会長と平凡はタイトル通りプラトニックですが、作品としてエロシーンがあります。
そういう意味で主人公は不憫系平凡かもしれません。
僕は意気地なしで、世間知らずで、心がとても弱かった。
中学で同室となった相手は僕のことを友達だと呼んでくれた。
そのことが嬉しくて、言いなりになってしまった。
最初、僕に言いなりになっているつもりはなかった。
普通の距離感が分からなくて、相手のわがままを何でも叶えていた。
自分が少し我慢すれば誰も嫌な顔をしないで済むなら正しいのだと思い込んだ。
ちょっとだけ頑張る。
ちょっとだけ譲る。
ちょっとだけ、ちょっとだけのはずだったのに気づいたら何もかもを奪われてしまった気がする。
相手の言葉に逆らえなくなっていた。
おかしいと気づいても、すでに身動きが取れなくなっていた。
相手から「俺たち親友だよな」と言われると命令だと感じるような横柄な言い分にすら従ってしまう。
親友であるから相手の嫌な部分やダメな部分も受け入れなければいけないという強迫観念。
期待に応えられなかったときの冷たい視線に耐えられない。
失望されたくない、幻滅されたくない、ずっと仲良くしてほしい。そう思うと「親友」の機嫌をうかがってしまう。対等な友達づきあいが僕は出来なくなっていた。普通じゃない関係だと自覚しても、そうなってしまったのは、自分のせいだと僕は僕を責めていた。すべて、自分の弱さが招いたことだ。僕が悪い。
「はぁー、最悪。センパイに怒鳴りつけられた」
帰ってきてすぐに疲れた声を出す同室者。親友だと心の中で呼ぶことも難しくなっていた。
彼の帰宅が僕を緊張させる。眠気が吹き飛んだ気がする。そんな相手は友達なのだろうか。
彼のこの感じたまま言葉にする態度が以前は嬉しかった。
愚痴を言えるのは僕にだけだと甘えてくれる友達がいることが誇らしかった。
「イライラするから、ケツ貸せよ。風呂入ったなら解してあるよな」
制服を脱ぎ散らかしながら近づいてくる彼は、僕のことを本当に親友だと思ってくれているんだろうか。親友にこんなことをするのだろうか。疑ってしまう段階で僕は友達失格だ。こうなってしまうのも仕方がないのかもしれない。
引きずられるようにして二段ベッドの下という僕の場所に無理やり転がされる。
うつぶせでもあおむけでもどちらでも、それぞれ苦しいが、彼の顔を見ない方が楽かもしれないと寝返りを打ってうつぶせになる。
抵抗の意思に見えたのか、彼は僕の髪をつかんだ。
まずいと思った時にはベッドの柱部分に頭を打ち付けられていた。
血は流れていないけれど、頭がぐらぐらする。熱い気がする。こぶが出来ているんじゃないだろうか。
痛くて、怖くて、動かない僕に合意を見たのか、彼はズボンと下着を脱がしてきた。下半身が寒くて心細い。
もう嫌だと何度言っても「親友の頼みが聞けないのか」「親友が疲れてるのに慰めないのか」と責められる。
そのたびに僕は泣きたくなった。
最初にもっと拒絶の意思を見せるべきだった。
クラスの中でエッチが出来る出来ないという下世話な話をしたことがある。
普通な僕はボーダーラインにされた。僕以下の見た目はむずかしいけれど、僕自身ならギリギリOKということで話がまとまっていた。男子校の悪ノリだ。自分が本気で性的な相手として見られているとは思っていない。僕は笑って「なにそれ」と言いながら、完全に対象外と言われていた生徒に対して優越感を抱いていた。
彼にそれがバレてしまった。どこか喜んでいたことを見透かされた。男に犯されたいのかと寮の部屋に戻ってから聞かれた。恋愛経験は男女ともにないので、ゲイではないと主張しながら、僕は自信なさそうな顔をしていたかもしれない。自分のことがよくわからなかった。彼が僕に釈明を求めてくる意味も。
彼は男が好きじゃないことを証明するために自分に抱かれればいいと提案してきた。
