・色情霊に乗っ取られがちな俺の不運

タイトル通りな不憫平凡ビッチな話です。

 
 自分を押し倒しているデブ男を蹴り飛ばさなくなった俺は自分の不幸に慣れている。
 意識を取り戻して目の前に他人がいる状態は異常だ。
 他人が至近距離にいるどころか、ケツにチンコがインしてる。
 
「あふっ、あ、あっ、……おちんぽっ、ありがとうございますぅ」
 
 喘ぎ声が途切れると不審に思われるので、どの場面で口にしても支障がない言葉をチョイスする。
 経験から俺はチンコへの感謝がどのタイミングでも角が立たないと学んでいた。
 デブのオッサンが嬉しそうに「ちんぽ好きのエロ男子だね」と笑う。
 臭くないが他人の吐いた息を吸うのは普通に嫌だ。
 
 デブのオッサンとのセックスなんて、気持ちが悪いし吐き気もするが、蹴り飛ばして逃げ出すには体格差がありすぎる。
 
 相手からすると合意の行為の最中に暴れ出されたら腹が立つし、警察に駆け込まれたらマズイと必死になって俺を抑えこもうとする。
 俺にハメられたと勘違いして焦って攻撃してくるバカだっていた。
 ハメられてるのはどう考えても俺だ。
 いつだってケツにずっぽりチンコが入っている。人体の神秘だ。
 
「あっ、アっ、……おなかに、おちんちんこすれるの気持ちいいっ」
 
 デブの腹肉をわしづかみして投げ捨てたい。
 良い大人が男のケツにチンコ入れてはあはあ息を荒げるなと罵りたい。
 
「修玲《しゅうれい》くん、かわいいねぇ。種づけセックス大好きな中学生って最高だね」
 
 お坊さんに俺の名前が悪いと言われたことがあると母から聞いた。
 忌み言葉として、集まる霊と書いて集霊《しゅうれい》という単語がある。名前の読みが被ってしまうので「しゅうれい」ではなく「しゅうれ」にしたほうがいいとアドバイスを受けたらしい。
 母はそのお坊さんの言葉を聞き流した。集霊などとい単語を聞いたことがないし、霊など信じていないからだ。
 俺も自分の状況がこんなことになっていなければ、霊の存在など信じなかっただろう。
 
 いつの頃からか、俺の体は霊媒体質になっていた。
 それも霊を操る霊能力者というものじゃない。
 勝手に霊が俺の中に入ってきて肉体を操作する。
 つまり、俺は幽霊に好き勝手されていた。
 
 一度、幽体離脱を経験したことがある。
 そのときになってやっと自分の状況を把握した。
 
 俺の体が勝手に動いているのを宙に浮いた状態で見ていた。
 マッチングアプリで男漁りをして、俺の体はホテルでセックスしていた。
 当たり前に男に抱かれている自分の体にパニック状態だが、幽体離脱したまま俺は自分の体に戻れない。
 男に抱かれて喘いでいる自分を見ていることしかできない悪夢。
 
 観察していると絶頂するたびに線香の煙のような、よくわからないものが俺の体から抜けていった。
 
 体から煙が出るたびに俺は自分の体に近づくことができ、最終的にちゃんと体に戻れるようになった。
 
 ホラーものの体験談やドラマを見ていたので、感覚的に状況を把握できた。
 自分は霊に乗っ取られて、絶頂するごとに霊たちは成仏している。
 達することを昇天と表現するが、そういうことなんだろう。
 調べると霊にはいろいろな種類がおり、色情霊という性的な情念に囚われた霊がいるらしい。
 俺の体を乗っ取って男とセックスし続けているのは、きっとそういう奴らなんだろう。
 
 一般的な男子の尻穴だった俺の肛門が、今では立派なケツマンコと化している。
 霊や相手によりけりだが、メスアナやチンコケースと言って俺のことをバカにしてくる。
 メスアナでもオスアナでもなくケツはケツだ。
 俺の肛門は出口であってチンコを入れる入口じゃない。
 
 体の主導権が戻ってきてもすぐには逃げない。
 逃げようとしてボコられレイプが一番最悪なので、相手への嫌悪感や暴言はなるべく吐かないことを覚えた。
 
 人によっては、罵られるのが好きらしいので不平不満をぶちまけてチンコを蹴り飛ばしたら喜んで射精した奴もいる。
 俺を抱いている目の前のデブにはありがとうとお礼を言われたことがある。それはそれで気持ち悪さが止まらない。
 
