろよ!」と、怒られるだけで済みほっとした。

しかしほっとしたのは一瞬だった。


何故ならその男子学生たちの会話が耳に入ったからだ。




「あいつ、弱すぎだろー!」

「なにがキングだ、調子に乗んなよな」

「殴られてるのに笑ってやんの、キモイったらねーの」




ゲラゲラと笑いながら話す男子学生たち。
私の頭の中では確信に至っていた。

この辺りで人目につかない所は、と考えながら走った。



「(お願いだから、無事で居て…!)」




この辺りで思いつく人目につかない場所は一つ。
名前は必死に走り続けた。

目星のつけた場所に近づくとそこには地面にうずくまる一人の金髪の少年が居た。

あの金髪の少年は彼で間違いない。
力が入らない足をどうにか前に進める。




「多々良…っ!!!」



地面にうずくまる金髪の彼の名前を呼べば、重そうに身体を起こし壁に身体を預け、こちらを見て優しく微笑んだ。

「お、名前かー」なんて調子よく私の名前を呼んだのだが、唇が切れてしまったのか口の横から血が溢れ、彼の纏っている制服もボロボロであちこちに血が滲み、今にも意識を失ってしまいそうな様子だった。



「多々良、ひどい怪我!病院…っ」



彼の横の座り、鞄から携帯を出し救急車に電話をかけようとすれば、彼の腕が私の携帯を握る手を掴み弱弱しい力で抑え込まれてしまう。



「大丈夫、骨折もしてないみたいだから、このままここで少し休めば動けるようになるから」


「でも…!」

「俺は、大丈夫だから、ね?」



「だから少し名前の肩を貸して」なんて言いながら、携帯を持った手は握られたまま肩に頭を預けられれば何も言えなくなってしまう。

彼との距離がいつもより近くて、こんな状況なのにドキドキしてしまった。

さらさらな綺麗な金髪は透き通るようで、彼がなんだかいつか目の前から消えてしまいそうな気さえもした。


そんな体制のまましばらくすれば、ゆっくりと頭をあげ向き合う形になった。




「うん、名前のおかげでもう大丈夫」



優しくいつもの笑顔を浮かべると、ゆっくりと立ち上がり身体についた泥を払う。
やはり身体はすごく居たそうで時折、綺麗な顔をゆがめたりしていた。




「多々良、これから尊さんのところに行くの?」


「んー、この恰好じゃちょっと無理かな」




へへへっと笑う彼を見て、私はどうしてそこまでしてまで尊さんに着いていこうとするのかがわからなくなった。

この前だって今日のようにやられ、病院に運ばれるに至った。


たしかに尊さんは以外に仲間思いで優しく、すばらしい人であると理解はしている。しかし私は恋心を抱いている彼が傷つく姿はもう見たくはなかった。




「ねぇ、多々良、もう尊さんには近づくのやめたほうが良いよ」



彼がどんなに尊さんを尊敬しているのかは知ってた。
だからこの言葉は絶対に言ってはいけない言葉だともわかっていた。

それでも私は震える身体に鞭を打ってこの言葉を言った。



きっと怒られる、そう思い下を向く。

しかし彼から発された声はとても優しいものだった。




「ありがとう、名前」


「……え…?」

「心配、してくれてるんでしょ?俺のこと」



全てを包み込むかのような優しい声に涙が零れそうになった。

それを知ってか知らずか彼は私の両頬に手を宛て、目を合わせた。




「俺のことは大丈夫、何とかなる、何とかなる」



そう言って微笑む彼は、夕日に照らされ綺麗だった。

溢れる涙は止めることが出来なくて、子供のように泣きじゃくってしまった。
しかしそんな私を彼は優しく微笑みながら、傷だらけの手で涙を掬い頭を撫でてくれた。



「ほら、帰ろう?」



優しく伸ばされた手に自分の手を重ねた。

普段なら子供扱いするな、と捻くれたことばかり言ってしまうが、何故だか素直に手を重ねることが出来た。


絶対に口にすることは出来ない好きだよ、という気持ちを手のひらに乗せた。




「ね、多々良」


「ん?」

「これからもずっとこうして一緒に居られるよね…?」





別に恋人同士なんかじゃない。私たちの関係を表すとしたら友人。
尊さんで繋がっているようなもの。

何故自分でもそんな言葉が出てしまったのか不思議だった。




「ごめん、やっぱり今の質問なしに…っ!」



慌てて今の言葉を無しにしようとしたが、ぐっと私の腕を引き寄せ私のおでこに自分のおでこをぶつける多々良によって遮られてしまった。
鼻と鼻もぶつかってしまうのではないかという距離に顔が赤くなってしまってきているのが自分でもわかった。



「あたりまーえ、一緒に居るよ」



そう言うと何事もなかったように手を引き歩き始めてしまう多々良の背中を見つめた。



この先の長い未来でも多々良と同じ道を進めるように願った。

そして信じていた、あの日までは………






















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先程まで綺麗だった夕日も落ちてしまい、辺りは薄暗くなってしまっていた。

少し肌寒さを感じたがお店の中に入る気にはならなかった。
冷えた手で自分のおでこを触るが、ただ冷たいだけ。



「何とかなるんじゃなかったの、多々良…?」



そう小さく呟いた声は大きな空に吸い込まれるようにして消えて行った。






貴方が居ない世界なんてこれっぽっちも温かくないの。







私にとって貴方は―――











陽だまりだったの