おかしいと思う気持ちはあった。けれど、そのときにはもう見えない上下関係ができていた。彼の提案を断ると不機嫌な顔をさせてしまう。迷う僕に自分の勃起した性器を触らせながら「これをどう責任とるんだよ」となじってきた。状況的に僕は悪くなくても「お前のせいだ」と言われてしまうと弱かった。そんなことないと言って欲しい。仲良くして欲しい。怒鳴ったりしないで笑って欲しい。なんとかその場を穏便に済ませたかった僕はされるがままに流された。
中高一貫で寮は中学から高校まで同じ部屋を使うのが決まりだ。
同室者と上手く折り合いをつけられなければ、中高の六年間が気まずい日々になる。
部屋の中で息が詰まりそうな気持ちになるのはごめんだった。
僕は彼に機嫌を直してもらいたくて「手でやるから」「口でするから」と妥協案でお伺いを立てた。最初の頃はそれでなんとかなったのだが、要求はエスカレートして、僕はなし崩しに彼に抱かれてしまった。
今では毎日のようにお尻を使われている。自分がバカだったのだと追い詰められてからわかる。遅すぎた。性的なことは一切しないと最初に断らないといけなかった。いいや、性的なことだけじゃない。彼のわがままだと感じる言動に流されずに最初から拒絶していれば良かった。モヤモヤしたことを言いだせなかった、僕は意気地なしだ。そのせいで、自分が傷ついている。
コレが出来るなら、アレも出来るだろうと彼の欲望はレベルアップしていった。今では僕の同意などなく犯してくる。僕を犯すことは彼にとっての日常でしかない。最初の頃の「悪いんだけど」という頼み文句もしばらく聞いていない。まるで物としてあつかわれているような彼の態度に僕は心のどこかがすり減っていくのを感じる。
お尻の穴が腫れあがって痛みを発する気がした。もう、休ませてやりたい。お尻は入口じゃない出口だ。お尻の穴はおちんちんを入れる穴じゃない。それなのに僕は彼から逃げられない。同室者というのは毎日絶対に顔を合わせる相手だ。
円満な関係を築くべき相手。
仲良くするべき相手。
一緒に生活している相手。
寮は二人部屋か四人部屋で、二段ベッドが部屋の中に置かれている。
勉強机も部屋を利用する人数分あるけれど、お尻が気になって最近、椅子に座るのを避けている。
僕は彼から逃げられない。距離を置いて疎遠になろうとも思ったけれど、彼にその気はなかった。
同じ部屋で寝起きしているのだから、近寄られたら逃げ場がない。
部活から彼が帰って来る前にお風呂に入ってベッドで寝ていても「寝ているなら勝手に突っ込むからな」と解すことなく挿入されて痛みに泣いた。こんなことになるなら自分で準備をしておいた方がマシだ。本末転倒かもしれないが、そう思ってしまう。
痛くて苦しくて気持ちがいいなどと感じない、ただただ苦痛な時間。彼が満足するまで僕は寝ることも出来ず揺さぶられる。運動部で僕よりも体格がいい彼を突き飛ばして逃げることはできない。仮にやったら「俺たち友達じゃないのかよ」と激しく責められるだろう。悪いのは彼だと思っても、言われたらきっと心が痛い。
誰かに助けを求めるのは友達を裏切る最低の行為だと事あるごとに言われて、八方ふさがりだ。
部屋の中では乱暴に抱いてくる彼だけれど、他人の目があるところでは異様なほど優しい。
友達思いとして周りには見えているはずだ。
この状況を誰かに打ち明けても彼がそんなことするはずないと周りは彼を庇って僕を責めるかもしれない。
それに部屋の中でのことを我慢すれば、僕が願った通りの仲がいい親友同士の姿が外にはある。今、僕のお尻に酷いことをしている相手は偽者で本物は違うと思いたい。これは悪夢だ。嘘だ。
ベッドの柱にぶつけられた頭が痛む。それ以上に悲しくて虚しい。
少し前「僕たち友達だろ。酷いことしないでよ」と勇気を出して頼んだ。するとネクタイで手を縛られてプラスチックの五十センチ定規で叩かれた。アルミ製と鉄製の定規もあると言われて、プラスチックよりも痛い気がして、泣きながら謝った。よくわからないけれど、彼を怒らせてしまったのは僕だ。言葉は外に出ることを恐れて、気づけば飲みこんでしまう。