 彼らに俺は体を売っているわけではないが、罪滅ぼしのようにお金をくれる。
 優しさではなく口止めだろう。子供だと思ってバカにしている。
 
 イチャ甘セックスをした自覚がある相手からは次を打診されるが、同じ相手とセックスするのは怖すぎる。
 
 俺は快楽至上主義者でも男の恋人を探して男とセックスしまくっている異常者じゃない。
 男同士の恋愛を否定したりはしないが、身体だけの付き合いを好む人とは価値観が合わない。
 セックスだけしたい人間は異常だと感じてしまう。
 俺がまだまだ子供だからかもしれない。
 体の相性が良かったからもう一度会おうと言ってくる相手は正直怖い。
 
 好きな人とだけセックスをしたいという当たり前の俺の感覚は俺の現状と反している。
 
「俺のかわいいチンコ奴隷ちゃん」
 
 イカレたことを言いながら俺の全身を舐める変態デブ野郎。
 俺の汗や精液だけではなく自分の吐き出した精液をすすっているのかと思うと気持ち悪くないのか疑問だ。
 変態セックスが好きな人間はそのあたりのタガが外れている。
 
「ねぇ、痩せたりしない?」
「ぷにぷにな腹肉が修玲くんは好きでしょ?」
「乗られるとちょっと重くって……」
「ちっちゃい修玲くんを圧死させちゃいそうになったこと、何度もあるね。ごめんね」
 
 俺を苦しめている自覚があった肉の塊を蹴り飛ばしたくなった。
 圧死させそうだと思っているなら肉を押し付けてくるなと殴りたい。
 
「騎乗位とか座ってだと修玲くんが楽かもしれないけど、俺が種づけプレスしたいからなぁ〜」
 
 デブのせいで俺の身体が壊されると困る。
 なぜか意識が戻るとこのデブと顔を合わせることが度々ある。
 俺の体を乗っ取る悪霊たちからヤリ友認定されているのか、マッチングアプリで俺と同じ奴としか会わないショタコンの変態なのか、気づけば普通にデートして野外セックスをキメていたりする。
 今日はホテルだが、デブの自宅で監禁されかかったこともある。
 
 デブが俺の体を気絶させることで、俺自身の意識が戻ってくるのかもしれない。
 絶頂の回数やセックスの時間が長いから俺の中の悪霊が消えてデブとのセックス中に意識を取り戻すのかもしれない。
 すべて、推測の域を出ない。
 
「痩せてみて、お肉が物足りなかったらまた太ってよ」
 
 お互いに射精感がおさまって、シャワーを浴びて帰ろうという前にこうして雑談をすることは少しある。
 デブのオッサンとはいえ、エロ漫画の竿役のような性格の悪いクズではない。
 セックス中は人権侵害的な用語が口にするが、あくまでもプレイの一環であり通常時は気を遣ってくれている。
 ちゃんと稼いでいるのか連れて来てくれるホテルは、安いラブホテルではない。

 ホテルのレストランの料理をルームサービスとして持ってきてもらえる。
 デブとの生ハメセックスで疲れた心が癒される。もちろん、セックスの代金として妥当とは思わない。
 こんなことしないで済むなら、そうしたい。
 
「修玲くんのちょっと高飛車なところ、チンコにクるよぉ」
「うるせー、変態」
 
 先程までおちんぽおちんぽはわわ〜みたいなことを言っていた俺が口にすることでもないが、デブは暴言に怒ったりしないデブである。罵られると元気になる系のデブなので、罵りすぎるのもよくないが素を出して問題が出ないのは楽だ。
 
 デブのお金でルームサービスを食べまくり、帰る。
 風呂場でおっぱじめようとするデブに付き合う義理はないので、お預けプレイという形で言い包めた。
 こういう適当なあしらいで済むから、デブは楽だ。
 
 
 
 帰り道、公園を横切ろうとしたら不良の集団の一人と目があった。
 このご時世、まだ不良が絶滅していないことに嫌気がさしたが穏便にやり過ごすしかない。
 俺は普通の中学生だ。霊の力で不良を倒すことはできない。
 
