縛りつけて封じた気持ち










「ユリア隊長、好きです…っ!」


「ありがとう、でもごめんね。気持ちはとっても嬉しいのだけど、貴方は候補生で私は隊長でしょ?君には君にぴったりの子が居るはずよ」


「では、僕が候補生を卒業すれば良いんでしょうか?」

「それはその時にならなきゃわからないでしょう?とりあえず私は今、恋人とか作る気はないの。だから君が候補生だとか、って言うのは大人の言い訳よ。ごめんなさいね」


「いえ…!しっかり返事を頂けて良かったです。ありがとうございました。あの、でも一度ご飯にお誘いしても良いですか…?」


「それもごめんなさい。候補生と二人っきりでのお誘いは受けないって決めてるの。何人かで、だったら喜んで」

「わかりました!ありがとうございました…!」







放課後、なんとなく外の空気が吸いたくなってテラスに向かってみればそんな現場に出くわした。




ユリア隊長に頭を深く下げ、去っていく6組の候補生。

深呼吸をして近くのベンチに座る隊長を見計らって彼女の背後から少しだけ気配を消して近づいていく。






「………クラサメくん?」




突然声をかけてびっくりさせようかとすれば、先に声をかけられこちらが驚く。





「あ、やっぱりクラサメくんだった。もう、気配なんて消さないでよね」



隊長は座っているベンチの横を一人分空けると優しく微笑むので、一礼して隣に座る。





「やっぱり人気者ですね」


「あ!また見られた…!クラサメくんにはそんなところばっかり見られちゃってるね」

「恋人作る気ないんですか?」

「うん。って、これ候補生と話すような内容じゃないわよね」




こんな話やめましょう、と話を変える隊長。

しかし恋人を作る気がないという言葉に嬉しいような、悲しい複雑な気持ちになった気がした。






「なんだかとっても美味しい甘い物が食べたいなー」




そんなことを空を見上げ呟いたユリア隊長。





「……食べに行きますか?」


「え?」

「甘い物。すごく美味しい所を知ってるんです」






同期を誘うかのように誘ってしまった自分に驚いた。

それと同時に後悔した。









「………よし、行こっか!」


「え…?」

「君が誘ってくれたんでしょう?連れてってよ、美味しい甘い物があるお店」

「良いんですか?俺、候補生ですよ」


「クラサメくんには助けてもらったしね!…君は特別かな?」







"君は特別"

そんな言葉に舞い上がってしまいそうになる気持ちを抑え込む。
































魔導院の門を出て近くの下町に行く。

そこは小さいお店で、お店の周りには可愛い置物がたくさんあった。




「へー、ずいぶん可愛いらしいお店知ってるんだね。意外、ね」


「エミナに連れて行かれたんです。もちろんカヅサと一緒に」

「ふーん。てっきり可愛い女の子と二人っきりで来たのかと思っちゃった」

「ユリア隊長…っ!」


「あはは、ごめんね」





隊長と呼べば、すごくおかしそうに笑う隊長を見てからかわれていたことに気がつく。





「早く中に入りますよ」


「クラサメくーん、ごめんね。許してよ」

「別に怒ってません」

「怒ってるじゃん」



隊長が背伸びをすれば目線が近くなり、ちょこんと眉間に指を置かれる。





「皺、寄ってるわよ。せっかくの綺麗な顔が台無しよ、クラサメくん」



ふわりと微笑まれれば拗ねている自分がすごく大人気なく感じて自己嫌悪に陥る。

気がつけばいつの間にか近くのテーブルに座り手招きをしている隊長に頬が緩む。




「ね、どれが美味しいかな?」




マイペースだな、とかこんな子供っぽくはしゃぐ時もあるんだな、とか隊長を観察していた。




「クラサメくんはどれ食べるの?」

「このチーズケーキがおすすめなんですよ。あとは珈琲で」


「そうなの?じゃぁ、それにしちゃお!店員さん、チーズケーキ二つと珈琲二つでお願いします」




チーズケーキがきて、とても美味しそうに頬張る隊長。
あっという間に食べて珈琲も美味しそうに全て飲み干す。


会計は誘った自分が出そうとすれば、生徒には払わせないのと言いながら全額払ってしまう隊長。





「とっても美味しかったです」



店員の女性にそう笑顔で伝える隊長を見て、満足出来たようで安心する。




「ありがとうございます、良かったです。お客様もとてもお似合いの恋人同士ですね」




そんな店員さんの一言に固まる二人。





「えーっと、私たちは恋人ではなくてこの子は私の教え子なんです」


「えぇ…っ?大変失礼致しました!あまりにもお似合いなお二人でしたので」

「お気になさらないでください、また来ます」






お店を出れば、今まで香っていた甘い香りがしなくなり少し寂しい気持ちになる。





「クラサメくんの恋人に間違われちゃったわね。なんだか申し訳ないわ」


「どうしてですか?」

「だってかっこよくって強くて人気者のクラサメくんの恋人にこんな平凡な年上女が恋人なんてあるわけないでしょう」

「……そのお言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


「えー?どういう意味よ?」






貴女のように可憐で美しくて、強くて、優しい女性の恋人が俺のような奴なわけないじゃないですか。

…そうとは伝えることが出来なかった。








「ユリア隊長、」


「ん?なぁに?」

「もし俺が隊長を好きだ、って言ったらどうします?」




「うーん。どうだろうね?」







でもクラサメくんはそんなこと言わないでしょ、そう続けられてしまえば頷くことしか出来なかった。
























――縛りつけて封じた気持ち

(告げてしまえば遠ざかりそうで)




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翻弄されるクラサメくん〜。
はっきりしない年上さん〜。

年下夢主×クラサメさんだとこうはいかないと思う。
クラサメさんを誘惑&翻弄出来るのは年上さんに限る!


甘くして甘くして〜〜落とす!

を、やりたいです。



次回予告!

1組との合同演習に向かう隊長とクラサメたち。
少し難しい作戦だったが問題はないだろうと思っていたが、そこで待ち受けていたのは……?


――手の平に乗せた想いは
(貴女へ届きましたか)



お楽しみに!




2012/3/11



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