お尻や性器や背中が叩かれ続けて痛くて熱かった。彼を友達だと思えなくなっていく。
そんなことを思うのは友達に対して失礼だ。そう思うのに苦しさから逃げられない。
「皆川《みながわ》のケツ、最高だよな」
後ろから頭をおさえつけられて、体重をかけられる。息苦しい。僕が苦しいと体のナカの動きがおもしろいようで、彼はわざと意地悪をする。
「俺のチンポどんだけ好きなんだよ、このスケベっ」
はあはあと荒い息を吐き出しながら腰を動かす彼はそろそろ果てるだろう。そうしたら、今日はもう終わりだ。悪夢は終わり。彼がシャワーを浴びた後、こっそりと僕もお風呂に入り直さないといけない。部屋ごとにユニットバスがある寮でよかった。お尻から精液が流れるところを誰かに見られたら立ち直れない。変態だと噂されたら彼との関係は終わるかもしれないが、僕の学園での立場も終わる。
「物足りなさそうにケツが動いてるぞ、淫乱」
終わったと思ったのに抜いたところにもう一度挿入される。一度、僕の中で射精して、ずるりと抜ける感触があった。再挿入するタイミングじゃないはずだ。早くちゃんと終わって欲しい。
「今日は溜まってるから、あと二、三回は付き合えよ」
「……ひぃっ、んっ、うっ、むりだよぅ」
「俺のチンポで気持ちよさそうにしてんじゃん。すこしは親友にも良い思いをさせろよ」
僕の体を横向きに変えて、僕の片足を担ぐようにした。腰の動きを浅く早いものになる。
後ろから性器全体を挿入するような最初の責めかたとは全く違う。
体がぶるぶる震えて怖い。
「……あっ、アん、は、はっ、あ、ひあっ、んんっ」
ぬちゃぬちゃと聞こえるエッチな音と自分のリズミカルに吐き出される息。
気持ちよくなんかない。痛い怖いと思っていた考えが塗りつぶされていく。
頭の中が白くもやがかかっていく。口が閉じられない。
「こうされんの、気持ちいいんだろ。エッチ大好きなスケベ穴なんだから、嫌がってるふりしねえで、喜べよ。なあ?」
「あ、あり、がとう」
不機嫌そうな彼の声に心拍数が上がる。
耳鳴りがするが、聞き漏らせばどうなるのか考えたくない。
僕は意気地なしで、体を縮こまらせて痛みをやり過ごすことしか学んでいない。
「チンポ大好きだよな」
「……ん、うんっ、すき。えっち、うれしい」
「手間かけさせるなよ。俺が帰ってきたら、いつでもハメられるようにケツ出してろ。な?」
「ご、めん、なさい」
「ちゃんと、素直にエッチもチンポも好きだって言えよ」
「はっ、ずかしくてぇ、はぁう、ごめん、なさっ、ひぅ」
「素直なのがお前のいいとこだよな」
一度「喜んでなんかない」と反論したら首を絞められたことがある。
怖くなってそれからは嬉しいと答えるようになってしまった。そのせいで彼を勘違いさせて調子に乗らせているのかもしれない。僕はいつだって気づくのが遅い。本当は嫌だと、怖くて気持ちが悪いんだと、言いたいけれど恐ろしくて動けない。
いつも以上に激しく抱かれたせいで朝に目覚めても動けなかった。
お尻の穴も足の筋も違和感しかなくて、普通に歩くことが難しい。
教室に辿り着く前に時計は授業の始まりを教えてくれていた。
この学校はチャイムが鳴らない。
各自が時計を見て授業の準備をする。
予鈴が鳴ったから教室に入るのではなく、時計を見て自分で判断していかなければいけない。
部屋を出るのがいつもより遅かったので遅刻しそうだとは思っていた。
けれど、歩くのが遅くて本当に遅刻するとなると情けなさに泣きたくなる。
中庭を見る用のベンチに腰かけて息を吐き出す。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
部活でストレスが溜まっていて僕しかぶつける相手がいないからとか、友達だから甘えてくれているんだとか、いろいろと思う気持ちは僕を息苦しくさせていく。嫌なものを嫌だと言えない。弱い否定は逆に相手を煽ることになっている。
