さようならは言わないで
《ごめん、ね》
そう小さく震える声で告げたその一言には、もうなにも言い返すことが出来なかった。
いつもの朝。
ホームルームでユリア隊長と顔を合わす。
いつものように微笑む隊長。
しかし一向にこちらの方を見ようとはしていないことに気がついた。
ホームルームが終わり、彼女の背を追いかければすでにそこに彼女は居なかった。
昼休みになり、カヅサやエミナと昼食を取っていればそこに見かけるのはユリア隊長と以前ひと悶着があったムカつく武官の姿。
「あれれれ〜?何だか親密な様子ダゾ、クラサメくん!」
「良いのかい?」
エミナとカヅサも隊長とその武官の姿に気がついたのか、そんな言葉を発していた。
「……俺に振るな」
昨日の今日で俺が隊長に話かけられるわけがない。
それになんとなく隊長に避けられている気がするのだ。
そんなピリピリとした空気を感じ取ってか取らずか、二人はもうなにも言ってはこなかった。
授業中も隊長とあの武官の姿を思い出し、頭にはほとんど入ってはこなかった。
放課後になり、頭を冷やしたくてテラスへ向かえば先客が居た。
「…ユリア隊長」
「!」
びくんと肩が震える隊長。
「偶然、ね」
「………………」
「今日はなんだか授業中も集中してなかったみたいね。気をつけてね、じゃぁ」
一切目を合わさない隊長を見て、やはり避けられていることに気がつく。
手を掴もうとしたが、出来なかった。
テラスを去っていくユリア隊長の後ろ姿をただ見つめることしか出来なかったのだった。
次の日、教室にやって来たのはあの例の武官の男だった。
ざわめく教室。
「静かにしてもらえるかな」
武官の一言で静まりかえる。
「ユリア武官は急な任務で魔導院から離れることになった。よって君たちの後任の隊長が決まるまで、私が君たちの隊長の変わりをするようにユリア武官に頼まれた」
頭が真っ白になる、というのはこういう時のことを言うのだろうか。
何も考えられなかった。
ただあの武官の話す言葉は右から左へと流れていくだけだった。
ホームルームが終わり、騒然とするクラス内。
どうして良いか解らず、とりあえず教室を出れば後ろから声をかけられる。
「生意気な候補生くん」
「!」
「そんなにびっくりするなよ。良いこと教えてやるよ」
「良いこと…ってなんですか」
「ユリアのことだよ」
「…っ!」
《ユリアに会いたいんなら、今すぐに飛空挺発着所に行くんだな》
授業なんかどうでも良かった。
ただはたすら走った。
飛空挺発着所に行けば、そこにはたくさんの荷物を持ったユリア隊長の姿。
「ユリア隊長…っ!」
「……クラサメくん…?なんで…ここに?え…、授業は…?」
ユリア隊長と向かい合わせになる。
「何故、突然…魔導院を離れるなんて……」
「ごめん、ね。……私、隊長失格だから」
「そんなことありません!隊長は俺にとって……っ」
それ以上言葉は続かなかった。
何故なら唇には柔らかい感触が、そして隊長の甘い香りが広がっていた。
「ん…っ」
「クラサメくん、さようなら。こんな隊長でごめん、ね」
再び飛空挺へ歩き出す隊長の背中に向かって叫んだ。
「必ず、貴女に追い付きますから!だから、一生の別れみたいにさようならなんて言わないで絶対に帰って来てください…っ」
ユリア隊長は少し立ち止まりはしたが、振り返りはしなかった。
その背中を目に焼き付けるかのように飛空挺が見えなくなるまで見つめ続けたのだった。
―――さようならは言わないで
(ずっと待っていますから)
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あと一話で終わりますー!
珍しくしっかりプロット通りに進めてます。
よし、あと一話のお付き合いを宜しくお願い致します!
2012/4/7
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[mokuji]
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