水と油の関係





柵がついている小さい窓から少しだけ見える景色は、悲しいくらい綺麗で。

辺りは暗くなってきていた。




「…そろそろアイツが来る時間か」


そう呟いてみると、扉の外からカツカツと人が歩いてくる音がする。



外から扉の鍵を空ける重い音が二回すると、扉を開け片手に食事が乗っているトレーを持ち中へと足を進める隻眼の軍人が現れる。


お昼に他の軍人が運んできていたトレーの食事が一口も進んでいないのを見ると、大きな溜め息を吐く。




「お前はいつも食べないな」


「…白虎のご飯は口に合わないのよ」

「ふっ、なんだそれは」


彼は微かに笑う。

そして自分が持ってきた食事のトレーを私の目の前に置く。




「………いらない」

「いいから、食べろ」


「どうして」

「そんな若いのに細い身体をして、いいから食べろ」


「放っといてよ、私が死んだって構わないでしょ?それに私は死んでも口を割らないわよ」


「お前は根性だけは座っているな」



そう言うと再び彼は笑う。

今日も食べるまでは帰らないぞ、といつもと同じ台詞を言って近くに腰をかける隻眼の軍人。


彼は白虎の軍人である。
カトル・バシュタールだ。



出会いは最悪。

私たちの関係も最悪。


むしろ良いことなんて何一つだってない関係。








だって私は朱雀0組の候補生。




出会いはかれこれ一ヶ月くらい前になるだろう。





























白虎のとある基地への潜入任務。


私は0組のみんなとは別行動で、単独任務をしていた。



想定では一人でも簡単に遂行出来る内容だった。

……そう、彼が居なければ。







偶然通りかかり、基地の様子を見に来ていたカトル。


そこに待ち受けていた光景は、幼い朱雀の少女が一人で基地を襲っていたところであった。



カトルが出陣したことで白虎の軍人の士気は上がった。

形勢は逆転。






兵士が朱雀の朱を仕留めたという連絡を受け、その場所に行くと銃弾を受けて倒れる血塗れの幼い少女が居た。



「カトル准将!いかがいたしましょうか?」


近くの兵士が彼に尋ねる。


彼は考えた。

そこに倒れるは敵国の候補生。
ただの候補生ならまだしも、朱のマントを纏う者。


きっとこのまま上に報告すれば、死ぬことも許されない酷い拷問が待っているのは確実だ。






「この朱雀の朱は私が預かる」



「なっ、カトル准将!?」


「いいな、この件に関しての上への報告は私がする。他言無用だ」

「……了解っ」

























私が目を覚ました時にはすでにこの部屋のベッドに寝ていて、彼が立っていた。


ここが白虎だということには直ぐに気がついた。


0組の候補生である私。
拷問され朱雀について聞かれることになるということはわかっていた。



拷問されるくらいなら、と私は隙をみて彼の銃を奪い、自分で自分の命を絶とうとした。


しかしそれは彼によってあっけなく阻止されてしまった。





そして今日にまで至る。










「温かいうちに食べろ」


「…だからいらないってば」



いつもご飯を食べない私にこうして食べるまで見ている彼。

天敵である朱雀の朱である私をなぜそこまで構うのかわからない。


それにこの一ヶ月、怪我が治ってきたにも関わらず拷問を受けてもいない。



「ねぇ、」

「どうした?」



「どうして拷問しないのよ」


「なんだ、拷問して欲しいのか?変わった奴だなー」



私の問い掛けに笑うと、また早くご飯を食べろ、と促す。


彼は本当に私がご飯を食べ終わるまで帰らない。

それを知ってる私は、彼はいつまでもここに居てはいけないだろうと思い、ご飯を食べ始める。




「なぁ、聞いていいか」



ご飯を食べている私を優しく見ながら彼は問う。



「なに?……朱雀のことに関しては話さないわよ。朱雀について話さないなら拷問するとかなら私を殺して」



私のそんな言葉を聞いて、彼は少し困った顔をする。



「なぜそんなに若くて、女なのに戦う?それになぜ自分に対してそんなにも無頓着なんだ?」



「無頓着…って」

「普通は死にたくない、と足掻くだろう?しかしお前は違う。いつ死んでも良いかのように言う」



「戦えない私なんて死んだって良いのよ」

「……どういうことだ?」


「私は戦うためだけに育てられた。そのためだけに生きているのよ」



彼はとても難しい顔をした。


「……まだお前は若いだろ。そんな生き方はするな」


「他の生き方を私は知らないわ」




彼はよく自分の身体を大事にしろ、とか私の心配をしてくれていた。


朱雀に居たころに私の心配をしてくれた人は居た…?

戦えるか戦えないかを心配してくれる人は居ても、
戦えない私をこうして心配してくれる人は居ない。



どうして彼は天敵である私に優しいの…?





「ねぇ、どうしてそんなに優しいの…?私は敵でしょ?捕虜でしょ」



私の質問に少し困った表情をする。
そして優しく微笑んだ。


「どうしてだろうな」




私がなにも言えないでいると、彼は早く食べろ、と再び促して私の頭を軽く撫でる。



子ども扱いは嫌いだ。

でも彼のこの動作は嫌いじゃない。



手を払おうと思えばすぐにでも払える。


でもどうしてこうも胸がギューっと締め付けられて、温かい気持ちになるんだろう。




その気持ちの名前に気付いてはいけない。




























だって私と彼は


























水と油の関係―――


(――絶対に交わることの出来ない存在)




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撃沈ー!!!

設定を上手く活用することが出来ないヘボ管理人です!

カトルさん初書きなんですが、私カトルさん好きですよ!
2、3番目くらいに…!

今回拍手コメントにて『カトル准将と0組夢主の捕虜ストーリー』とのリクエストによって生まれた駄作orz


死んでお詫びしますぅぅぅ



2011/12/09


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