・問題は実はどこにもないのかもしれない?

問題は実はどこにもないのかもしれない社会人×大学生


 
-------------------------------------------


 大学生の俺には三か月前から社会人の恋人ができた。
 
 友達に誘われたサークルの集まりにいた田山おさむさん。
 強面な見た目に反してものすごく優しくて良い人だ。
 
 大学生にして童貞処女で彼女も彼氏もいない俺は、男女誰でもいいから付き合いたいと人との交際に前向きだった。
 いくつかのサークルに所属して恋人が欲しいと発言する俺は何かの弾みで社会人サークルの飲み会に参加する。
 そんな中で気づいたらおさむさんと出会っていた。
 
 飲み会を渡り歩いても恋人になりたい人と巡り会えず体だけでも大人になるために風俗に行こうと決めた俺。
 百戦錬磨の雰囲気があるおさむさんに風俗店のオススメを聞きに行った。最初は失敗したくないという若者的発想だ。すると話の流れで押し倒されて、脱処女を果たした。アナル処女をおさむさんに捧げたのだ。童貞のままではあるが、年上の恋人ができたので結果としてよかった。
 
 おさまるところにおさまったと俺は満足していた。
 付き合う上で男女を気にしないことをおさむさんには不思議がられたが、俺のまわりは男同士も女同士も関係なく恋人関係が成立している。性別よりも大切なのは相性だ。おさむさんはとても気が利くし、優しいので俺は最高の恋人が出来たことを心から喜んでいた。
 
 ただ、マンションの一室に軟禁状態になっている今は自分の選択が正しかったのか首をかしげる。
 
 俺はずっと気になっていたことがあった。
 それをおさむさんに言わずじまいでここまで来てしまった。
 悪いことをしているのかもしれないという後悔が俺の中にある。
 
 俺の今の状況は軟禁状態だが、そこに不満は特にない。
 
 大学が休みなので長期のバイトを入れようかどうしようかと悩んでいたところにおさむさんから自分の家で働いてくれと持ちかけられた。何だか悪いと思いながらも俺は断ることなく受け入れた。恋人といられる時間は長いほうが嬉しい。
 だが、一か月で百万円という金額は家政婦をしているだけで得られるものなんだろうか。
 前金として現金でもらった百万円は法外だ。
 俺は詐欺師か何かなんじゃないだろうか。
 
 そもそもの話をするとおさむさんは優しすぎる。
 
 貧乏学生だった俺に最初から優しくしてくれていた。
 飲み会代を奢ってくれたり、タクシー代をくれたり、ご飯代をくれたりと大盤振る舞い。
 俺の脱処女祝いもとい交際記念として高級っぽい料理の数々がデリバリーで届けられた。
 狭くて物がない部屋に似つかわしくない料理はとても美味しかった。
 翌日のお昼代として千円を置いて帰っていく男前なおさむさん。
 
 空腹を満たされた上に恋人が出来て嬉しいという気持ちしかない俺はお金を置いていくおさむさんに疑問を抱かなかった。
 
 次に抱かれたときは時間がなくて一緒にご飯が食べられないからと一万円をくれた。
 好きなものを食べるようにと口にするおさむさんは格好いいと思ってお金は有り難くいただいた。
 
 その次もその次もその次も、抱かれた後にお金を渡される。
 外で会えば食事に連れて行ってもらっている。
 貧乏学生な俺としてはものすごく助かることだが、脳裏にうっすらと「人としていいのか?」という疑問は浮かぶ。
 
 苦学生なので金銭的な援助はものすごく助かる。
 美味しいご飯が食べれて幸せだ。
 気づけば毎日の食費はゼロ円。掛け持ちしていたバイトは拘束時間が短い家庭教師のものひとつになっていた。
 バイトの数を減らしてもおさむさんにご飯を奢ってもらったり、会うたびにもらっているお金で生活できてしまった。
 
 貢がれているという感覚が俺にはなかった。
 
 男同士ということと俺自身が見目麗しい美形というわけじゃないせいで、金銭的に余裕がある社会人からの優しさとして受け取ってしまった。おさむさんは当たり前のようにご飯代とか洋服代としてお金をくれる。べつに俺に媚びへつらってご機嫌をうかがっているわけじゃない。お金を渡しているから好きに抱かせろという考えの人じゃない。だから、俺は二人の関係がおかしいのだと思えずにいた。
 
 ある日、久しぶりの飲み会の席で女に散々貢いだとか割り勘する男が嫌いだとかお金の話題で盛り上がった。
 俺は話題に参加せずに聞き手に回っていたのだが、どうやら社会人と付き合っていても俺のような状況になるのは稀らしいとここで気づく。
 それとなく俺の状況をぼかして友達の話として意見を求めると大多数が「やばい」を連呼。
 
 変態男に変態プレイを強要されて稼いでいるとか、搾り取れるだけ搾り取ろうとしているクズだと言われた。
 俺は援助交際をしているつもりはなかったが、バイトを減らしてしまえるほどにおさむさんに援助をしてもらっているのは事実なのでクズなのかもしれない。
 
 風邪で寝込んでバイトに入れなくて手元に入ってくる給料が少なくなってお昼ご飯が食べられないなんてことがあったときにおさむさんが奢ってくれたり、お金をくれてものすごく助かったのだ。付き合う前から全面的にお世話になっていたからこそ異常な状況にいるのだと気づくのが遅れた。
 