以前、本当に嫌だと真剣に訴えたことがある。それでも、最後の一回とか、これで終わりだと言われて、仕方なく受け入れれば、やっぱりセックスが好きなんじゃないかと笑われる。嫌がっていることすら、演技なんだろうと言われて取り合ってもらえなくなる。僕の言葉を彼は信頼してくれない。
僕が全部悪いんじゃないのかと、そんな気持ちが膨らんでベンチから立ち上がれなくなった。
スマホには誰からの連絡もない。
友達なら心配してくれるんじゃないかと、どこかで思っていたので苦しくなる。
あんなあつかいを受けて、一緒に居たくないと思って、それなのに友達に見捨てられたような心細さに泣きたくなっている。
自分を助けてくれる都合のいい誰かを想像している僕は気持ち悪い。弱すぎる。
「サボりか?」
声をかけてくれた相手は生徒会のしるしを持っていた。
学校指定の制服はあるが、基本的に緩い。
学年毎に色が違う校章を必ずどこかに着けるというルールしかない。
校章のとなりに生徒会のしるしがある。
生徒会のしるしは七色だと聞いた覚えがる。
二つの色からすると一つ年上の生徒会長だ。
怒られると感じたら舌が回らない。
授業だからこのままでいいわけがないのに立ち上がることが難しい。
教室に行くことを体が怖がっている。
担任に最近上の空だと注意されている。
きちんと眠れていないからだ。
会長は何も言わずに僕の隣に座っていた。
一つ年上なだけなのに大人の空気がある。
僕のような弱音を持っていない人に見える。
「オレは飼育員じゃないんだが、うさぎ小屋を見るのが好きでさ」
急に語り出す会長に僕は何とか頷き返す。
「……今日、小屋からうさぎが消えたんだ」
うさぎ小屋の鍵をかけておらずうさぎが失踪したのだろうか。
それとも、寿命で亡くなってしまったのか。
「あぁ、心配するな。うさぎ泥棒を疑って声をかけたとかじゃない」
「……あう」
「要らないことを言ったな。考えてもなかったか」
ばつが悪そうに息を吐き出す会長。
僕の居心地の悪さが加速する。
「うさぎはさ、小学校に移動になったんだ」
「よかった」
「あ?」
「酷いことになったわけじゃなくて、よかった、です」
もし、うさぎが小屋の外に出てしまったら危ない。
飼われている動物は野生の動物に敵わない。
カラスにいじめられるかもしれない。
「……あー、そっか。うさぎが消えたって言ったら、普通そっか。そういうもんか」
気が抜けたように会長は身体から力を抜いた。
どうしたのか分からずに見つめていると微笑みを返された。
「オレは自分がうさぎに会えないことばっかり不満だったんだ。でも、小学校に移動になった背景は飼育員の不足だ」
「飼育委員はクラスに二人いるんじゃないですか」
「飼育は当番制なんだけどな。サボるんだよ。それで、担当の先生ばっかりがフォローして疲れてる。先生は他の業務もあるから、生徒が飼育しないなら小学校の方に譲ろうってことになった」
「ちっちゃいこは動物好きですからね」
僕の意見に「そこで笑えるのか。……それがたぶん優しくて偉いんだろうな」と溜め息を吐いた。
変なことを言ったのだろうか。
ちっちゃいこは、優しくて偉いという意味にしては何だか噛み合わない。
「ちゃんと喜んでくれる人がいる場所のほうが、うさぎさんは嬉しい気がして……」
最後のほうは聞こえないぐらいに声は小さくなっていた。
自分の意見に自信がない。
間違ったことを言っても怒ったりしない人だと勝手に判断して、いろいろと言いすぎたかもしれない。
「いや、それが正しいんだろうな。オレはさっきも言った通り、自分がうさぎに会えないことが不満だった。飼育委員になったくせにうさぎの飼育をサボる奴らに怒りがあった」
それは普通のことだと思う。
僕はうさぎ小屋に行くことはないけれど、うさぎを見て触れあうことが楽しいのは分かる。
それが心の支えになっている人は、会長以外も今回のことはショックだろう。
僕は遠い場所からうさぎ目線に立ったような綺麗事を言っているだけだ。
