009:これはドS野郎に仕掛けられた羞恥プレイの罠なのか。
身体が痛みではなく甘い痺れに襲われて落ち着かない。
以前に同じ状況になったことがいくらでもあるのでわかるが、オレは発情している。
兎族は常に発情していると言われるが実際は少し違う。
人間と同じで性的な興奮をさせられるとスイッチが押される。
エッチな気持ちになれば妊娠できるので人間の男女で子供を作るよりも子づくりの難易度は低い。
王族は劣性遺伝を取り込まないために人間の妻がいても子供を産ませなかったり、人間と獣人それぞれに産ませて経過を観察することもあるらしい。
メカメカ国が統計的に人間同士から生まれる子供よりも獣人を介して生まれる子供の方が優秀だと言っているので兎族の大量拉致なんてものが過去にあった。
少なからず快感を得ているか、快楽への期待がなければ発情しない。
だから、バーローは鬼畜野郎で最低だとしてもド下手くそではない上に最高峰の呪術者だ。
性感を高めるための薬は簡単に処方できる。
湯船の変化からすると時間差でオレに作用するように細工したんだろう。
電気風呂に入れられたような全身で感じる痛みが今は甘く溶けている。
湯船の中に手を入れて何かを取り出しているのが音で分かる。
見るのも考えるのも嫌で細く息を吐きながら四つん這いでいた。
尾てい骨あたりにある尻尾を事前の了承なく握られる。
濡れてぺちゃんこになっているだろう尻尾の根元に触れられるのはちょっと気持ちいい。
知らずに腰を突き出すように動かしていたからか「入れてやる」と意地悪く笑いながら言われる。
サイズはまちまちな柔らかな物質が体から力が抜けているので抵抗感なくひとつ、ふたつ、と入れられる。
高濃度な栄養剤として機能するとても高価なものを与えてくれるのはわかっている。
以前のとき、じめじめ国に到着してすぐに出された食事で吐いてしまった時にも尻に入れられた。
ちなみに説明は一切なかった。
そのため自分が食事を受け付けないほど身体が衰弱していることもその対策として尻から栄養を与えようという発想になったこともオレは知らず、いじめられていると思っていた。
何度か繰り返し尻に入れられ続けてやっと栄養補給のためだとわかったけれどメカメカ国では点滴を受けていたので栄養剤を尻から入れるなんていう発想に自力ですぐにたどり着けるはずがない。
以前は最初から一貫してドS鬼畜野郎だと思っていたけれど、今はちょっとした説明があるせいか前よりもマシだ。
オレとコミュニケーションがとれるとわかったからだろうか。
尻に入れているのが一つで庶民の給料一カ月分だとか教えてくれる。
無駄知識というか居心地が悪くなる知識だ。
どういった効用でどんな作り方をしているものなのかを聞くのは正体不明のものを身体に入れているわけじゃないと安心できていいけれど、値段を聞くと心苦しい。
資金はどこから捻出しているんだろう。じめじめ国はメカメカ国とは国としての在り方が違いすぎるので単純に税金とかではないはずだ。
じめじめ国の人間からオレが嫌われた理由が栄養剤を使いすぎだったりするならお怒りはごもっともだったかもしれない。
元気になってオレが栄養剤の量産に成功したら先行投資してよかったという話になるだろう。
子供の手柄をとるようだがオレは効率のいい栄養剤の材料の栽培方法や精製方法を知っている。
自分の発見をオレに褒められたがったのか国家機密を詳細に話してくれた。
以前のオレたちに会話はほぼなかった。
セックスの最中の実況中継をするほう、聞くほうというオレたちだった。
オレが言葉を話せるとアピールすることでバーローがちゃんとオレと会話しようとするなら未来は明るい。
そんな気がしていたが、所詮はうさぎの楽観だ。
兎族は臆病で繊細で用心深く大人しく素直で淋しがり屋で嫉妬深く短気と誰もがどこかに当てはまりそうなものを性格的特徴としてあげられている。
