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028:それなら大切にしてくれと訴えないと始まらない。


 オレの中にある疑問はきっと以前の時に放置してしまったものと疑問にも思わなかったものとが、ごちゃごちゃと積み重なっている。師匠クラスならともかくオレ程度では頭の中のことを言葉にして人に伝えることができない。
 
 時間が巻き戻っているという説明すらどう言えばいいのか分からずにいた。
 
 オレが急に殺され続けているように師匠もまた前倒しになって死ぬかもしれない。
 そう思うと離れがたくなる。
 バーローはオレを気にしながらも師匠にうながされて、木の前に戻った。
 王族には王族の段取りがある。
 人間のルールなど知らないとアルバロード・P・メーガッダンリクの伴侶になるなら言えない。
 
 オレにとって、じめじめ国のことは何もかもが自分には関係のないことだった。
 けれど、師匠はそんな気持ちでこの場にいるなと言っている。
 師匠はきっと前王であるアルバロード・P・メーガッダンリクの父親が好きだったのだろう。
 墓だと言われている木を見つめる視線が優しく悲しい。
 
【人間を愛したことはありますか】
【……尻尾の数だけな。この尻尾は俺を愛し、俺が愛した人間だ】
 
 師匠の答えは意外すぎて思わず尻尾に目が入った。
 獣人だけが聞こえる音域での会話だからか、師匠は内緒話を続けてくれた。
 
【長く生きる獣人っていうのは、人の生命力を分けてもらったり、食ってるんだよ。……俺に魂を捧げてくれるって、そういう誓いをしたから】
【その尻尾は、魂なんですか。ひとの】
【そう言われてるってだけで、本当にそうかは分からねえな。尻尾はしゃべらないから。ただアルバの父親は嫉妬深くて攻撃的で、コイツとそっくりだ】
 
 オレの首を落とした凶暴な尻尾を撫でながら師匠は目を細めた。
 
【狐の獣人の中には愛しい人の死を看取らなければ九尾の狐として完成されないことを嘆いて諦める奴も多い。肉体的に素質があっても心が追い付かなければ意味がない】
 
 獣人同士の会話なのでオレが勝手に言葉を当てて、師匠の思いとは違ってしまっているかもしれない。
 師匠の事だからもっと尖った表現の可能性がある。
 ただ、ニュアンスとしてはそこまで違いはないはずだ。失ったものを愛し、これからまた失うことも分かった上で歩こうとしている。
 
【もし殺されそうになったら】
【悪いが相手を殺す】
【相手を殺さず、自分が死ぬことを選んでしまう場合は……どんな理由だと思いますか】
【おかしなことを聞くな……約束を守るためとか、か】
【約束?】
【いろいろあるが、アルバロードの生き様を適度に見守るとかも約束かな。あいつはバカだから】
 
 それはオレも感じていたことだ。
 あの白い狂人であるアルビノン・P・メーガッダンリクの方がまだ考えた立ち振る舞いだ。
 
 バーローの心の動きが謎だったのはオレが言葉を発することがなかった以前までの話かもしれない。
 今は隠すことないド鬼畜野郎だということを踏まえれば、行動の予想がつく。
 だが、拒否すれば無理強いはしない。昔とは違ってオレの言葉を聞いてくれている。
 
【自覚が出るかと思ってアルバに子づくりを進めてたが嫌なのか?】
【いや……じゃないです。適度であれば】
【適度?】
【妊娠促進薬みたいなもので、短期間にどんどん子供を産ませたりとか】

 口にしていて気分が悪くなる。
 バーローはそういったことはしないと否定していたが、どこまで信じられるか分からない。
 
「おいおい。どんだけ畜生だと思われてんだよ、アルバカは」
 
 師匠の言葉に反応したのか、儀式が終わったのかオレたちの方を振り向いた。
 見つめられている気がしたが、どうすればいいのか分からない。
 
【走って抱きついてやれ】
 
 距離として数メートルもないがバーローがオレの行動で喜ぶということだろう。
 半信半疑だが師匠の言葉なので信じるしかない。
 
 オレは走り出して目の前にバーローがいるというというところで転んだ。
 すぐにバーローが支えてくれたがオレの頭の中にあるのは疑問だった。
 頭の中ではこの程度の距離、簡単に走りきれていた。
 体力は回復していた。
 手厚い介護を受けて、耳も尻尾もふわふわもこもこで肌艶も復活して、肉付きはいまいちでも筋力は戻ってきていた。
 
 メカメカ国に居たころのボロ雑巾のような状態じゃないし、以前のエンドレス妊娠によるベッド張りつきの刑にはなっていない。
 
 それなのにオレは障害物もないところで転んだ。
 ショックすぎて目を見開いているとバーローが抱き上げてくれた。
 あやすように背中を撫でられた。
 
「魔女の仕業だ」
「……メカメカ国の王女のことか?」
「アカツキは自分の身体能力を自覚なく引き下げられている。転ばないと手ひどい加虐を受けたのだろう。身体が緊張状態になっている」
「メカメカ国、滅ぼそうぜ」
「暴走しているのは魔女一人だ。メカメカ国は合理的な人々が多い」
「だが、呪術の国であるじめじめ国とやりとりがある以上は我流の呪いを試そうとする人間だって現れる」
 
 オレの身体に起きた変化を呪いの一言で済まされるのは違和感がある。
 他の言い方もないので変なことが起こったら全部、呪いなのかもしれない。
 師匠は腕組みをしてオレとバーローを見て回る。
 
「魔女の所業をすべてアカツキの中から追い出す」
「そりゃあそうだ。獣人は人間を喜ばせるための道具じゃない。都合よく弱者に貶められるわけにはいかない」
 
 アルバロード・P・メーガッダンリクによくよく言い聞かせてやってほしい。
 自分が見たいからという理由だけでオレを性的にいじめてくるヤツだ。獣人の敵だ。
 
「……これから、王になるための雑務でこいつのそばを離れるだろ」
「アカツキに何をするつもりだ?」
「鍛えてやろうかなって」
「怯えて泣きじゃくるアカツキはかわいいが、魔女の痕跡は看過できない」

 抱きしめられたまま尻尾を軽く握られる。
 いつの間にかオレが怖がらない触り方を習得している。
 バーローはエロに特化した人間なんだろうか。

「鍛えるって言ってもうさぎだからムキムキマッチョにはならねえよ。安心しろ」
「たくましい体つきでもアカツキはかわいい」
 
 耳の付け根の軟骨部分を歯で甘噛みされる。
 噛みきられたりしないと分かるとただただ気持ちよくなってしまう。
 
「とりあえず、うさぎはもうちょっとバカがバカなりにお前を大切にしてるって分かってやれ。自分から抱きつきに行ってやる方が得だぞ」
 
 後半に関しては以前にも言われたことだ。
 自分から誘った方が、ダメージは少なくて済む。
 それはいつでも変わらないらしい。
 
 自分から積極的に動くのは気持ちも体も縮こまってしまって難しい。
 けれど、師匠は元気で、オレも流されているとはいえ覚悟は決まっている。
 
 伴侶じゃなくなりたいなんてきっと通らない。
 それなら大切にしてくれと訴えないと始まらない。
 
 
2018/05/04


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