「言葉が分からなくても伝わるものがあるからな。愛されて、大事にされてるか、好かれていないかって、うさぎにだって分かるよな」
愛されて大事にされる場所に行くほうがいいに決まっているとさびしそうに口にする会長を見て僕は泣いてしまった。
うさぎを好きだったのだろう会長の損失感は僕にはわからない。
「うさぎが嫌われて居なくなったわけじゃないって、会長のおかげで言えますよね。それは良いことだなって、感じてます」
「……そうなのか? 嫌ってなくても、怠惰なクズどもが居たわけだが」
「小学校に会いに行ったりしますか?」
会長が愛したうさぎを見て見たくなった。
小学校でのあつかわれかたも気になる。
目をこする僕の提案に驚く会長。
「会いたければ、会いに行けばいい。そうだな。当たり前なのに思いつきもしなかった」
「会長が来たら喜ぶんじゃないですか?」
「子供は社交辞令が出来るからな。憧れてますは大体嘘だ」
「こども? うさぎの??」
話が噛みあっていない気配がした。
会長は少し考える動作をして、むせた。
「大丈夫ですか」
「……うさぎか。ああ、うさぎなぁ。オレのことを覚えてるかな」
「自分のことを好きな相手を動物は覚えてますよ」
気持ちが晴れやかなものになった僕は会長と一緒に小学校へうさぎを見に行く約束をした。
出会ってすぐの相手と会話が弾んだことが嬉しくて、つい口を滑らせた。
最初に会長に聞かれた「サボりか?」という質問の答え。
寝不足で体調不良だと真実ではない事実を言い出すと止まらなかった。
気づけば自分の不満を全部、口にしていたのだ。
あきらかに失言だ。
毎日同室者とエッチなことをしていて体がつらいだなんて、中学生が言うことじゃない。
聞かされた会長は呆れたり困ると思ったが、そんなことはなかった。
会長は僕をおかしな人間あつかいをしなければ、嫌な話題だと打ち切ったりもしなかった。
寮の部屋に案内するように言われて、よくわからないが会長を連れていく。
会長が寮の管理人から貰っていたダンボールに僕の私物を詰めるように言うので、よくわからないが従った。
どうしてか、指示されるとそれ通りに動いてしまう。
会長の機嫌をうかがっているからではない。
疑問を挟む余地がないほど【正しいこと】をしている気がしたからだ。
うすうす何が起きているのか、理解しているのかもしれない。
「しばらく、オレの部屋で自宅学習をしてもらう」
「え……会長の部屋?」
「不安があるなら同学年の風紀……いや、生徒会役員の部屋に」
「いえ、どちらにしても、ご迷惑をかけてしまうのではないですか?」
「オレがしたいからすることだ」
部屋を移りたいという願望はずっとあった。
でも、先程知り合ったばかりの会長の部屋に行くというのは申し訳ないし、自宅学習とはどういうことだろう。
僕の戸惑いを気にせずに会長はダンボールを持ち上げた。
部屋を移動するという話が提案ではなく決定なのだとじわじわと理解する。
喜びと不安と虚しさとが、心の中で入り混じる。
ダンボールの中に入っていない学校の鞄や手提げを持って、会長について行く。
ふと、小学校に移動されたうさぎのことを思い出す。
うさぎがつらい思いをしなくなることを喜んでいた僕は、実のところ自分自身を勝手に重ねていたのかもしれない。
新しい場所で新しい人たちに囲まれて幸せになれると思い込んでいる。
僕の勝手な願望を乗せているとしても、今より悪い状況はないとどこかで感じていた。
それから僕は会長の部屋でまる二日ほど眠り続けた。
安心して眠ることがずっと出来ていなかった。
三日目の朝に学校に行くという話を会長にすると寝ていた間の課題を片付けてからだと言われた。
当然なのでその日は三日間分の課題と予習をすることにした。
学校に行くと不思議と声をかけてくる人が変わった。
今までは同室者の部活関係や同室者の友達が気にかけてくれていたけれど、彼らは余所余所しく僕を遠目で見るだけだ。
