貴女のそばに居たい






今でも忘れられない光景がある。


いつも優しく微笑んでいた強き彼女が今にも泣きそうな顔で私を見つめていたこと。

そして綺麗な涙を流したことを。




貴女は私を覚えていますか…?―――














































「………サ……んっ、クラサメくん!!」



重たい瞼を開ければ意識が覚醒していき、全身に鋭い痛みを感じ顔を歪める。

それでもゆっくりと自分を呼ぶ声の方を見てみれば、そこには今にもその綺麗な瞳から涙を流してしまいそうな表情をしている女性が一人居た。






「……ユリア、隊長」



自分が所属している2組の隊長である彼女、ユリア・グラン隊長の名を呼べば、彼女の瞳からぽろりと涙が落ちる。





「クラサメくん…っ、良かった…っ」





どうしてこうなったのか…。

そう考えれば記憶が曖昧で、確か自分は四天王と呼ばれていてその四天王で任務をしていたはずだ。

そうは思い出すが、自分以外の四天王のことが思い出せない。






「…ユリア隊長、」


「ん、なに?痛い?」

「生き残ったのは、俺……だけなんですね」





綺麗な顔を歪める隊長。

記憶がないということは答えは聞かなくてもわかっている。


それでもこうして問いかけてしまったのは狡いのだろう。






「これね、クラサメくんが握ってたもの…なの。中を見させてもらったのだけど、中に書かれていたのは四天王の一人だった4組の候補生の子の名前だったわ」





そう言うと血で黒くなっている小さなメモを手渡される。

震える手でそのメモを開けば、自らの血で文字が書いていた。


内容は4組の彼女の命と引き替えに自分は生きているという内容。



手の震えが止まらなかった。


自分のせいで彼女を殺した。
そしてその事実をこうしてメモを読まないかぎり忘れていた。

怖かった。







「……クラサメくん、」




震えが止まらない手を隊長にぎゅっと包まれ、温かい手の温もりに涙が出そうになった。






「私、目瞑ってるから泣いても良いよ?…むしろ泣きなさい」





そんな隊長の全てを包み込むかのような優しさに声を出して泣いた。

こんなに泣いたのはいつ以来だろうか。


泣いてる間、隊長は目を伏せ手を強く握ってくれていた。












「クラサメくん、生きていてくれてありがとう。…折角救って貰った命なんだから、しっかり生き抜かなきゃ駄目よ」





落ち着いてきた時に言った彼女の言葉が自分を見失わなずに済んだのだろう。










それから一週間は病室で絶対安静だった。

病室から自分の部屋へと戻った次の一週間は取り調べが待っていた。





















「ユリア隊長」



背が低く自分よりも遥かに小柄な彼女の背に呼び掛ければ、優しい笑顔を浮かべながら振り返る。






「クラサメくん、おかえりなさい」



年上、ましてや隊長には見えないほど愛らしい見かけで候補生だけではなく、武官や文官にまで人気が高いユリア隊長。


しかし戦闘になれば強く。

彼女が2組の隊長になってからは、前線で戦う2組の死亡率が大幅に下がったと言う。





初めて抱いた"憧れ"という感情。


彼女に追い付きたかった。







「あの、ユリア隊長」

「ん?」


「色々とありがとうございました」

「え?お礼を言われるようなことなんてしてないわよ」


「カヅサやエミナから聞きました。隊長が俺にかかっていた疑いを晴らしてくれたって…。信じて、くれてたんですね」





そう、あの後俺は裏切り者として疑われ、何度も取り調べを受けた。

周りは俺を裏切り者扱いをしていたし、他のクラスの隊長も裏切り者扱いをしてきていた。


そんな状況から自宅謹慎をしていたのだった。






「クラサメくんは裏切り者なわけないっていうのは私が一番わかっているわ。だから私は君の隊長としてあたり前のことをしたまでよ。だからお礼なんか言わなくて良いの!」





ユリア隊長は一度も俺を疑うことなく、軍令部長や院長に働きかけてくれていたということをカヅサやエミナから聞いた。

あの事件があった日だってユリア隊長は病室で眠らずに目が覚めるのを待ってくれていたと聞いた。


誰にでも分け隔てなく親身になって接してくれる聖母のような隊長に皆は惹かれているのだろうと思う。






「はい、これは快気祝いのプレゼント」


「え…?」



手渡されたのは少し厚めのノートで、受け取り中を開いてみれば自分が休んでいた分の全ての授業の内容であろうものが隊長の字で書かれていた。





「これは………」


「カヅサくんやエミナちゃんにも協力してもらっちゃったんだけど、君が休んでた分のノートよ。ま、クラサメくんなら必要なさそうだけど一応、ね!」




じゃぁ、と肩に手を乗せ去って行くユリア隊長の背を見えなくなるまで見送った。








自宅謹慎をしていた一週間、俺は自分だけが生き残り、助けてくれた子のことさえも覚えていない自分が怖く、裏切り者と疑われていく内に本当は周りが言うように覚えていないだけで自分が裏切り者なのではないかと不安にさいなまれていた。

そんな中ユリア隊長は毎日部屋に来てくれていた。



元々、ユリア隊長とは交流が多いほうだったとは思う。

なぜかユリア隊長にべったりだったエミナが居たからかもしれないが、お昼ご飯も共にしていたことも多かった。


隊長も共にする実戦演習では指揮を執る彼女の補佐的なこともしていたせいか、必然的に二人っきりになることも多かった。



彼女の近くに行けば行くほど彼女の存在は遠いことを実感して、憧れの気持ちはどんどん強くなっていた。






そんな憧れの気持ちがただの憧れではなくなったのは、やはりこの事件がきっかけだろう。








"俺が本当は裏切り者だったのかもしれません。だからユリア隊長も俺に構わないでください"



疑心暗鬼に陥っていた俺は、毎日やって来る隊長にそう告げた。

だが、返ってきた言葉は予想にもしなかったものだった。





"そんなこと言わないの。クラサメくんを信じてる人の気持ちも考えなさい!私も、エミナちゃんだってカヅサくんだって君を信じているし、君が無事でいてくれて本当に良かったって思ってるのよ。それに君を助けた彼女だって、君にそんな風に落ち込んでいて欲しかったわけないじゃない…!"




初めて他人に怒られた。

隊長はいつでも真剣に接してくれていて、ちゃんと自分のことを見て考えてくれている。




誰に対しても全力で真剣に接する彼女のことだ。
きっとこれが俺ではなくてもこうしていただろう。


そう考えたら、モヤモヤしどうしようもない考えが浮かんできた。












隊長に自分だけを見て欲しい。




それはただの候補生としてではなく、一人の男、クラサメ・スサヤとして…。

















――貴女のそばに居たい

(それは憧れではなく恋慕)




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また無計画にもはじめてしまいましたよ。

書きたい時に書きたいものを書くのがモットーです!と、いうなんとも自分勝手な管理人ゆらさん。


隊長×クラサメ書いちゃった!
年上夢主美味しいよ…!

年上に翻弄されちゃえ!←

がんばって早めに終わらせます!



2012/3/10



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