「固体にもよるらしいが兎族は人懐っこいらしいな」
そう言いながらオレの尻に栄養剤を入れていくド鬼畜。
ちょっと前まであんあんっと甘い吐息が意図せず出ていたのが今はうぐぅひぎぃである。
「魔女がその本質をゆがめることによって特定の人間とだけ絆を結ばせようとした、それ自体は私も理解できる」
オレは自分がされていることが理解できない。
高級品で無駄遣いなんかできないものだという説明をしながらオレの尻にひとつ、ふたつ、みっつに留まらず入れられ続ける栄養剤。
「愛する者には自分だけを愛してもらいたいものだ」
メカメカ国の王女への賛成意見はどうでもいいからオレの中に栄養剤を入れるのをやめてほしい。
上半身があばらが浮き出て見苦しい状態なのにお腹だけが妊婦状態になっている。
こんなに膨らむなんてどれだけ入れたのか恐ろしくなる。
ひとつで結構価値があるのに無駄遣いしすぎだ。
栄養は多すぎても死ぬ。点滴だって一気に体内に入れないように調整しているというのにこれはない。
「苦しいと思うなら私の言葉でも易々と従うのはやめるんだな」
「な、ん……で」
「私が本意ではない言葉を口にしてアカツキが了承したら許せないだろ」
どういうことだろう。
オレが四つん這いになったから栄養剤を尻に入れるつもりがなかったけれど入れているってことなのか。
しかも、今後同じことがないようにあえて入れすぎて苦しませているっていうんだろうか。
負けず嫌いの子供か何かか。
「アカツキが身悶えている様は愉快だがそろそろ内臓も限界だろうから数を減らした方がいい」
ドS野郎は自分勝手。そんなの知っていた。
自分がやったことをオレが悪いみたいな責任転嫁をしてくる。
「腹に力を入れて自分が苦しくない程度に数を調整していい」
簡単に言ってくれるが体力がないオレに無理を言いすぎだ。
自分がしていることが無茶苦茶だとわかってもらいたくて「できません」とオレはうぐぅひぎぃと呻く合間に訴えた。
「擬似妊娠状態で国に戻るのも一興か」
頭のおかしい提案をするな。
オレが拒否しなかったら本当に実現するだろうから首を横に振って「出すの、手伝って」となんとかかんとか訴える。
尻尾を軽くにぎにぎされたので頼むのが正解だったらしい。
「私以外の人間の前で足を開くのはもちろんありえないことだが、私に対しても気安く許すものじゃない」
言葉だけはとても紳士的だが行動を考えるとバカにしか見えない。
適度に反発してほしい系ドSの気持ちを理解しろっていうのは無茶だ。
ただでさえ人間と獣人で感覚に差がある上にじめじめ国の常識はオレの中で非常識なことが多い。
「げんき、な、ときなら、がんばります」
「そうだな。こういった使い方でナールングを消費すると方々から怒りを買う」
ナールングというのがオレの尻に入れられたものの名前だ。
じめじめ国の固有名詞はすこし覚えにくい。
メーガッダンリクというのも発音しにくくて心の中でも言いたくない。
「この国は性具を作ることに情熱を傾けている人間が多いから開発途中のものも含めて根こそぎ貰って行こう。アカツキの悦びのために使われるとなれば誰も否は唱えられない」
唱えてほしい。
オレがMじゃないと証明されたなら全力でシステムに否を唱えてほしい。
人間と獣人がより良いバランスで共存できることを願っているらしいメカメカ国のシステムの正しさを今こそ証明してほしい。
「いたいの、いやです。いまも、これからさきも、いやです」
「……腹を殴るのと蹴るのはどちらがいいか聞こうと思ったんだが」
「いやです」
「他に手っ取り早い方法はないだろ」
殴るか蹴るしか選択肢がないわけがない。
もっとよく考えろ。人間だろうが。獣人のように本能で行動しないでもらいたい。
オーソドックスに指でかき出すのがいいと思うがオレがそれを提案しないとならないんだろうか。
これはドS野郎に仕掛けられた羞恥プレイの罠なのか。