悔しいくらいに遠い人
ユリア隊長はあの演習で足を撃たれていた。
その弾は貫通することなく隊長の足に残っていたために手術をすることになり、数日間の入院生活を余儀なくされた。
入院している隊長の代わりに報告書を作って提出したりと忙しく、全てを終わらせやっとのことで隊長のお見舞いに来ることが出来た。
しかし病室の扉の前に立てば中からは楽しそうに話すユリア隊長の声。
扉を開ける勇気がなく立ち尽くしていれば、中から扉が開けられる。
「あ、すみません!扉あたりませんでしたか?」
「い、いえ。大丈夫です」
病室から出てきたのは様々な色のマントを纏う候補生たち。
「ユリア隊長ー、新しいお客さんが来たみたいなので私たちは帰ります。早く治してまた訓練してくださいね!お大事に」
男女共に人気の隊長のもとにはこうしてたくさんの候補生が集まる。
全員中から出はからったのを見れば中に入っていく。
「いらっしゃい、クラサメくん。わざわざ来てくれてありがとう。私が入院してしまったせいで色々と大変だったでしょう?」
「いえ、大丈夫です。それよりもユリア隊長のほうが大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。皆大袈裟なだけで怪我自体はたいしたことがないし、あと二、三日で退院出来るはずよ。なのにこんな皆して大袈裟だから」
笑いながら辺りを見回せば、綺麗な花束やお菓子、果物の詰め合わせなどがたくさんあった。
「俺………」
「ん?」
「俺、何もないです。気が利かなくてすみません」
「なーに言ってるの!君は気なんか遣わないで!顔を見せてくれただけでも君の隊長は嬉しいわよ」
背中を強く叩かれれば、そこには優しい笑顔を浮かべる隊長の姿。
隊長は誰よりも美しいな、なんて思っていれば扉がノックされる。
「はーい」
「こんにちは、ユリア隊長」
語尾にハートが付くような声で扉から首を覗かせたのはよく知った人物たちで。
「あれ、クラサメくんのお邪魔しちゃったかな?僕たち」
「あららら〜、ごめんネ!クラサメくん」
「カヅサにエミナか。別に邪魔などしてないだろう。変なことを言うな」
二人っきりの時間を邪魔されていらっとなんてしていない。
していない……はずだ。
「エミナちゃんもカヅサくんも来てくれてありがとう」
「はい、これは大好きなユリア隊長への私とカヅサくんからのお見舞いです!」
そうエミナが手渡すのはゼリーがたくさん入っていた美味しそうな詰め合わせの箱だった。
「わー!美味しそう!そんな気なんか遣わなくって良かったのに」
「いいんですヨ!いつもユリア隊長にはお世話になってますから。それにどうせクラサメくんは気が利かないから手ぶらで来てそうですし」
クスリと笑いながらエミナはこちらを見る。
「………………」
「あら、図星?」
「ほらほら、エミナちゃん。あまりクラサメくんをからかわないの。良いのよ、君たちがこうして顔を見せてくれるだけで、ね」
ユリア隊長、大好きー!なんて言いながら隊長に抱きつくエミナを見て羨ましいなんて思ってない。
すると耳元で囁くカヅサ。
「クラサメくん、エミナくんが羨ましいとか思ってるでしょ」
「は?」
「すっごく怖い顔しているよ」
クスクスと笑うカヅサにムカついたので脇腹に肘打ちをしてやれば、脇腹を押さえながら涙目になってこちらを見る。
「い、痛いよぉ〜、クラサメくん」
「自業自得だな」
エミナは相変わらず隊長にべったりだし、カヅサはムカつく。
「ほら、クラサメくんもカヅサくんもそこで二人で仲良くしてないで一緒にこのゼリーを食べましょうよ」
「な、仲良くなんてしてません!隊長!」
「ちょっと、傷付くな〜。クラサメくん」
「ふふ、ほら早くおいで」
いつも隊長には敵わなくって。
彼女の笑顔を見たらなんでも許してしまいそうな気になる。
そんな不思議なオーラを纏った人物だった。
「じゃぁ、そろそろ私たちは帰りますネ!早く復帰してください」
「うん、もちろん!今日はありがとうね」
日も暮れはじめたので帰る準備をする。
俺たちが病室に居た間にもたくさんの武官や文官、候補生がお見舞いに来ていて彼女の人気さを実感した。
お見舞いでもらった物がたくさんあり食べきれないということで、なぜか俺たちはたくさんのお見舞い品を持たされた。
「ユリア隊長、」
「なに、クラサメくん」
「次に来る時には何か買ってきます。何が食べたいですか?」
「もう退院だし、来なくても大丈夫」
「でも…!」
「じゃぁ、退院祝いにはまたあのお店に連れてってね」
「…はい!」
病室を出て三人で帰り道を歩いていれば、先程の隊長と俺のやり取りを聞いていた二人がニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
「クラサメくんってばユリア隊長と親密〜ぅ」
「…エミナ」
睨んでみてもこの同期組には効かないのはわかっている。
「それにしてもユリア隊長は相変わらずの人気だね、クラサメくん。妬けるんじゃないのかい?」
「カヅサも乗るな」
「で、いつからそんな親密な関係になったのヨ」
「僕も気になるなぁ〜」
そんな同期組をかわしながら部屋に帰る。
部屋に入り制服の上着を脱いでベッドに座れば自然と大きな溜め息が一つ出る。
「……疲れた、な」
そう呟けば従者であるトンベリがお茶を淹れ運んでくる。
そんなトンベリの頭を一撫でし、ユリア隊長から貰った物をトンベリに差し出す。
「人気者のユリア隊長からのプレゼントだ。……人気者の、な」
嬉しそうに飛び回るトンベリを横目にベッドに身体を預ける。
ゆっくり目を瞑れば浮かぶのはたくさんの候補生たちに囲まれたユリア隊長の姿。
彼女が優しい笑顔を向けるのは自分だけではない。
その笑顔を自分のものだけにしたいのに…
―――悔しいくらいに遠い人
(いつだって貴女は皆のモノ)
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このシリーズはどんどん更新していくつもりだったのに、更新が遅くなってしまってごめんなさい!
思う以上に小説を書く時間が作れず、少しずつ空き時間に書いていたらこれを書くのに10日間以上かさってしまいました。
あと三話で終わりの予定です!
それでは次回予告…!
復帰した隊長。
しかし無理をしていることに気がついたクラサメはいつも以上に隊長を気に掛ける。
そんな隊長に想いを告げる覚悟をするクラサメだったが…
――だって気付いてしまったんだ
((どうせなら気付かなければ良かった))
好ご期待!
2012/3/30
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[mokuji]
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