 俺と目があった不良は驚いた顔でこちらを指をさした。やめてくれと思っていたら、誰かを呼んだ。
 
 気づけば十数人の不良に取り囲まれていた。
 死を覚悟した俺だが、意外にも聞こえて来た第一声は恐喝ではなかった。
 取り囲まれてリンチを受けるのかと思ったが違うらしい。
 
「大丈夫か?」
 
 声を発した年上に見える相手が不良集団のリーダーなのだろう。
 青みがかった灰色の髪の色がクールで格好いい。
 ちなみに見ず知らずの彼から心配される理由が分からず、困り顔になる。
 彼は隣の少年に視線を向けた。
 目線ひとつで命令が出来る人間を俺は初めて見た。
 
「これってアンタでしょ」
 
 俺と同い年か年下に見える彼の口の利き方は気になったが、男に抱かれて喘いでいる自分の動画を見せられてそれどころじゃない。
 絶句する俺にリーダーは肩をすくめた。
 
「やっぱり撮影は同意じゃねえよな」
「撮影以外だって同意じゃない」
 
 思わず本音が出てしまった。
 彼に言っても仕方がないことだが、俺は一度も同意でのセックスなんかしていない。
 俺は好きな人とだけセックスをしたい。そういう人種だ。
 幽霊に勝手に体を使われたくない。
 不特定多数に抱かれる今の状況も、自分の体の変化も受け入れられない。
 
 泣きだしてうずくまる俺は自分の不幸を受け止めきれていなかった。
 
 男とのセックスという直視したくない事実が動画に残され、見ず知らずの他人に見られている。
 こんな不運を前向きに考えられる人は居るのだろうか。居たとしたらメンタルが強靭すぎて狂人だ。人間の枠に収まっていない。
 ホテルのルームサービスが美味しいと現実逃避している場合じゃない。動画は最悪すぎる。
 
「アンタさ、脅されてんの? 警察案件? 親とか周りとか気にしないで、未成年なんだからさっさと逃げといたほうがいいよ」
 
 心配してくれているんだろうが、俺の動画を再生した少年は何だか軽い。
 同い年かもしれないと感じたが、小学生疑惑がある。
 年下に正論を並べられると腹が立つ。これは、理屈じゃない。
 
「逃げられない、逃げようもない場合もある。……ただ、逃げたい意思があるなら手を貸せるかもしれない」
 
 リーダーは不良集団のトップに不釣り合いなほど静かな空気を持っていた。
 青みがかった灰色の髪という寒色だからか、声の質なのか、存在感なのか、ししおどしを連想する。
 つい、彼の言葉を耳を澄ませて聞いてしまう。
 出会ったばかりで相手の人間性など分からないのに信用してしまう。
 信用したくなってしまった。
 
「……悪霊に憑りつかれて、身体を勝手に使われてるんです」
「そうか、大変だったな。病院には行ったか?」
 
 普通に考えれば、悪霊とかバカみたいな話だ。
 病院に行けと言われても仕方ない。
 わかっていても悲しかった。
 けれど、心のどこかで俺は自分の絶望を否定していた。
 今の状況を頭がおかしいと言われたくなくて両親にも相談していない。
 とりあってくれるはずがないと予感があった。
 
 でも、なんだか違う。目の前の相手に打ち明けたのは間違いじゃないという確信がまだ消えていない。
 違和感は周りを見る。不良たちが俺を笑ったり、からかった様子がない。
 
 リーダーである彼が真剣な表情をしているので、誰も俺の発言をバカにしていない。静かにリーダーの言葉を聞いている。
 
「勝手に体を使われて不特定多数と性交渉が行われたんだ。説明に困ったとしても病院に行って検査をするのは必要な事だ」
「この動画とか、ナマでヤッてるよね? 本人に自覚ない性病もあるけど、最低な奴は性病うつしたくてセックスするよ」
 
 ゾッとした。
 今までそういったリスクを考えていなかった。
 状況に翻弄されて思考停止で逃げていた。どうすればいいのか分からない。
 気づけば体を勝手に使われていて、汚れた体を直視したくなくて考えないようにしていた。
 
「今のところ、相手を選んでるのかもしれないけど……動画が流れちゃうと変なのが絶対に寄ってくるからヤバイだろうなぁって話してたんだよねぇ〜」

 肩をすくめるような仕草はリーダーと似ているが、幼いせいか鼻につく。
 俺の動画が彼の手の中で未だに再生中だから苛立つのかもしれない。
 あんあんらめぇ、チンポしゅきしゅきと言っているのは悪霊であって俺じゃない。

