時間よ、止まれ






あの怪我から三週間。



応急処置のやり方が良かったおかげですっかりと怪我は良くなった。

少し傷跡が残ってしまったが、医務長いわく徐々に跡も消えていくとのことだった。




大事をとって入院していたこの三週間の間には、授業に参加するようになってから仲良くなったクラスメイトや1組の隊長、

そして、クラサメ隊長までもがお見舞いに来てくれた。



クラサメ隊長に至っては三度来てくれたが、本当に様子を見に来るだけですぐに帰ってしまっていたが、それでも私は嬉しかった。




退院してこれでやっと普通の生活だー!と思っていたが、1組の授業はそう甘くはなかった。


今までもサボっていてほとんど授業は聞いてはいなかったが、毎回全ての授業をサボっていたわけではなく、少しは出席していたのだ。

三週間休んでの退院後初授業は私にはとてもハードなものとなった。





授業が終わると隊長が私を呼ぶ。


「ユリアさん、大丈夫?」

「はい、もう大丈夫です」


「良かったわ」


彼女は思い出したかのように、言葉を付け足した。


「そういえば、クラサメくんがあなたのことを呼んでいたわよ。この後ならたしか彼空いているはずだから、執務室に行ってみたら?」

「は、はいっ」





そういえば、退院したら執務室に来るように、って言われていたな。

怪我したのは私の責任でもあるから、って…。


ただの私自身の不注意なのに。




そんなことを考えながら、私はクラサメ隊長の執務室へ向かう。

扉が視界に入ると、やはり緊張する。




「クラサメ隊長、ユリア・グランです。いらっしゃいますか?」


扉を軽くノックして、中にクラサメ隊長が居るか確かめる。

すると中からクラサメ隊長の声がして、室内へと促される。





「怪我の調子はどうだ」


「もう全然平気です!それより、色々とありがとうございました」

「…なんのことだ?」


「お見舞いに来てくださったり、色々です!」



そう私が笑顔で言うと、クラサメ隊長は難しい表情をする。




「礼を言われる必要はない。キミが怪我をしたのは私の責任だ。…すまない」


「クラサメ隊長に謝られることなんてありません。怪我をしたのは自己責任です。クラサメ隊長にはむしろ感謝していますから」

「………………」




彼は少し驚いたような表情をした。

彼はコロコロと表情が変わる。
きっと他の人が見たら、なにも変わってないように見えるかもしれないほど些細な変化。


でも私には彼の表情の変化がわかる気がする。



なにも話さない彼に私は尋ねた。


「どうして私を執務室に呼んだんですか?」


「特別補習を行おうかと思ってな」

「特別補習…?」



「あぁ。三週間の授業の遅れを私が補う」


「クラサメ隊長が、ですか?」


「私がだが、不服か?」

「不服だなんて!むしろクラサメ隊長はあの0組の隊長さんなんですし、軍のお仕事とかもあるだろうし、私なんかに構ってる暇なんてないんじゃないですか?」




私はきっと忙しいはずであるクラサメ隊長が私のために時間を作ってくださる、というのは正直嬉しかったが、クラサメ隊長の身体のほうが心配だった。




「私の心配は必要ない」


「必要あるに決ってます!0組の隊長であるクラサメ隊長が私なんかのために無理をして身体でも壊したら大変です。それに……、もっとご自分のお身体を大切にしてください」



そう言うとクラサメ隊長は一瞬驚いた後に優しく微笑んだ。




「心配、してくれているということだな」

「あたり前です!」



彼は少し照れくさそうにしながら、感謝する、と小さい声で囁いた。















次の日から、クラサメ隊長との放課後の特別補習が始まった。



授業が終わるとクラサメ隊長の執務室へと急いで向かう。


ノックをして名前を言うと、返事を聞かずに中へ入る。

これはクラサメ隊長と決めたこと。


もし部屋にクラサメ隊長が戻って来ていなくても、中に入って待っていて良いということから、返事を待たなくて良いということになった。




執務室の扉を開けると、部屋の中には誰も居ない。


「クラサメ隊長、まだ授業終わってないのかな?」



クラサメ隊長の執務室には隊長の机の前に来客用のソファとテーブルがあるので、そこに座る。


教科書やノートを出して準備をしていると、扉が開く。




「もう来ていたのだな」


「あ、はい!」

「ご苦労、では始めよう」



「はい!あ…っ!」

「なんだ」


「クラサメ隊長もご苦労様です。それから、よろしくお願いします!」


「あぁ」





クラサメ隊長は優しく笑い、私が座っているソファの隣りに腰をかける。


そして私の教科書を手に取りページをめくる。

ページを開くとクラサメ隊長は授業を始める。
聞きやすい声で、隣りでゆっくりと説明をしてくれる。



途中何度か、理解しているか、なんて確認をしながら進めてくれていてとてもわかりやすい。







全ての授業が終わり、陽も落ち始める頃から始まる放課後の二人っきりの特別補習。


落ちる夕日のオレンジ色の光が窓から差し込み、彼の綺麗な横顔を照らす。





今だけは二人っきりの世界。



























―――時間よ、止まれ



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まだまだラブラブ展開は望めなそうですー!!←

本当にゆったり展開(苦笑)

それでも今回はちょっと二人の関係が少し動いたつもりです!
二人っきりの特別補習で距離が縮まったかのように見える二人。

今後どうなるかは私ですらもわかりません…!w←


頑張ります!


2011/12/07


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