君の温もりを忘れたい





「クラサメっ、危ない!」



頭で考えるよりも身体が先に動くとはこういうことを言うんだな、なんてぼんやり頭の片隅で考えていた。


朱雀四天王と呼ばれる者の得意とされていた炎の魔法が私の半身を包んだ。

直撃した左足が燃えるように痛い。


攻撃を受け、クラサメが無事だったことを確認するとスローモーションで地面が近付いてきた。

全身に衝撃。


自分が倒れたことに気がつく。

ドクドクと溢れていく自分の真っ赤な血液。




「クラサメ、怪我…ない?」


近付いてくるクラサメの顔を見れば綺麗な顔に火傷の跡。



「ちゃんと守れなかっ…た、ごめ…んね」



声を出せば口から血が溢れ出す。



「もう喋るな!ユリア、しっかりしろ…!今、治してやるからな」


私にケアルをかけようとするクラサメの背後では攻撃をしてきた四天王の候補生が他の四天王の候補生と戦闘を繰り広げていた。




「私は、い…いから、戦っ…て」







――暗転。



これはのちに四天王事件と呼ばれることになる、四天王の一人が裏切った事件である。






次に私が光を見た時は、白い天井が広がっていて、左足が全く動かなかった。


今にも泣きそうな親友のエミナと、腐れ縁で幼馴染みのカヅサが心配そうな表情で私を覗いていた。





「……クラサメ、は?」


声を出せば喉が焼けるように痛く、声もガラガラだった。



「クラサメくんは大丈夫だよ、まだ入院してるけど。あと喉が焼けいて治るのに時間がかかるみたいだからあまり話さないほうが良いよ」


幼馴染みのカヅサが聞きたいことを全て答えてくれる。



「あ、あと左足なんだけどね、後遺症が残るって」


「そっか」




クラサメが無事だったのなら良い。

そしてふと、他の四天王の者の記憶がないことに気がつく。


クラサメに会いたかった。

















クラサメに会えたのはそれから一週間後だった。


点滴が繋れ、包帯が巻かれている痛々しい姿でクラサメは私の病室に現われた。




「クラサメ、大丈夫?」



そう尋ねた私の声はすっかり元どおりで、喉のほうは治っていた。




「足の方はどうなんだ」


笑いもせず無表情で尋ねるクラサメ。
声色もなんだか怖かった。



「足ね、リハビリすればなんとか私生活には支障がないって」


このピリピリとした空気を変えようと笑いながら答える。


すると難しい顔をしながらゆっくり彼は言った。









「…友達に戻って欲しい」


「なに、言ってるの?こんな時に冗談なんて」



真直ぐと私を見つめる彼の瞳が冗談ではなく、本気だと言うことを告げていた。



「私は本気だ、グラン」



グラン、そうそれは私たちが恋人という関係になる前に彼が私を呼んでいた呼び方。



「本気、なんだ」

「あぁ」




嫌、そう言って泣き叫びたかった。

しかし真直ぐに私を見つめる切ない瞳を見た瞬間、なにも言葉が出なくなった。



「………………」

「私はグランの幸せを願っている、友人として」

「………………」

「怪我、良くなることを祈っている」




静かに椅子から立ち上がり去っていく背中を見つめた。


徐々に遠くなる背中。
手を伸ばしたが届かない。

その瞬間、涙が溢れた。







「いやだよ、クラサメ…っ」








































「ユリア?」



そう名前を呼ばれ慌てて後ろを振り向いた。

振り向いた先には幼馴染みの腐れ縁が居た。




「カヅサ、来てたんだ」


「酷いな、ユリア」

「気付かなかったごめん、ごめん」

「考えごとかい?」

「まぁ、ね」

「そんなにユリアに考えさせる考えごとに嫉妬するよ」

「…ばか」




あの時の私は酷かった。

声が枯れるほどずっと泣き叫んでいた私を偶然お見舞いに来たカヅサに見つけられた。


涙は枯れることを知らなくて、身体中の水分がなくなるんじゃないかというほど泣いた。

それをカヅサは何も言わずに側に居て、背中を撫でてくれた。


生きる気力を失った私は、リハビリもしなかった。

でも幼馴染みのカヅサや親友のエミナのお陰でリハビリをし、軍の文官になった。




あれから三年がたった。




私の記憶は色褪せることがなかった。


忘れようとすればするほど、強く強く想いは残り私を苦しめる。





「ねぇ、ユリア」


「ん?」

「そろそろさ、周りを見てみるって言うのはどうだい?」

「…どういうこと?」


「僕と付き合わないかな、なんてね」



クイっと眼鏡を押し上げるカヅサ。

この動作は真剣な時。
緊張している時。




「なに、言ってるのよ」


「クラサメくんのこと忘れられなくて良いから、僕に寄り掛からないかなって」

「………………」


「これからは幼馴染みとしてじゃなくて、恋人としてユリアを支えたいんだ」




クラサメと別れてからボロボロだった私はカヅサに支えられていた。

こうしていつも私の様子を見に来るカヅサ。


カヅサが居なかったら私は今頃こうしていないだろう。




「ユリアがクラサメくんを忘れられるまで何もしない。約束する。待つから」


「時間、かかるよ」

「もう三年も待ってたよ」

「忘れられないかもよ」

「それでも待つよ」


「………ごめんね」



小さく呟くと頭をポンと優しく撫でられる。

そして私の左手をカヅサの右手が優しく包む。




「これくらい許して欲しいな」




頷くことしか出来なかった。

だってほら、こうしてカヅサと手を繋いでいるのにクラサメとの温もりを思い出してしまっているんだ。





私、カヅサのことちゃんと好きになれるかな…?


いや、ちゃんと好きになるんだ。




そう心に決意を決めた。








―――君の温もりを忘れたい

(キミ以上は居ない)
(忘れる方法を忘れたよ)




------------------------

はい、やらかしましたー!
カヅサを使ったとかもう詰みましたよね。
でもオリキャラは使いたくなかったんだもーん!

これが前にmemoで書いていた妄想の切夢ネタです。
ちゃんとハッピーエンドで終わらせます。たぶん。

そして一話じゃ終われなかったので続きます。


この際だからカヅサ夢かと思うほどのイケカヅサを書いてやるぅぅぅぅ(無謀



2012/2/20



[ 42/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]