「今、霊に憑りつかれてるなら、憑りつかれないようにするか、憑りつかれても大丈夫になるしかないな」
 
 簡単に言ってくれるが、どうすればいいのか想像もつかない。
 俺の気持ちが伝わったのか、リーダーは横をチラッと見る。
 軽くて幼く見える彼は、俺の動画を見せてきたり、こういうときにアイコンタクトをしていたりするので、意外と重要人物なのかもしれない。
 
「はいはい〜。これは俺の領分だね。悪いようにはしないよ。治るとは言わないけど、安心は与えられるはずだ」
 
 意味不明だと思ってったが、俺は不良集団の性欲処理係に任命された。
 
 リーダーである彼は輪姦もレイプもありえないと考えている人なので、このやり方は内緒だと言われた。
 その時点でアウトなことをやっていると訴えたい。
 頭がからっぽだと抗議してやりたい。
 リーダーはこんなことを勧める人じゃないのは分かっている。
 言いつければこのやりかたは終わるだろう。
 分かっていても俺は言い出せない。
 
 肉体関係を不特定多数にしないことが俺の健康のためだと言われた。
 納得してしまう。病院に行って検査される恥ずかしさをたびたび味わうのはごめんだ。
 不良集団といっても固定メンバーの相手をするので安全だという言い分はわかる。だが、性処理に利用されている事実は苛立ちが生まれる。俺に処理されてスッキリしてる奴らがムカつく。
 
 何人とセックスしたら、何時間セックスしたら、どういった状況で俺が自分の体を動かせるようになるのか数値化してもらっている。
 単純にヤッているだけではなくきちんとしたデータとして見せてくれる。彼らも彼らで俺の状況を把握するための手伝いをしてくれているのは嘘じゃない。それでも、悪霊に乗っ取られていないときにキスしようとしてくる変態がいるので面倒くさい。
 リーダーの視界に入っていると変なことをするバカは居ないので、常に彼の視線が欲しくなる。
 これは意外とポジションどりが大変だ。
 けれど、目が合うと体調や対策が上手くいっているかを聞いてくれる。
 仲間だか舎弟だかに日常的に犯されててうんざりしてるとは言えなくて、ついついデータ収集中だと濁してしまう。
 俺よりも年下だと知ることになっても、ししおどしのような雰囲気がある人だと変わらず感じている。
 バカの上に立っているが彼はバカではない。
 俺以外にも似たような霊に絡まれている人間をチームに入れている。
 無闇に手を広げているわけじゃない。俺たちを助けるために一か所に集めて、情報をまとめようとしてくれている。
 困っている人間を見つけるのは得意だが、対策は仲間に任せることが多い。
 それがトップということなんだろう。
 
 年下であると知ったこともあって、彼を無責任だと責める気持ちにはならない。
 彼ひとりに何もかもを救ってもらおうと頼るなんて、間違っている。
 
 
 だが、ある日、俺は気づいた。
 
 ジャンケンで負けた俺は両手に飲み物を抱えていた。
 足元が見えておらず、段差で転ぶというところで横から支えられて体勢を立て直した。
 不思議なことに射精した時と同じように体が軽く楽になった。
 俺を支えてくれたのはリーダーだ。
 
 一度として抱かれたことはないし、その予定はないと思った。
 俺のセックスプロジェクトは彼の知らないところで、彼には内緒で行われている。
 
 転びそうになったところを支えられた程度の触れ合いが数時間分のセックスと同じ可能性がある。
 そう気づいてしまった。
 
 一度、リーダーとセックスしたら俺の体質は改善するんじゃないのかと想像してしまう。
 彼とセックスをしたら俺の不運も終わるのではないだろうか。
 
 この俺の推測が不良同士の抗争を引き起こすことになるが、それはまた別の話。
 
 
 
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連載したら、動画を流出させた人間を不良たちが特定したり、報復したり、
色情霊に憑りつかれなくする方法が見つかるのかどうかとか書きたいですね。

ちなみに冒頭のデブは別の不良グループのリーダーとして、痩せて(美形)出てきます。

オッサンかと思ったら学生かよ!!みたいな。
(留年してるので結局、年齢差的に受けからはオッサンあつかい)


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(お返事として更新履歴で触れることがあります)

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2019/02/11
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