今の私を見てください






「クラサメ隊長、おはようございます!」


「あぁ、おはよう」



魔導院内の廊下を歩いていれば、すれ違う候補生たちに挨拶をされ、軽く返せば黄色い声が響き渡る。

魔導院も平和になったものだ。
と、心の中で思えば数ヶ月前までの出来事が嘘のようだ。



数ヶ月前、ルルサスという者が現れ世界は終焉を迎えるかと思われた。

が、0組が審判者となったシドを倒し、世界は朱雀を中心とし復興を始めた。



クリスタルが使えなくなった今、魔力は急激な衰えを見せた。

だから魔導院では魔法を使わずに生きていく術や様々な技術を教える学校となった。



もの凄いスピードで世界は変わっていった。

その中でも何も変わることがなかったのは、ユリア隊長の笑顔の記憶だった。





「……ユリア隊長、」



小さく名前を呟けば、彼女と過ごした候補生時代の記憶が甦る。

記憶がある、ということは彼女はあの戦乱の中で生き延びたということだ。


今は死んだ者の記憶も無くならない世界になったと聞くが、あの戦乱の最中に亡くなったのならば記憶には残らないはずなのだ。


















――――――――




「たいちょ〜、たいちょ〜って彼女とか居ないんですかぁ?」



シンクの緩い声が教室内に響けば、0組の皆が一斉に教団を見つめる。




「確かに、疑問だよね!」

「そういえば浮いたお話は一切聞いたことがありませんね」

「で、隊長、実際はどうなんだ?」



ケイト、クイーン、エースの順番で詰め寄られれば、本当にこの子たちが審判者を倒したのか疑問に思う。

しかし彼らの実力は本物だった。




「私は指揮隊長だったからな」


「でももう平和だし〜、指揮隊長とか関係ないよねぇ〜」



そう上手く誤魔化せたと思えばジャックの緩い声が鋭いツッコミをする。




「で、どうなんだよ、コラァ」


「………お前まで言うのか」

「それもどういう意味だ、コラァ」




賑やかになる教室内に小さく笑う。
自分自身も驚くほど穏やかに笑っていた。






「そうだな。恋人と呼べる女性は居ないが、ずっと昔から慕っている女性は居る。その女性は恩師でもあり、その女性が居たから今の私が居ると言っても過言はない」




一瞬の静けさ。

ヒュ〜っという口笛が響けばそれと同時に教室内が一気に騒がしくなる。


それ以上この生徒たちに話す気はなく、逃げるように教室をあとにする。

























足早に魔導院内の廊下を歩いていれば、懐かしい声が響いた。




「……クラ、サメくん?」



何年も忘れることが出来なかった優しい声。

なぜだか振り返るのが少し怖かった。


何時までも振り返ることが出来ずにいれば、その声の主は歩みを進めてクラサメの前に立った。





「やっぱり、クラサメくんだ。まさか帰って来て早々に会えるなんて…驚いちゃった」




ニコニコと笑みを浮かべる姿は昔と変わらず、見た目も全く変わっていなかった。






「………ユリア、隊長…」


「もう、私は隊長じゃないわよ」



茶化すかのように笑いながらそう告げる隊長。

そうだ、私は彼女に追い付いたのだ。


何から話せば良いのか考えていれば、後ろからパタパタとこちらへ向かってくる足音が響く。




「たいちょ〜、やっとこの課題終わったよ〜。たいちょー相変わらずハードだからもう、シンクちゃん疲れちゃったよ〜」



課題を差し出すシンクはクラサメの前に立つ女性に目を向ける。





「うっはぁ〜!すんごく綺麗な人〜!」


「ふふ、ありがとう。貴女はクラサメくんの生徒なのかしら?」

「そうで〜す!この鬼のように厳しいたいちょーの生徒で〜す」

「あはは、やっぱり厳しいんだ?それは大変ね」

「大変で〜す」


「おい、お前がしっかりと課題を出せば問題ない話だろう」




シンクを一睨みすれば、なぜだか瞬時にユリア隊長の背に隠れる。




「ほら、クラサメくん、ほどほどにしてあげなさいね」


「………………」

「うはぁ〜!すっごいねぇ、綺麗なお姉さん!たいちょーを黙らせちゃったよ!お姉さんとたいちょーはどんな関係なの〜?」

「ふふ、クラサメくんはね、私の教え子よ。彼が候補生の時の指揮隊長をしていたの」


「指揮隊長……、ってことはさっき教室でたいちょーが言ってた女性って…!」




そこまでシンクが告げれば、クラサメは慌てて彼女の腕を引き、教室に戻るように命令する。

コソコソと彼女の耳元で何かを囁いていると思えば、彼女の顔は一瞬で青くなり、慌てて教室へ戻って行ったようだった。





「ふふ、クラサメくんもなんだかしっかり隊長さん、ね」


「…ずっと、」

「え?」


「ずっとユリア隊長に追い付きたかったんです。……ユリア隊長、私は貴女に追い付くことが出来ましたか?」




クスクスと笑っていたユリアだったが、クラサメの真剣な表情を見て笑うのをやめた。




「クラサメくんは私よりも立派な士官になったんだね。君は昔から今も、私の誇りよ」


「誇り、なだけですか?」

「………っ!」



目を逸らすユリア隊長。

昔のように彼女の腕を掴めば、今まで抑えていた気持ちが溢れ出した。





「ユリア隊長…、いえ、ユリアのことが私、俺はずっと好きです」



「クラサメくん…っ、私も……」




ポロポロと涙を流すユリアを腕の中に閉じ込めた。

昔と変わらない甘い香水の香りが鼻腔をくすぐり、なんとも言えない気持ちになる。





「もう一度聞きます。貴女に追い付くことが出来ましたか?」


「うん…っ」

「なら、俺に貴女の隣を歩かせてはもらえませんか?」


「……うん…っ」





彼女との二回目のキスも涙の味がした。

でもこれからのキスは、きっと甘い甘い味のキスなのだろう。


ずっと前を歩いていた彼女の隣は、温かい日だまりの場所。




貴女を追い続け、貴女を愛し続けます。






だから出来ることなら貴女も私を…


愛 し て く だ さ い










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終わりましたー!
愛してください、こんな終わりを迎えました!
ありきたりすぎて、辛い←

本当はもっとトントン拍子で終わらせる予定だったのに、こんなに長くなってしまって。

ちなみに全タイトルの頭を読むと…ってやつをやってみたww

ふぅ、終わって一安心です。


候補生クラサメ×隊長夢主はやっぱり書くのが好きですね。

またそのうち、年上夢主書いちゃいます!


最後までお付き合いいただきありがとうございました!



2012/4/15




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