≫アンケート ≫拍手 ≫文章倉庫

027:王か、王以上の存在になるオレが酷い目に合うのはおかしい。


 霧のような靄が発生しだす湿気の高い、じめじめ国。
 
 オレは墓だと言われている木のことも、アルバロード・P・メーガッダンリクが王になる瞬間も、何も知らずにいた。
 獣人だから知らされることがないのだと勝手に納得していた。
 垢つきと名付けられたから、たわしで肌をこすられて痛い思いをするのだと思い込んでいた。
 言葉を学習したそのときに「どうして」「なんで」と疑問に思ったことを口に出せばよかった。
 拒絶のために使った言葉は通じない。聞く耳を持たれていないからだ。
 
 オレたちはあまりにもお互いを知らずに過ごしていた。

 アルバロード・P・メーガッダンリクはオレを勘違いしており、オレは勘違いされていることに気づきもしなかった。それが、あのどうしようもない、受け入れがたい自分の終わりに繋がっていく。
 
 狐の獣人である師匠はオレよりも世界を知り、人間を知っている。
 一度、師匠に殺されたことで気軽に近づけなかったけれど、やっぱり師匠は師匠だ。
 オレが言わんとすることを分かってくれる。
 バーローがオレの耳に何もしないという言葉を引き出せたのは、師匠のおかげだ。

 オレは師匠に近づいてみた。
 攻撃はされない。
 手を伸ばすと師匠も手を伸ばしてくれた。
 手と手が繋がる前にバーローによって引き離される。
 
「どういうつもりだ、ルナール」
「そこは俺じゃなくて、こっちに言えよ。まあ、うさぎだからなぁ」
 
 オレを後ろから羽交い絞めにするバーローを気にせず溜め息を吐く師匠。
 
「うさぎってのは、不安になると狭いところか、ぬくもりを求める」
「アカツキは不安だったのか。だが、頼るのならば私でいいだろう」
「だから、俺じゃなくて本人に聞け。目の前にいるんだから」
 
 師匠の口にする兎族の特性はその通りだ。
 オレたちは臆病でストレスに弱いが、愛されて大切にされるのが好きなので、構われる分には苦痛を感じない。
 以前のことを思い出して怖いと感じることもあるが、バーローに抱き上げられるのは嫌いじゃない。
 触れられるのが拷問じみた性行為ときだけだったことを考えれば、抱きしめられて背中を撫でられるのは心地いい。
 
「アカツキは自分の行動を説明できないことが多そうだ」
「見るからにバカっぽいか。そうだな」

 師匠は口が悪い。
 けれど、事実でもある。オレは平均的であり普通の獣人だ。
 師匠は長生きで経験豊富でオレとは比べられない。

「獣人は本能を理論的に説明できるのか」
「そういうのは年齢と慣れだな……おい、俺を通訳に使おうっていうのか!?」
「アカツキに異論はなさそうだ」
 
 師匠なら俺の気持ちを上手く言葉にしてくれるだろう。これに関しては誰より信頼できる。
 
「……こいつが俺に近づいてきたのは、アルバが儀式として何かをするなら近くにいて邪魔になるっていう気持ちと先のやりとりでまだ怯えてるから誰かと接触していたいってところだろ。手を繋いでるだけで安心したりするお手軽さがうさぎだ」
「アカツキがすごい勢いで頷いているな」
「よくわからないけど、こいつは自分の立場がよくわかってなくて遠慮があるんだよ。……本来、この国で一番偉いぐらいの気持ちでいてもいいんだが」
 
 師匠の言葉に思わずオレはバーローを首を少し後ろにひねりながら見上げる。
 否定することもなく「それがどうした」と言わんばかりの顔をしていた。
 
「ほら、わかってねえだろ。自分の立場がどういうものなのか」
「王族を、産みます」

 オレの言葉に師匠は首を横に振る。
 小柄で愛らしい顔立ちに似合わない不遜な態度。

「それは結果としての話だろ。お前がここに来たのは、ここにいるアルバロードの伴侶だからだ」
 
 この国に来る前に聞いた言葉だ。
 書面での契約という獣人からすると詐欺みたいなことをされた。
 何を誓ったのかよくわからない。きっと人間側が一方的に有利なものだろう。
 
「こいつ、伴侶の意味を理解してねえぞ。だから、さっさと孕ませとけばいいっていったのに」
「アカツキは焦らされるのが好きらしい。あるいは、私を焦らしたいのか、挿入は好んでいない」
「うさぎなのにか? ……産んだら終わりだと思って子作りをもったいつけてるなら、間違ってるぞ。お前の役目は産んでも終わらない」
 
 師匠の言葉に毛が逆立つのが分かる。
 終わりないエンドレス出産の恐怖は未だに消えていない。
 
「伴侶っていうのはこの場合、モフモフ国からじめじめ国に籍を移したってことだ。お前はモフモフ国の獣人じゃなくてじめじめ国の獣人だ。俺は前王に所有されてたが、お前は次期王というかほぼ王であるこのアルバの伴侶だ。位が違う」
「位が違うにもかかわらずルナールはアカツキに対して口の利き方がなってない。そういったところが混乱の元なんだろう」
「それは獣人としての位が俺の方が高いし、こういうやり方でやってるからな……」
 
 師匠がいつでも変わらずに師匠らしい話しかたなのは安心するので構わない。
 
「獣人は所有者に不満があればモフモフ国に戻れる。そういうもんだ。獣人を無理やり拘束する権限は誰も持ってない」
「獣人の取り扱いひとつで国同士の話し合いに発展するのは理解している」
「伴侶となるとモフモフ国としては介入できないグレーゾーンになる。夫婦喧嘩を国家の問題には出来ないからな」
 
 師匠は「そのあたり分かってるか」と聞いてくるが、オレは知らない。
 人間と夫婦になる獣人は居ないわけじゃないが少ない。
 モフモフ国からの支援が事実上なくなる。
 故郷に変わりはないけれど、帰る場所はパートナーとなった人間の場所。
 その代わり自分の夫や妻となる人間の身分と同等かそれよりも上の位を貰う。
 それなら、以前に不当な扱いを受けた理由が分からない。
 
 王か、王以上の存在になるオレが酷い目に合うのはおかしい。
 
 
2018/05/03


≫拍手 ≫文章倉庫
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -