・本気のロールプレイはゲームにならない!?

※メインの造形は平凡ですが、昔のアカウント(アバター)は全部美形。



 VRMMOからログアウトできないという小説やアニメで見たような状況にオレはしばらく気づいていなかった。
 強制イベントが始まるとログアウトできないことが多々あるゲームだったので、仕様だと考えていた。ゲーム内と現実世界での時間経過は違うので気にしていなかった。
 
 オレがやっていたゲームは玄人好みと言えるものかもしれない。
 プレイヤーが主人公であるゲームに飽きて、わざわざNPCの成りきりをする。
 そんなことが流行っていた。ある意味、末期のゲーム。

 たとえば薬屋の店主。
 普通は決まったこと以外は話してくれない。攻略情報を教えてくれない。
 だが、運営の人間が中に入っている時は薬屋としての業務外のこともペラペラしゃべりだす。
 他のNPCキャラに搭載されたAIも、その運営の対応で学習したのか人間らしくなっていく。
 
 すると人は不思議なもので、現実にある店のような反応をする薬屋に行く難くなる人種が出てくる。
 人間っぽい店の店主が嫌いなわけじゃない。
 昔ながらの定型文しかしないNPCが恋しいのだ。
 つまり一周回って最低限の受け答えしかしない薬屋の需要が出てくる。
 欲しいのならばやってしまえの精神でプレイヤーが必要最低限の受け答えしかしない薬屋を開業した。
 そういったことができる自由なゲーム性があった。
 
 便利な生活を不便に感じることは誰にでもあるのかもしれない。
 
 ロールプレイング文化とでも言うのだろうか。
 ゲームの中で与えられた役割や役職を演じることを楽しむ、そんな文化が定着していたゲームだった。
 自由度が高いせいで何をしてもいいせいで、何もしてく無くなってしまう。
 
 アカウントを作り直したオレは、盗賊に襲われて殺されかける直前にオオカミに助けられて育てられた貴族の子供という設定だった。ログインする前に自分の設定を決められるからこそ、すんなりと演じられる。ゲームの中で自分ではない誰かになれるのが楽しい。オレはVRMMOにハマっていた。
 
 馬車から引きずりおろされ、両親が殺され、オレも殺されかけたが設定どおりにオオカミが助けてくれた。
 設定したイベント通りだ。
 
 両親の死のリアルさにビビりながらも、オオカミの巣で数年育てられた。
 セーブ画面もログアウト画面もなかったが、この数年は強制イベントあつかいで現実では数分程度しか時間は流れていないのだろうと思っていた。
 
 オレは街に行く決意をした。
 元々、ずっとオオカミに育てられるつもりはなかったし、イベントに区切りをつけてセーブしたい。つまり、行動を自分で起こさないといけない。
 
 オレは助けてくれたオオカミに人間の世界に戻りたいと相談した。オオカミは心配しつつオレの考えを否定しなかった。
 お供としてオレに懐いている弟のようなオオカミを託して送り出してくれた。
 この段階ではまだまだ完全にゲーム気分だ。
 もちろんオオカミたちには感謝しているし、大好きな家族だと思っているが、こういうイベントなんだろうという感覚で動いている。
 
 オレを助けてくれたオオカミは希少なオオカミだったようで街に行くと捕まってしまった。
 希少種を保護するという名目で弟分のオオカミと引き離され、オレは奴隷商に売られた。
 
 このゲームは大体、自分の都合の悪い人間を奴隷商に売るのが普通だ。
 迷惑プレイヤーや迷惑NPCは公の場で裁くよりも奴隷商のところに持っていく。
 奴隷にすることによって、自由に迷惑行為が出来なくなる。
 抑止としてとても有効だ。

 現実のように罪状を並べてとか、証拠をどうのこうのなんて必要はなく奴隷商人に引き渡せば全てが済む。
 ゲームだと楽なシステムだったが、引き渡されて勝手に奴隷にされる立場からすると最悪だった。
 力があれば奴隷になる前に逃げられるし、力があるものはそこまで悪事を働かない。
 自由度が高いゲームだからこそ、廃人ゲーマーたちは礼儀正しかった。
 調子に乗った発言をする人もゼロじゃないが、自治は成されていた。
 それこそ、正義の使者としての立ち振る舞いが楽しいと感じている人々が世直しボランティアを頑張ってくれていた。
 
