だって気付いてしまったんだ
「とりあえずこれで私が居なかった分の自習中の課題は全部ね。じゃぁ、今日はここまでよ。皆、お疲れさま」
ユリア隊長は現場に復帰しいつもの様にそう告げれば、クラス全員分の大量の課題を持って教室を後にする。
机に広げていたノートや教科書をそのままにしたまま慌ててその背中を追いかけた。
「…ユリア隊長?」
すぐに隊長の背中は見つかった。しかしクラサメは異変に気がついた。
たくさんの課題を抱えて重い足取りで進む隊長は少しフラフラとしていたのだった。
急いで彼女の元に向かおうしたその瞬間、バランスを失った彼女の身体は腕に抱えていた重い課題と共に傾いていく。
「危ない…っ」
そう呟くと同時にクラサメの身体はユリアの方へ向かっていた。
辺りにはたくさんの課題が床に散らばった音が響く。
しかし隊長の身体は床にぶつかることはせずに間一髪でクラサメが腕の中に抱えたのだった。
「ユリア隊長っ、大丈夫ですか?」
「…んっ、クラサメ…くん?ごめんなさい、大丈夫よ」
クラサメの鼻孔にユリア隊長の少し甘い大人の香りがくすぐる。
そのまま抱き締めてしまいそうになる気持ちを理性で抑え、そっと彼女を放し、床に散らばった課題を集めた。
散らばった課題を全て集め抱え、隊長の顔を覗けばそこには青白い顔をしていた。
「まだ退院したばかりで体調、悪いんですか?」
「違うの、大丈夫よ。ただの貧血だから、ね。課題拾ってくれてありがとう。自分で運べるわ」
まだ少しフラフラしながらも、クラサメの腕の中にある課題を持とうとする隊長。
「俺が運びます。ユリア隊長、まだフラフラしてるじゃないですか」
「もう大丈夫だわ」
「俺が運びたいから運ぶんです。ユリア隊長はまた倒れないようにしっかり歩いてください」
隊長の言うことを聞かずに足を進めれば、後ろで隊長が静かに笑っていた。
自分らしくなく少し恥ずかし気持ちが芽生え、後ろは振り返らなかった。
それでもまた隊長が倒れたら困るので任務の時以上に後ろに気配を配りゆっくりと足を進めた。
魔法陣を起動し武官の執務室がある廊下を進んでいけば、すぐにユリア隊長の執務室があり、執務室に入り机の上に課題を置く。
「結局ここまで運んでもらっちゃったわね、ごめんね」
「俺がやりたくてしたことなので、謝らないで下さい」
「…クラサメくんは優しいね」
静かに微笑むユリア隊長が綺麗で、溢れ出す想いが止められなかった。
「ユリア隊長…っ、」
「ん?何?」
「ユリア隊長のことが好きです」
彼女の瞳を真っ直ぐ見つめそう告げれば、目をそらされる。
「…私もクラサメくんのこと、候補生として好きよ」
とても小さな声で告げられた変事。それは"候補生として好き"という残酷な言葉だった。
でもいつもの彼女らしくなく、俯き小さな声で告げる彼女に違和感を感じた。
「俺は、ユリア隊長を一人の女性として好きです。候補生としてではなく、一人の男クラサメ・スサヤとして見てください」
目を合わせて断ってもらわないと諦めきれない。
そう思ったクラサメはユリア隊長の腕を掴んだ。
「!…放してクラサメくん、クラサメくんのことは嫌いではないけど貴方は候補生よ?……私は君の隊長なのよ」
それははっきりとした拒絶。
それでも震えた声で話す隊長を、諦めるためにはもっと拒絶して欲しくて彼女を腕の中に閉じ込めた。
「は、放して…っ!」
強い力で胸を押され、隊長の身体が腕の中から消える。
そして背を向けられてしまう。
「何を考えてるの…っ。候補生としての自覚を持って……」
その背は少し震えていた。
「ユリア隊長…?」
肩に手をかけ、彼女の顔を見れば少し頬が赤く綺麗な瞳は涙で滲んでいた。
「………っ、」
そんな隊長の顔を見て、もう気持ちを抑えることが出来なかった。
彼女が欲しくて、自分のものにしたいという想いを込めて先程よりも力強く彼女の身体を抱き締めた。
「ユリア隊長が好きです、……いつか貴女に追い付きますから」
ユリア隊長は何も言わなかった。
拒否するわけでもなく、抵抗するわけでもなく静かにその小さな身体を震わせていた。
―――だって気付いてしまったんだ
(どうせなら気付かなければ良かった)
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この設定のお話を思いついた時に一番最初に思い浮かんだのがこの話でした。
もどかしい二人を書きたかった…!
ちなみにこのお話はもう少しで終わるので次回予告はお預けです!
お楽しみに!
2012/4/2
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[mokuji]
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