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026:ここには優しさがある気がする。


 過去に聞いた未来の言葉。それは、きっともう繰り返されることはない。失った耳を気にし続けるオレに「そんな色なら、いらないだろ」とバーローは言った。バカなのだ。余計なことしか言わないバカなのだ。
 
 落ち込んだオレを励ますために絞り出した言葉だとするなら、心の底からバカと叫びたい。
 
 ド鬼畜野郎で最低最悪な男だと今でも思っているけれど、理由なくオレをただ追い詰めたりもしない。
 オレの戸惑った顔、苦悶の表情、そういった顔を見たがる鬼畜野郎だとしても、オレを本気で落ち込ませたままにしない。
 抱きしめて背中を撫でつつ耳に頬を寄せられる。健康状態は良好なので耳にふわふわ感が戻ってきている。
 
「お前もお前ですぐに泣くな。いやまあ、うさぎらしいが……少しは馬鹿を信じてやれ」
「泣いているアカツキもかわいい」
「今はそんな切り返しを聞いてる場合じゃねえよ」
 
 師匠のツッコミはいつでも正しい。
 自分のいとこであり数少ない生き残りの王族に目もくれずバーローはオレを見る。
 黒髪と黒目は陰鬱としていて、重苦しいなんて思っていた。
 綺麗で整った顔立ちかもしれないが、無表情なことが多く、格好いいと感じない。
 笑みを浮かべるときといえば、オレに拷問じみた性行為を強いるときだったのでなおさら恐ろしかった。
 
「泣いて目の周りが赤くなっているのが、かわいい」
「うさぎらしさがあるよな、って、ばかっ」
「……アル。このまま居座るつもりか」
 
 師匠の言葉にバーローは淡々と対応する。
 いとこに向けた反応じゃない。
 情がなさすぎる。
 
「そんなにその子と俺を同じ空間に置きたくない?」
「そうだ」
 
 即答するバーローにオレはある疑念を抱く。
 こいつは本当にバカなんじゃないだろうか。
 
 言葉が少ないだけで深読みしてしまうが、実は底が浅くわかりやすい人種な気がする。
 はい、か、いいえで答えられる問いに対して濁すことがない。
 
 あえて言えばオレに対する変態行為の手を緩めることはないと遠回しに宣言することはあるが、それだけだ。
 じめじめ国のけっこうな秘密をぼろぼろと口にしている。危機感のない次期王様。
 こいつが重要機密を口にしているせいでオレが誰かに殺されているのではないのかと考えてしまう。
 
 身内ばかりの席とはいえ、自分の父親である王の墓の前でオレの耳を甘噛みしだすのはどうかしている。
 オレの耳の軟骨のこりこりとしている根元部分を重点的に歯を立てられる。
 口の中がオレの毛であふれかえっていそうだが、バーローはバカなのでそれも楽しいのかもしれない。
 
「仕方がない。今回は俺が折れよう。……またね、白兎くん」
「アカツキに勝手なあだ名をつけるな」
「自分の決めた名前が他人の口から出るのが嫌なくせに勝手だなぁ」
 
 肩をすくめてアルビノン・P・メーガッダンリクは去って行った。
 バーローに切り裂かれた肩は再生していても服は血に汚れたままだ。
 
 すこし経ってから廊下の方で悲鳴や心配の声が聞こえだす。
 墓の外で控えていた人間たちからすれば、王族同士で何をしているのか説教をしたくなるレベルだろう。
 いくら超再生能力を手にした相手とはいえ普通は切りつけたりしない。
 
「この場の説明が途中になってしまったな」
 
 優しくオレに語りかけるバーローは、オレの知らないアルバロード・P・メーガッダンリクだ。
 けれど、もうこの姿こそがオレの知っているバーローなのだと上書きしてしまうべきかもしれない。
 無遠慮に引っ張られるのではなく、優しく耳を撫でられる。
 
「アルの出現でアカツキが緊張状態に入ってしまったが、落ち着いてきたな」
 
 目じりを指先で撫でられながら確認するように聞かれたのでうなずく。
 アルビノンと同じ空間にいるとそれだけで涙腺が緩む。
 師匠の死を思い出してしまう。
 
 オレの目の前で師匠は死んだ。
 あのアルビノンに首を絞められて、死んだ。
 
「この国には六本の身代わり木がある。私が王になると南方の木が王の木と呼ばれることになる」

 説明が頭の中に入って来ない。
 いま、考えなければならないことは、じめじめ国のことじゃない。
 師匠が死ぬことのない未来の情景だ。
 
 すでに最初から師匠はオレの知る師匠とは立場が違う。
 メカメカ国で湯船につかるなんていう悠長なことがあったせいで、ズレたのだろう。
 きっと他にも変化がある。
 それを見つけていくことで、きっとオレを殺す誰かの正体が見えてくる。
 
 以前と今との違いがあるからこそ、オレは誰かに殺されている。
 地獄のような日々で、虐げられていたが、オレは殺されたわけじゃない。
 
 オレの死因は自殺だ。
 あるいは、原因のすべてはアルバロード・P・メーガッダンリクにあるとして、他殺と言ってもいいかもしれない。
 騙し騙し生きてきた日々をオレは自分で終えたのだ。
 耳がなくなり、髪の毛が抜けたのか自分で引っ張ったのか、一部禿げていた。
 性欲とは無縁の身体であれば、もう子供を産むこともなくなると変な計算も働いていた。
 
 だというのに休ませることもなく延々とオレを孕ませるバーロー。
 獣人への思いやりゼロ週間すぎた。
 優しさがそもそも習慣の中に存在しない国なのかもしれない。
 
 ジッとバーローを見つめると「どうかしたのか」と聞いてくるアルバロード・P・メーガッダンリク。
 ここには優しさがある気がする。
 
 
2018/04/30


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