 ここで奴隷にでもされていたら、あまりの理不尽さにゲームではなく現実なのかと思ったのかもしれない。
 イベントだと信じたりせずに目を覚ましたかもしれない。
 
 だが、たまたま居た奴隷商のオーナーがまさかの知り合いだった。
 正確に言えば、オレの二つ前のアカウントで知り合ったNPCだ。
 
 オレの初代は豊満な踊り子美女。二代目は二百歳オーバーのロリロリ竜姫。三代目は甘えんぼ幼女(五歳児)。そのどれも、孕ませエンド的な流れになった。そのため四代目から今の六代目まで男にしている。現在のオオカミに育てられた少年である姿は一番、現実のオレに近い。生まれを特殊設定にしたので見た目は平凡で構わない。
 
 以前の傾向からみると、オレはどうにもヤンデレに好かれやすい。
 
 オレの行動の何かがNPCのスイッチを押しているのか、大体が囲い込まれる。拉致監禁エンドが多すぎるので、アカウントを放棄してあたらしくゲームをやり直している。
 
 最初の豊満な踊り子美女の時は全世界男子のオナペットになってやるぐらいの気持ちで、セクシーを強調していた。そのため魔族の伯爵に拉致られて肉欲の日々に落とされても気にしなかった。オレの魅力を運営が認めたのだなとしか思わなかった。さすがに出産には抵抗があったので妊娠した大きなお腹を確認した後にアカウントを凍結処置して新しいアカウントで再度ゲームを始めた。
 
 二代目はロリババア的な上から目線の竜の姫。いろいろあって竜帝に拉致られ卵をたくさん出産した。ヤンデレ竜が卵を孵化されるどころか巣から蹴り飛ばしたりするクソ親だったので、アカウントを凍結して新しく作った。

 ゲームの世界は嫌いではないし、ゲームで起きることも嫌いではないので新しいアカウント、新しい自分として再びゲームの世界に降り立つのも悪くないと行き止まりのような状態になってはアカウントを新しくしていた。
 
 奴隷商のオーナーは男娼をやっていたオレに骨抜きだった。
 オレは今まで自分が凍結したアカウントがどうなったのか知らない。
 だから、奴隷商のオーナーがいるというのは確かめるチャンスを運営がくれたのだと思った。
 オレはあくまでもこの世界がゲームだと信じていた。
 
 ゲームにない機能があったとしても最近の技術に感動するだけで深く考えない。
 これは思い返すと不自然なのだが、正常性バイアスというものかもしれない。
 災害や天災で自分が死ぬわけないという危機感のなさ。
 悪い方に考えないように脳がブレーキをかけて警報を無視してしまう。
 
 ゲームの世界が現実になるなんて創作物の中だけのことだとオレは思い込んでいた。
 ログアウトできないゲームはゲームじゃない。現実だ。
 オレはゲームをやっているので、ログアウトできないわけがない。
 
 実際にログアウトが出来ないというのにゲームはゲームだと思い込みが消えたりしない。
 誰かに現実を見ろと横っ面を引っ叩かれなければ分からないのだ。
 ゲームの中で数年が経っていたとしても現実では数分のことだと信じて疑っていなかった。
 以前にそういったことがあったからだ。
 
 
 オレは奴隷商のオーナーに四代目のアカウントになる男娼の名前を告げた。
 近状を聞きたかったのだが、良い方向に転んだ。
 男娼の知り合いを奴隷にするわけにいかないと奴隷落ちを免れた。
 ゲームだと思っていたので、正解を引き当てて見事イベントクリアと満足していた。
 
 勝手に連れて行かれたオオカミについてもどうにかしてくれると約束してくれた。
 さすがは男娼だったオレをわざわざ身請けした男。
 オレを囲っていた相手の中で最高に人格イケメンだ。
 
 身請けにはお金はかかっただろうが、彼がそこまでしてくれたことが嬉しかった。
 そんなことを思い出して警戒心もなく彼についていく。
 
 男娼だったアカウントは身請けされて、しばらく奴隷商のオーナーと一緒に生活をしてアカウントを凍結した。
 これは前の女キャラを凍結した時と違って満足度の高い流れだったが、男娼が身請けをされた後のスローライフを送る気にはならなかった。とくに変化がなかったので、新しい冒険を楽しむために新しい一歩を踏み出したのだ。
 奴隷商のオーナーが嫌いになったどころが、未だにだいぶ好きだが、それはそれ。ゲームなのでいろんな状況を楽しみたくなる。人は貪欲なものだ。
 
 男娼のオレと対面できると聞いて、のこのこついて行った。
 その先でオレに襲い掛かった悲劇を体験してもなおオレはゲームはゲームだと思っていた。
 
 最初に魔族の伯爵から拉致られて孕ませエンドを味わったオレは大抵のことをイベントだと感じるようになっていた。
 ゲームの攻略サイトを見てもオレの身に起きたイベントのデータはなかったが、レアな体験をしているだけだと思って済ませていた。運営にガッツリ成人向けイベントが発生していて良いのかと聞いていれば何かが変わったかもしれない。
 
