嘘のように消えた真実



※この作品は5章以降のネタバレを含みます。












「クラサメさんっ」


「なんだ?」

「呼んだだけです!」

「……用がないのなら呼ぶな、といつも言っているだろう」


「それでもいつも返事してくれるクラサメさんが大好きですよ」





毎日のように繰り返すこのやり取り。

呼べば必ず返事をしてくれる。

いつも側に居てくれる。



本当に本当に大好きな彼。




世の中は戦争だけど、私たちの間にはゆっくりとした時間が流れているはずだったんだ。




そう、あの日が来るまでは……

























「クラサメさん…っ!!」




クラサメさんの執務室の扉をノックもせずに、おもいっきり開けて中に入っていく私。



「ユリアか、扉は静かに開けろ」


「そんなことよりっ」

「なんだ?」



平然といつもと変わらない調子で返事をする彼。




「クラサメさんっ、次の作戦で前線に出るってどういうことなんですか?身体は、魔力は…っ!なんで指揮隊長である貴方が前線になんか…っ」


一気に捲し上げて話す私にとりあえず落ち着け、と言いながらゆっくりと近付いてくる彼。




「私のことが心配か?」


「心配に決ってるでしょ!」

「私だってユリアのことが心配だ。同じだろう?」


「話を変えないで!」




冷静じゃない私に静かに触る彼の手。

いつの間にか手袋を脱いでいて、彼の低い体温の手が私の頬に触れる。




「………死んじゃ嫌よ」


振り絞って出した声でそう呟く私に彼は優しい声でこう言った。




「大丈夫。もしものことがあればクリスタルが忘れさせてくれる…。それに……」


「それに、なに?私、絶対に貴方のこと忘れないわよ!忘れたくなんか…ないっ」

「あぁ。それに前線とは言え、ルシセツナの護衛だけだ。だから心配することはない」

「本当に?」


「…あぁ……」




安心して泣く私に彼は可愛い顔が台無しだぞ、なんて普段なら絶対に言わないことを言った。


どうして私はあの時に彼の優しくも悲しい嘘に気付けなかったのだろうか。




あの時の嘘に気がつけてたら何かが変わったのかな…?


それも今になってはなにもわからない。

そう、なにも……。



















作戦当日





「ユリア、では行って来る。お前も作戦、気をつけろ」


「わかってる。クラサメさんも気をつけて。必ず、必ず帰ってきて」

「あぁ。ではユリアが先に行け」


「行って来ます」




そう彼に背を向けて歩きだした私。













「ユリア!」



振り向くと少し離れた彼からネックレスが投げられ、キャッチする。

いつも彼が身につけている物だ。




「ユリア、愛している。だからそれを私の身代わりだと思って身につけていてくれ」





そう言い彼は私とは反対の方へ向かって行った。













































作戦は終了。


秘匿大軍神アレキサンダーによって朱雀にも犠牲を出したが、皇国軍に甚大な被害を及ぼし、作戦は成功した。




皆が喜んでいる。


しかし私は素直に喜べなかった。

なんで……?



作戦が終わったらいつも私を出迎えてくれる人が居たはず…。



あれ………?








そんなことを考えていると、こちらをジーッと見ている緑の生き物がいた。



私はアレがなにか知ってる。





「…ト…ンベリ?」


そう呼ぶとトンベリは素早く私の側に寄り抱き付いた。




「トンベリ…、泣いてる?」


「あぁ!その子、グランくんの子だったのか!」


振り返ると武官さんが私の元に寄ってきていた。



「…え?」

「その子、ずっとここに居たんだが、主がわからなくてね」



良かった良かった、なんて居なくなる武官さん。




私はトンベリを知ってる。
きっと誰よりもこの子を知っている。

でも私は主じゃない。

この子の主は誰?







トンベリは突然私の腕から抜け、とある部屋に入って行く。


ついたのは誰か士官さんの執務室。



私はこの部屋を知っている。

でも誰?


確か冷たくて素っ気無いけどとても温かくて優しい人。




顔もわからない。

声もわからない。


でも私はこの部屋とトンベリの主を知っている。






シャラン…っと自分の首からネックレスの鎖が切れ、床に落ちる。





「え…っ?このネックレス…何?誰に貰ったんだっけ…」




プレートの裏を見るとそこには『Kurasame』の文字。







「クラ…サ…メ?」







いつの間にか私の頬には大粒の涙が流れていた。

いつもなら低い体温の優しい手が涙を拭ってくれていたはず…



でも私にはそんなことをしてくれる人なんて誰も居ない




なぜだかわからないけど次から次へとこぼれ落ちる涙を見たトンベリが優しく私に寄り添った。





「……もしかして、君のご主人さまはクラサメって人なの?」


コクンと頷くトンベリ。





「じゃぁ、クラサメって人と私は………」





そこまで言うとトンベリは私に強く抱き付いた。








そうか…。


私はなにか大切なことを忘れているのか。


でもなにも思い出せない



そう、それは……




















………嘘のように消えた真実



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めっちゃ長くなってしまったー!

死ネタのくせに長くて本当に本当にごめんなさいっ!


彼の夢となると死ネタは必ず書きたくなってしまう!
と、いうことで彼の初死ネタ!

うちでは彼はなるべく死なせたくないので、きっともう彼の死ネタはリクエストがあるまで書かないと思います。


ソウリュウがカヤ様を覚えてたんだからトンベリがクラサメさんを覚えてたっていいじゃないの!
ってことでヒロインちゃんは忘れてるけど、トンベリは覚えてます!

ここまで読んでくださってありがとうございました!




2011/11/27




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