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010:乳首を引っ張られて泣き言を漏らさない、オレは強い。


 悩んでいてもどうしようもないのでオレから指でほじくりだして欲しいと頼むことになった。
 気分的に死にそうだ。
 以前はこんなことなかった。
 
 ときどき執拗に「どうされたい」と聞いてくることはあったけれど、今の状況とは違う。
 もちろんオレの答えは「中出ししないで」だ。
 中出ししないで欲しい、種づけやめて欲しい、十分に産んだんだから解放して欲しいとオレは訴えた。
 モフモフ国のおだやかな気候の中で日向ぼっこしていたい。
 昔の平和な記憶は美化されるものでじめじめ国の生活が嫌になればなるほどモフモフ国に行きたくなった。
 メカメカ国ではこれから先の未来を考えていたのでモフモフ国に戻りたいとは思わなかった。
 そもそもモフモフ国がメカメカ国にオレたちを引き渡したことを知っているので勝手にメカメカ国から逃げたらモフモフ国に迷惑がかかる。
 
 獣人は大切にされる。とくに希少だし能力的にも平均的なオレは愛されて大事にされると思っていた。
 それがメカメカ国でもじめじめ国でも粗末な扱いを受けた。
 
 顔立ちが平凡でも出産能力は兎族なのできちんと備わっている。
 どの国でも重宝されて高待遇を受けるべき獣人だ。
 
 それなのに浴室で泣きながら尻の中に入れられた栄養剤を取り出されている。
 泣いているのが惨めさからなのか気持ちの良さからなのかがわからないのが涙を誘う。

 湯冷めしないようにという配慮なのか湯船を背中からかけてくれる。
 身体中がそわそわぞわぞわと落ち着かなくなる。
 鞄から湯船の中に入れたものはオレの尻に入れた栄養剤だけじゃないはずだ。
 気持ちよくさせるための成分もきっと含まれている。
 そうじゃなければ勃起なんかするはずがない。
 
 内臓を圧迫するような負荷を与えられて苦しくて仕方がなかったのにオレはずっと勃っていた。
 
 身体のどこもかしこも痛くてつらかったのに今は絶頂手前の快楽に喘ぎかけている。
 この身体からすると前立腺に受ける刺激は初めてで強烈だ。
 ある程度、オレは前立腺をこすりあげられてイクことを知っている。
 気持ちいいことをされるんじゃないのかという期待感がわずかにあったのは否めない。
 
 メカメカ国の王女によって痛めつけられていたおかげでオレは気持ちがいいことに飢えている。
 以前の時も訳が分からないうちに抱かれて妊娠した。
 体力が落ちていたので出産は大変だったが気持ちよかったし兎族として王族の数を増やす仕事はそれほど悪いものじゃないので子供を産んだことは気にしなかった。
 ただ問題はその後だ。
 産むのは一人二人ではないし状況に流され続ければ最悪の結末に辿り着いてしまう。
 
「あ、の……」
「どうした、まだ妊娠初期程度には目立つ腹になっているぞ」
 
 オレの腹を撫でてくる手つきは優しいが言ってることはわりと最悪だ。
 本来、腹が目立たない妊娠初期だがオレはやせ細ってガリガリなのでお腹が不自然に盛り上がっているのが目立つという嫌味だ。
 
「あとは、自分でします」
「……そうか、立てるか?」
 
 手を差し出す姿は冗談ではなく王子っぽくてうっかりその手をとると湯船に落とされた。
 こんなことになるなんて思ってもいなかったのでお湯を少し飲んだし鼻が痛い。
 咳き込むオレを心配することもなく入り口付近に立つ人間にバーローは声をかけた。
 
「サクール。私も湯に入る。部屋の中で待機しておけ。ルナールが不満を漏らしても適当にあしらえ」
 
 顔を押さえているオレを気にもせずに服を脱いで湯船に入ってくる。
 浴槽は広いので精一杯すみに寄って距離をとろうとするがオレの腕を引っ張り後ろから抱きしめてくる。
 なんのつもりかと思ったら腹を拳でぐりぐり押してくる。
 言葉は少ないくせに嫌がらせをするバリエーションは豊富な男だ。
 
「サクール、さっさと出ろ」
「ですが、アルバ様」
「私はアカツキの声をこれ以上おまえに聞かせるつもりはない。不満があるなら耳を溶かすぞ」
 
 冗談でも脅しでもないところが王族の最悪なところだ。
 オレの世話役になるだろう人間は忠誠心のかたまりらしく一歩も引かないとばかりに動かない。
 壁を見てオレの姿を見ないようにしていても次期国王に何かあってはならないので気配は研ぎ澄ましていただろう。
 それをこんな扱いを受けたらオレをタワシでこすりたくなるかもしれない。いいや、してほしくない。
 
「こえ、ださないように、します」
 
 一歩引く姿勢って大切だと思う。
 人間同士の争いを仲裁するのも獣人の務めだ。
 かわいかったり無邪気な獣人に人間は自分たちが損得を考えて争い合う不毛さを知る。
 オレの優しさは世界平和に貢献できるレベルだと信じている。
 乳首を引っ張られて泣き言を漏らさない、オレは強い。


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