 
 奴隷商のオーナーは男娼の身請けを周りには秘密にしていた。その上、男娼に親しい友人などいるわけがないとオレの存在を疑問視した。オレを拷問し続けて男娼との繋がりを吐かせようとする彼が怖いというより心配になる。
 
 男娼であったオレが彼を骨抜きにして悦に入っていたので、拷問されたところで自業自得だ。
 誤解が完全に解けたわけでもないだろうが、奴隷商のオーナーはオレから情報を引き出すことを諦めた。誰にも見せたくないだろう動かなくなった男娼を見せてくれた。

 ラブラブイチャイチャしていた相手が急に死んだように眠っているので冷静ではいられない彼の気持ちもわかる。
 死んでいないので回復魔法は意味がない。
 呪いの類でもない。
 何をしても反応がないことに心が擦り切れていたところにオレがきた。
 どうにかして男娼を取り戻したいという気持ち以外の何も彼は持っていなかった。
 
 オレは彼の愛情の深さにグッときつつ、こういうイベントなんだろうと運営を褒めていた。複雑なフラグ管理とオレを打ち抜くシナリオ。コレだからゲームはやめられない。
 
 昔の凍結したアカウントを復帰するのは簡単だ。ただ、現在のオオカミに育てられた少年のアカウントを凍結しなければいけない。このゲームは複数のアカウントを同時に使用できない。男娼のアカウントに復帰するためには一旦ログアウトしなければいけない。だが、ログアウトが出来ないのでオレは男娼になれない。
 
 運営への連絡のコマンドなども見当たらない。
 ギルドやフレンドの登録は新しいアカウントなので紐づけられていないので仕方がないが、いじることができない。
 
 強制イベントの最中はログアウトできないことは多い。
 オレはオオカミを取り戻すことがイベントの区切りになるのだと睨んで、奴隷商のオーナーに交渉した。
 彼はどんな小さな可能性でも男娼だったオレを取り戻せるならいいと協力的だった。
 そして、弟分なオオカミと再会したのだが、ログアウトができない。
 イベントが終わっていないのだ。
 オレはそう結論付けて、貴族である自分の領地に帰ることにする。
 奴隷商のオーナーは仕事をしつつオレをサポートしてくれることになった。
 情報を引き出すためにオレを拷問してきた男だが、オレのことが好きだという前提で動いているので憎めない。
 それに根は良い奴なのか、疑いながらもオオカミに育てられたオレにも優しい。
 
 両親がいないのでオレの領地を親戚が管理しているはずだと思ったが、そこは魔族に支配されていた。
 どうやら運営の心に火をつけたのか、長期的な強制イベントを味わわせてくれている。
 魔族の中に見知った姿を複数見つけてピンときた。
 
 初代アカウントの踊り子美女をさらった魔族の伯爵に仕えていたモノたちだ。
 ここまでヒントがあったらオレでもわかるとその時は思っていた。
 今までの歴代アカウントの総集編シナリオを運営がしてくれているんだと思い込んでいた。
 タイミングが良すぎたのだ。
 
 透明な小鳥がオレの周りを飛び回る。
 魔族に今のオレが発見されたら太刀打ちできずにゲーム終了だ。
 このゲームに復活コマンドはない。死なないように鍛えるのがリアルと言う人間とクソゲーだと言ってやめる人間とがいた。即死回避のためのアイテムは運営がデフォルト装備にしてくれているので、開幕一ターンキルなんてことはない。
 
 
 透明な小鳥は「ママ、ママ。やっと見つけた」と子供のような声をあげる。
 意味が分からずにいたが、久しぶりに見る初代のオレを拉致った魔族が目の前に現れた。
 今は伯爵ではなく魔王になったのだという。
 時間の経過がオレの頭の中と噛み合わないが、運営からのサービスだと納得した。
 相手役は平社員より重役のほうがいいと運営が下駄をはかせてくれたのだろう。
 
 彼はオレを目覚めさせるためにありとあらゆる知識を得ようと人間も魔族も関係なく襲って、結果として魔王になったという。
 性別も見た目も違うが、踊り子美女であったオレがオオカミに育てられた少年であるオレと同じだと思っている。
 魔王はメタ知識があるんだろうか。
 魂が同じとかそういう認識で済ませているようだが、肉体よりも中身が好きだと熱烈に告白してくれる魔王。
 踊り子のたゆんたゆんな胸に大興奮していた魔族とは思えない言い分だが、運営からのリップサービスだろう。オレがこういうシナリオを好きだと知っていて狙い撃ちしてくる。悪いやつだ。課金コマンドがないが、そのうち課金しまくろう。
 
