020:オレがこの国を助ける代わりにこの国もまたオレを助けるべきだ。
走りきれることは出来ずに廊下の途中でうずくまるオレを容赦なく犯してこようとするバーロー。
抵抗してやろうという気持ちが尻尾を握られると萎える。
這いつくばって逃げようとすると尻尾が痛い。
以前、誰かに針を刺された記憶がある。
服を手直ししている最中に間違えたと言われながら、ぶすっと刺された。
涙が出ないほど痛くて座るのも仰向けになるのも怖くて掛布団を抱きしめて横向きに寝ていた。
死の感触に直結するからか本能が敏感になるからか痛みの記憶は身体の自由を奪う。
恐怖心にオレは動けなくなった。
尻が空気に触れたと思ったら指を無遠慮に入れられる。
尻尾はもう握られていなかったけれど身動きが取れない。
「あっ、はぁ、やめ、て、ください」
「だいぶアカツキの中で暴れているな」
どこか不快そうに言いながらオレの中に入れられたメカメカ国のオモチャを取り出してくれた。
異物感がなくなって少しだけ楽になった。
息を吐き出して気分を落ち着けようとするが無理だ。
混乱が収まらない。
切り抜けるための冴えたやり方が見つからない。
ふわふわした衣装は完全に脱げないけれどまくり上げると素肌になる。
構造がよくわからないけれど以前のときに性行為しやすい服だと教えられた気がする。
すこし整えるだけで行為の痕跡を隠せるし勃起しているのも分かりにくい。
恥ずかしさを心持ち和らげてくれる服だが自分一人で着たり脱いだりできない。
「これだけ解れていて挿入して痛むことはないな」
「……ま、まって」
「五秒待とう」
優しいのかケチ臭いのかわからない男だ。
自分でカウントダウンして五秒後に本当に挿入してきた。
オレが廊下を走りきれなかったからこうなった。
自分の言葉通りに実行しているのである意味律儀かもしれない。
だが、もっと待って欲しかった。
五秒なんてあってないようなものだ。
「感度は高まり、反応は悪くない状態だ。何か問題があるか」
「あっ、あ、あ、ぬいて、……ほしいです」
「混乱も悪くないが自分がどんな状況か私に伝えられるか。正確であるのが好ましい」
「えっと、あの、もう出ちゃって……」
挿入された瞬間にオレは射精してしまった。
今も身体が痙攣している。
棒を抜かれていなければせき止められていたはずのものが服の内側を汚している。
着替えたいというオレの訴えには「問題ない」と言葉が返ってきた。
「汚れは気にしなくていい。先ほど私の手袋についた分を含めて検査に使う」
「けんさ?」
「魔女の罪状を重くするための小細工だな。あの国は王族の価値が低くはないが高くもない。人格異常も国内できちんとした罰則がない。だからこそシステムが導き出した答えを叩き台にして罪人の行く末を決める。……そんなことより、どう感じているのか説明してくれ」
淡々と説明しながら腰を動かされて全然頭の中に言葉が入ってこない。
薬の影響なのか苦しい痛いという感覚はなく足りなかったものが埋められた幸福感すらある。
栄養剤として後ろに物を入れて刺激され続けたからオレの身体は変わってしまったんだろうか。
以前は気持ちがいいと思っても待ち焦がれるようなことはなかった。休む間もなく犯されていたから行為に対して前向きな気持ちを持つことがありえなくなったのかもしれない。
「きもち、いい、です」
「それだけか」
「くるしい、です」
「体力がついていっていない中で続けるものでもないな」
「ぬい、て、ください」
「私としてはこのままアカツキを孕ませてしまいたいところだが……」
「ごえんりょいただきたい、です」
「丁寧に断られると名残惜しいが引くしかないな」
意外にもあっさりとオレを解放してくれた。
オレと自分の服装を整えて抱き上げてくれるバーローが五割増しで格好良く見えるがよく考えるとオレが立てなくなった原因はこいつだ。
欲求不満を伝えるようにオレの耳に少し歯を立てて噛んでくる。
「はしたなく口を開きよだれを流してよがり狂うアカツキが見たくもあるが腕の中で顔を真っ赤にして震えている姿も悪くない」
以前はいつも無理やりでオレの意思は無視していた。
オレが何を口にしても無駄だという感覚があるせいできちんと言葉を聞いてもらえることに感動してしまう。
話せば通じると思えば未来は明るい。
「幸せにする」
二度目あるいは三度目の言葉。
オレはそれを信じられる気がした。
これから先にあるのは痛くてつらい日々ではなく幸せと呼べるものなのだと期待していた。
けれど、上手い話なんてあるわけがなかった。
オレはその夜、バルコニーから落とされて死んだ。
誰に殺されたのかは分からない。
バルコニーに出て、以前ここから逃げたと懐かしんでいた。
今は逃げずに色んな方向で正しい道を進もうと決意していた。
王族で回している小さな国だからオレがいないことは損失だ。
以前は分かっていたからこそ逃げてしまおうと思った。
説明もなく訳も分からないうちに犯されて野蛮で不作法で許しがたいという気持ちがあった。
誰にも求められなかった残りものに手を差し伸べてくれたことに恩義を感じていてもオレにはオレのプライドがあった。
獣人だからといって低い扱いを受けるいわれはない。
オレはとくに平均点な獣人だから尊ばれることはあっても低く見られるのは納得できなかった。
国が滅べばいいとは思わない。
できるなら復興の協力はしたい。
けれど、オレはオレの権利を守ってもいいはずだ。
今はきちんとそれを伝える言葉を持っている。
人間から妥協と思えるものであったとしても獣人からすると当然の善意。
メカメカ国ではよく言われるビジネスライクといった思考形態。
自分が何かを求めるなら相手にも何か見返りを渡さなければならない。
そういった契約は大切だ。
オレはバルコニーから落とされて死んだけれどまた少し時間が巻き戻って地面に叩きつけられずに生きている。
死なない方法は二回目だからこそもう分かっている。
この現象には確実に法則がある。
オレがこの国を助ける代わりにこの国もまたオレを助けるべきだ。