声をかけてこないのは同室者だった彼が何かを言ったのかもしれない。
僕に声をかけてくれるようになったのは生徒会役員やその周りの人たちだ。
自分から声をかけにくい人だと勝手に思っていた彼らはとても話しやすい。
会長から僕が孤立しないようにという指示があるのかと思ったけれど、そうでもないようだった。
休んでいた間のノートを貸してくれて、それがきっかけで会話が増えた。
同室者であった彼は別のクラスだが、僕のクラスに友達がいるので顔を合わせると思っていた。
だが、意外なことに彼が僕のクラスに来るのではなく、彼の友達が彼のクラスに会いに行っていた。
不思議なことに一切、顔を合わさない。
急な部屋の移動について嫌味の一つも言われるかと思ったのに顔を合わさないので何もない。
休んでも心配の連絡も来ないので、彼が言っていた「親友」というのは口ばかりだったのかもしれない。
僕は会長が高校生になってもそのまま一緒の部屋で生活している。
普通の部屋のように二段ベッドはない。
大きめなサイズの寝心地の良い低反発なベッドで寝ている。
最初は会長が寮の管理人から借りたという布団を床に敷いていた。
けれど、話し合いの結果、一緒に寝ることになった。
二人の関係が変わるイベントかと思いきや何もない。
本当に一緒に寝ているだけだ。
会長が僕にだけ特別親切だという自覚はあるので、お互いに好意を持っている。
そのはずなのに一緒のベッドで寝ているだけ。
昔の僕なら好きな人と一緒に寝るだけでドキドキしたと思う。
今はその先の行為を知ってしまっているだけにやきもきする。
好かれているのは過大評価なのだろうかと悩んだ僕は高校に進学する際に会長に告白した。
会長は受け入れてくれて僕たちは交際をスタートしたが、何も変わらない。
小学校に行く頻度が下がって、僕と二人だけのお出かけの時間が増えた。
変化はそのぐらいだ。
小学校に移動したことでうさぎは元気がよくなったらしい。
子供たちの元気の良さに引っ張られているのかもしれないと会長は笑っていた。
中学にいたころのうさぎを知らないので僕は会長が嬉しそうでよかったとうさぎとは関係ない部分で嬉しくなる。
心に引っかかっていた同室者であった彼のことだが、部活で大活躍らしい。
僕はストレスを受け止めてあげていたつもりで、彼のためにならないことをしていた。
友達としての距離を間違えて彼の足を引っ張っていた。
僕と離れて実力を発揮することが出来た彼とは、やっぱり不思議と校内で顔を合わせることはない。
そう、だから僕の悩みは同室者だった彼のことではなく両思いである会長との今後だ。
付き合って半年が経つが僕たちは何も変わらない。
このまま何も変わらないままで会長は卒業してしまうかもしれない。
大学に行ったら連絡が取れなくなる先輩はいると聞くので不安を感じる。
部屋の中でこっそりと近づいたり、布団の中で手を握ったりしているが、会長の変化はない。
僕になんの魅力もないということだろうか。
それとも、好きの種類が違うのか。
今日も僕は首をかしげながら眠りにつく。
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タイトルに対して「そりゃあそうだろうね」と感じてもらえたら何よりです。
受け視点だけだと何があったのかぼんやりしている感じですね。
連載で添い寝から先に進ませてあげたい気もするし、延々プラトニックでもいい気がします。
会長は変態ではないので睡姦展開にはなりません。
(逆に受けからというのはありかもしれない?)
◆感想、誤字脱字指摘、続編希望↓からお気軽にどうぞ。
タイトル(一部や略称)と一緒にお願いします。
(お返事として
更新履歴で触れることがあります)
短編SS用
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感想や希望は作品名といっしょにお願いします。
2019/01/31