 ともかく、魔王の勧めでオレは踊り子美女腹ボテ状態と面会した。
 
 男娼と同じように眠っているだけに見える。初代は男を誘う完ぺきな肉体を創造した。お腹が大きかったとしてもエッチな魅力はあふれている。思わず触れると意識が遠のいた。
 
 気づくとオレは踊り子美女になっていた。
 魔王がメチャクチャ泣いているが、オオカミがメチャクチャ吠えている。
 床に倒れている人影はオオカミに育てられた少年だ。
 どうやらオレは本来できないはずの複数アカウント所持を可能にしてしまった。
 これは運営にバレたら今後一切ゲームが出来なくなるチートだ。
 
 そんなことを思っていたら産気づいた。
 
 魔王が出産の段取りを淡々とこなす。
 オレが頼んだのでオオカミがうるさくてもぶち殺したりしない気の長い姿を見せてくれた。
 昔はオレのパーティーメンバーを肉塊にしていた。オレをとりかえそうと駆けつけてくれた男たちの前でオレを犯す外道。魔族の性癖はちょっとおかしい。魔族に拉致監禁されて、身も心も捧げました、みたいなそういうロールプレイを楽しんでいたので、内心ノリノリだったオレの性癖も歪んでいる。
 
 孕ませエンドは孕ませられたら終わりであり、出産は想定外だ。
 混乱のまま出産。爆散。
 
 オレの腹の中にあったのは爆弾だったのか力んだ瞬間に体が四方に散った。
 魔王がオレが死ぬ前にオオカミに育てられた少年であるオレと接触させたことで魂は無傷らしい。
 だが、踊り子の体は部屋の中を真っ赤に染めて、どこがどんなパーツなのか分からない状態になった。
 人って爆発するのかと感心と恐怖。
 
 ゲームのシナリオだと思い込めなかったのは、オレの震えが止まらないからだ。
 タッチ差で死んでいた。それが分かるので、これをゲームのシナリオだと思い込めない。
 魔王がオレを慰めるように抱きしめる。
 体格差を考えてくれているのか、力強く抱きしめるのではなく、あやすような優しさを感じる。
 オレの泣き声に呼応するかのように透明な鳥が「ママ、ママ、ごめんなさい」と謝る。
 
 落ち着いてから話を聞くとオレの肉体は頑張って拾い集めて蘇生させるという。
 どうやら、魔族の伯爵の子供から魔王の子供になってしまったことで、踊り子のオレの体では母体として耐えられなくて爆発したらしい。
 体を復活させるまで時間がかかるから、オレの息子らしい透明の鳥を連れて冒険を楽しんでいいという。

 拉致監禁犯にしては優しいと思ったら、閉じ込めたら魂だけで家出されて捕捉が難しくなるからと自分の行動を反省していた。

 魔王になったことで視野が広がったのかもしれない。
 元々、残虐なことをしていても魔族なので気にしていなかったが、オレを精神的にいたぶったことを後悔しているのだと言われてしまえば憎めない。
 
 オレはヤンデレであってもオレのことを好きな相手が好きらしい。
 
 ともかく男娼に触れて、奴隷商のオーナーとイチャイチャスローライフを送ろうとオレは決意した。
 これが現実ならそれが一番平和で穏やかで被害が出ない。
 
 そんなオレの目に飛び込んできた竜帝とその子供の争い。
 世界を破壊しかねない規模の戦いになっているという。
 どう考えても二代目ロリロリ竜の姫なオレの旦那と子供だ。
 オレが子供を孵化させて母乳で育てようとしたら、ブチ切れて子供を捨てだしていた。
 あのヤンデレ竜はオレの母乳を子供に与えたくないとわがままを言ってぐずっていた。
 
 目を盗んで何匹か竜を育てたら、竜帝である自分の父に襲いかかっていた。
 小さいときは返り討ちにされていたが、体が大きくなっても同じことをやっているなんてバカバカしい。
 オレが仲裁しに行かないと世界が壊れてしまうかもしれない。
 
 二百年生きたロリロリボディは腐っても竜の姫なので強靭だ。
 身請けされた元男娼として生きるにしても何があるか分からない世界なので切り札は持っていたほうがいいかもしれない。
 
 そう思って竜たちがいる場所へと向かったオレはまだ知らない。
 どこかでゲームのイベント気分が抜けていなかったのかもしれない。
 今まで積み上げてきたフラグというフラグが、なんだったのかを知る旅になるとこの時のオレは知らなかった。
 
 
 


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2019/05/08
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