いつか貴女に追いつけるでしょうか
無事日常生活に戻ることが出来、授業のほうにもあのノートのおかげで置いていかれることはなかった。
裏切り者という汚名も返上され、周りからの冷たい視線も少なくなってきた。
我がクラスである2組はユリア隊長のおかげか、俺を疑っていた者は居なかったようであの事件が起こる前となにも変わらなかった。
事件が起こる前と変わったことは一つ。
それは俺のユリア隊長への気持ち。
憧れから恋慕へと変わった気持ちだった。
隊長としても完璧で、他のクラスの候補生にも人気の彼女。
非の打ちどころがない、そんな完璧な彼女に一人の男として見てもらいたくて追いつきたかった。
「……だから、何度も断ってるじゃない」
普段聞いたことのないような嫌悪を出した声色。
そんなユリア隊長の声が廊下の死角から聞こえてきたので、気配を殺して近寄る。
「試しにでも付き合ってみてくれたって良いだろう?」
「そういうのはお断りなんです」
「自分のクラスの候補生にお熱だからか?」
「なっ、なに言ってるのよ。自分のクラスの候補生が心配で大切なのはあたり前でしょう」
隊長が話をしている相手は、よく隊長に言い寄っているといことで有名な武官であった。
「ふーん、そうか。まぁいいから、もう少しちゃんと考えておいてくれよな」
「考えるもなにも答えは言っているでしょう…!」
言葉を最後まで聞かずに去っていく武官の背中を見ながら大きな溜息を吐く隊長。
「溜息なんて珍しいですね」
「クラサメくん…?!」
「偶然歩いていたらユリア隊長の声が聞こえてきたもので」
「あら、恥ずかしいところを見られちゃったわね」
隊長と教室に向いゆっくりと歩く。
「ユリア隊長は恋人を作らないんですか」
そんな俺らしくない質問に目を見開けば、やっぱり返ってきた言葉はクラサメくんらしくないわね、であって。
「今は教壇に立つべき人間だから、そういうことは考えていないのよ。そんなクラサメくんこそモテモテじゃないのよ」
「…同姓にも人気なユリア隊長には負けます」
モテたとしても本命に好いてもらえないのなら意味がないです。
そう言いたくてたまらなかったが、その言葉は飲み込んだのだった。
そんなある日、隊長のもとの集めた課題を持っていこうとしていると、人通りの少ない武官の執務室が並ぶ廊下でユリア隊長の声が響いた。
「い、嫌…っ!!やめて!」
バタンと大きな音をたてて閉まる扉。
その瞬間、廊下は静けさを取り戻す。
嫌な予感がしたクラサメは声のした方向へ足を向ける。
そこの近くにあった部屋にはこの間、隊長に言い寄っていた武官の名前があった。
まさかと思いながらもその部屋の扉に耳を寄せれば、微かに聞こえる嫌がる隊長の声。
扉に手をかければ鍵がかかっており開かず、扉を蹴り破る。
「ユリア隊長…っ!!」
そこに広がった光景はソファの上に押し倒されている隊長の姿。
頭に血が上ったことまでは覚えている。
しかしそれから先は身体が勝手に動いていた。
気づいた時には武官の襟首を掴まえて殴ろうと振り上げている腕をユリア隊長が必死に抑えていた。
「クラサメくん…っ、駄目っ」
「どうして止めるんですか!」
「駄目よ、クラサメくんがこの人を殴ったってクラサメくんの立場が悪くなるだけ。私は大丈夫だから、ね」
腕を強く抑えられ、まっすぐな瞳でそう諭されれば頭に上っていた血が下がっていくようだった。
冷静さを取り戻し、隊長を部屋まで送り届ければ謝罪と共にお礼を言われる。
こんなことがあっても隊長は冷静で、大人だと実感した。
自分も寮に戻ろうとすればそこにはあの武官の姿があった。
「ユリアのクラスの候補生だろう?たしか、裏切り者の汚名を課せられた」
「…それがなんですか」
「いや、別にな」
「ユリア隊長にこれ以上言い寄るようなら許しませんよ。これでも四天王の生き残りです」
武官を睨みそう告げれば、おかしそうに笑う声が響く。
「そうか、君も彼女のことが好きなのか。でも残念だったな」
「………なにがですか」
「君は候補生だから、だよ」
もう言い寄らないよ、そう言いながら去っていく武官の背中を唇を噛んで見つめるしかなかった。
"候補生だから"
その言葉が頭に鳴り響いた。
候補生と隊長、結ばれることはないのだから…。
――いつか貴女に追いつけるでしょうか
(早く大人になりたいんだ)
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むかつく武官を生み出してしまった。
自分で書いていてもむかつきました。こいつ。
一応この中編はプロット出来ています。
8話完結です!
出来るうちにいっぱい更新しよう…!
2012/3/10
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[mokuji]
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