大切だからこそ





いつもなら必ず朝の挨拶に執務室に来る副官兼恋人のユリア。


今日は待てど待てども来ない。

おかしいなと思い、数人の士官と共にあるユリアの執務室に行くと、クラサメの姿を見た他の武官が側にやってきた。




「あれ?クラサメ士官がここに来るなんて珍しいですね。それにユリア士官ならたしか軍令部の仕事をしているはずです」


彼女に礼を言い。
クラサメは軍令部へ向かう。





軍令部の扉の前まで来ると、中からは慌ただしい司令部の士官の声が聞こえる。


「(…誰かがなにか作戦を行なっているのか?)」



クラサメはゆっくりと軍令部の扉を開け、中へ進む。


近くにいる武官になんの作戦中か聞いてみると、
皇国軍のとある基地への潜入任務で、作戦自体は成功したのだが脱出の際に敵に囲まれているとの状況らしい。

しかもCOMMからの通信は必要最低限という任務だったらしく、COMMを持っているのはその作戦の部隊長だけなのそうだが、部隊長の反応がないらしい。



さらに最新の状態を把握しようと司令部の士官のやり取りを聞く。


司令部の士官はその部隊長である士官とCOMMで通信をしているようだが、全く反応がないようだ。




すると、司令部の士官から驚きの名前が発される。





「グラン士官!ユリア・グラン士官!!返事をしてくださいっ」



「……ユリアだと?どういうことなんだ」


近くにいた武官にさらに尋ねると、部隊長の士官はユリアだと言う。

そうクラサメが探していた彼女だった。



なぜ?と考えていると、大きな銃声がCOMMの通信先から聞こえる。

その音が聞こえた瞬間、COMMの反応がロストした。

































数時間後の医務室。


クラサメは急いで医務室の扉を乱暴に開けた。


彼の視界に入るのは腕に包帯を巻かれているユリアの姿。

ユリアもクラサメの姿に気付き、笑顔を向ける。




「へへっ、少ししくじっちゃいました」


そう笑っていう彼女にクラサメは少し怒っていた。



「大丈夫、なのか」

「大丈夫ですよー」


「なぜなにも言って行かなかったのだ」


「えっと、内緒で任務成功させてびっくりさせたかったんです。失敗しちゃいましたけど」

「………………」



クラサメは怒りを我慢していた。
しかし次の彼女の発言でその怒りが爆発することとなる。



「実は…、クラサメさんから貰ったネックレスを落としてしまって。それを探してたら銃弾にあたってしまいました」


「……そんな物のために注意を怠って怪我をしたのか」

「そんな物って…!」


「それに勝手に任務に就いて怪我をして、何がしたいんだ」


「私はただ……」

「くだらない理由で任務に赴くのはやめるんだな」


「くだらない理由って、そんな物って……!」

「そんな物だろう!」

「違います!大切な物です!」


「そんな物また買えば買えばいい!命とそんな物、どちらが大切かなんてわかるだろう!」



クラサメは珍しく声を荒げて彼女を叱咤した。



「クラサメさんなんてなにもわかってない!あれは初めて貰った物だから…。もういいです!クラサメさんなんてもう知らないっ!」



そう泣きながら叫ぶと、彼女は医務室を出て行った。

クラサメは追おうかと思ったが、彼女にしっかり自分の気持ちを理解して欲しかったから追わなかった。


















それから数日。

彼女は執務室に挨拶に来なければ、クラサメの姿を見ると避ける日々を続けていた。




溜め息を吐くクラサメ。

そんな所にエミナがやって来た。



「クラサメくん」

「あぁ、エミナか」


「頼まれてた物、見つかったわよ」



そう言いエミナはクラサメの手の平に壊れたネックレスを乗せる。



「すまない、感謝する」


「いいのよ。それよりまだユリアちゃんと口きいてないんでしょ?」

「あぁ」


「クラサメくんも不器用よねー」

「………………」


「ああいう時は素直に心配だったって言えば良いのに。このネックレス、彼女のでしょ?」


「……こんな物のために怪我までしたんだぞ」


「こんな物、ねぇ」

「なんだ」


「クラサメくんにとってはこんな物かもしれないけど、女の子にとって好きな男性から貰った初めてのプレゼントっていうのはとっても大切な物なのよ」


「………………」



「早く、仲直りしなさいねぇ」



そう言いエミナはヒラヒラと手を振り、仕事に戻って行った。
























夜のテラスに佇むユリア。


こちらも溜め息を吐く。




「クラサメさんの分からず屋」



そんなことを呟いていると、ふと後ろから名前を呼ばれる。

振り返るとそこにはクラサメの姿。


ユリアは慌ててテラスをあとにしようとクラサメの横を通り抜けようとすると、クラサメに腕を掴まれる。




「……!は、放してっ」


腕を振りほどこうとしても全く振りほどくことが出来ない。

それどころか掴まれた腕を強く引かれ、バランスを崩すと彼の胸にぶつかる。


その瞬間、彼に優しく抱き締められた。





「クラサメさんの顔なんか見たくありませんっ!放してくださいっ」


そう言って暴れるユリアを強く抱き締めるとクラサメは小さな声で


「すまなかった」

と、言った。



暴れるのをやめたユリアに気付くと、抱き締める力を少し緩め話し続けた。




「まずは怒鳴ってすまなかった。それにこんな物と言ってもすまなかった…」


そう言うとクラサメはユリアの首に、修理されたあのネックレスをかける。



「………これ…」

「エミナに頼んで探してもらった」


「……う…そ…」



「本当にすまないと思っている。大切にしてくれて嬉しいとも思っている。しかし、私の身にもなってくれ」


クラサメはそっとユリアの顔を上げ、優しく頬を撫でる。


「ユリアが任務に行ったと知らなければ、何かあった時に助けにも行けないだろう?」


「……クラサメさん」


「私はユリアを失っては生きていけない」



「クラサメさん…、ごめんなさいっ」




ポロポロと涙を流すユリア。

流れる涙をクラサメは唇で優しくすくう。



そして優しいキスをする。

























大切だからこそ―――

(―――怒ってしまうんだ)



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長かったー!
長くてごめんなさい!

拍手コメントにて『喧嘩して仲直りする夢が見たい』というリクエストがあり、
書いてみましたが撃沈!

文才をくださぁぁぁぁい


2011/12/07


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