 俺はおさむさんからお金をもらいたかったわけじゃない。目つきが鋭く声が低く厚みがあるので勘違いされやすいオーラをまとっているが、心は優しいと知っていたので身を任せた。女の子と付き合いたいと思ったこともあるが、おさむさんのたくましい胸板は嫌いじゃない。外で俺と手を繋ぎたくても人目が気になってためらったりするところは年上ながらにかわいい。おさむさんには良いところしかない。
 
 だからこそ、迷惑をかけてるならよくないと俺は金銭的な自立を決意した。
 大学の休みに長期的なバイトを入れてガッツリ稼ぐつもりだ。
 知らずにおさむさんに負担をかけていたことを謝るのと同時にちょっとずつでも貰ったお金を返していこうと決めた。
 
 
「なんで、こうなるんだろうな」
 
 
 スペアリブを焼きながら軟禁状態の自分のことを振り返る。
 家政婦として雇ってもらえるのは自分の家事技能を買ってもらっているということで実は嬉しい。
 おはようからおやすみまでおさむさんと顔を合わせていられるのも結構嬉しい。
 
 だが、しかし。
 報酬としていただける百万円は一カ月の給料としておかしい気がしてならない。
 俺を拘束する金額として高すぎる。
 間に仲介となる企業がいないとはいえ一か月程度の家事で百万円はどう頑張っても無理がある。
 
 初日は俺は雇ってよかったと思ってもらえるように普通はしないような事細かな掃除をした。自分が気づける範囲でトイレ掃除や風呂のカビとりをやってみた。業者じゃないので出来る範囲で努力した。おさむさんはすぐに気付いて俺を全力で褒めてくれたが、百万円に見合っているとは思えない。
 
 スペアリブを焼きつつ、パンの発酵を待つ。
 
 おさむさんが帰ってきたら焼き立てのパンの香りで出迎えたいのにパンの生地の具合が悪い。部屋が少し寒いのか、発酵が遅い。
 
 どうしようかと思っていたらおさむさんが帰ってきた。
 俺はもう我慢が出来なくなって玄関先で土下座した。
 早く言わなければならないことを俺はずっと後回しにしてきた。
 何よりも早く伝えなければいけないことをずっと怠っていた。
 
 エプロンを脱いで畳んだ俺を見下ろすおさむさん。
 
「俺、おさむさんがヤクザじゃないって知ってるんです!」
「うん? うん……?」
 
 俺にバレていることは想定内だったのかおさむさんの反応は鈍い。
 動揺を悟られないようにしているのかもしれない。
 
「だから、その……。お金をそんなにばら撒かないでください」
「ばら撒いてるつもりはないんだが……。そう見えたなら恥ずかしいな」
 
 照れたようにはにかむおさむさんは体育会系の部活の主将に見える。
 責任感のかたまり。朴訥としていて純朴な人柄を感じる。目つきが悪くても優しさがあふれ出ている。とても魅力的だ。
 パンを焼いていない俺とは大違いだ。
 
「俺は社会人で君は学生だから」
「そうはいってもさすがに申し訳ないです」
「前も言ったけど、バイトする時間を俺と過ごす時間に当ててほしいんだ。生活費は気にしないでいい」
「気にします! だっておさむさん、顔つきは強面でたいていの初対面の人にビビられるけどヤクザじゃないですよね」
「……もしかして、ヤクザじゃない社会人は収入が低いって思ってる?」
「ヤクザじゃないのに強面な社会人は収入の面で厳しいんじゃないのかと……、失礼ながら」
「いやいや、それはないよ。だいじょうぶだよ。営業職じゃないから顔は関係なく仕事してる」
 
 これ以上、口にするのはおさむさんの稼ぎを疑うことになってしまうが、俺はパンを焼いていない人間だ。
 
「俺の働きは給料に見合っていないし、今までお昼代としてもらってたお金も多すぎなんです。ブランド物をそろえられる洋服代を貰っておいて安い服を買って残りを貯金したりして、よく考えると最低だなって……」
「こっちが一万円渡したからって一万円の服を買わないといけないわけじゃないよ。いつもレシートと一緒に何を買ったのか写真を送ってくれるじゃないか。ご飯も何を食べたのか写真をくれてるから、お金の使い方は把握してるよ」
 
 俺が全額使いこんでいないと分かっていてもなお毎回のようにお金をくれていたらしい太っ腹なおさむさん。惚れ直しすぎた。
 
「百万円が多いと思ってるみたいだけど時給としては千五百円も払ってないから俺の方が申し訳ない」
 
 時給として千五百円も出していないと言われると百万円がすごいという感覚が消える。
 正座から立ち上がり、エプロンをつけ直す。
 
「パンは明日の朝食にします。ご飯は炊けてるんですよ!」
「だいじょうぶだよ。ありがとう」
 
 俺の中でパンが焼いてあるかどうかは仕事が出来ているか、出来ていないかの分かれ目だ。
 自分の満足いくレベルの仕事が出来ていないのにお金をもらうのは精神的に苦痛だが、雇用主であるおさむさんが仕事が出来ていると思ってくれるのなら問題ない。
 
「エッチなことも給料に入れちゃうなら渡す金額が少なすぎるぐらい」
「エッチなことでお金をもらうのは法律違反じゃないんですか。売春ですよね」
「風俗で本番しようと思っていたのは誰?」
 
 呆れた顔をされて俺は笑ってごまかす。
 
 性風俗でいわゆる本番と呼ばれる挿入OKというサービスは存在しない。
 ソープランドなどでは女の子と客が恋愛関係になって店の中でエッチしているという建前で挿入しているらしい。
 つまり、本番行為をおこなうことは法律違反になるのだ。
 グレイゾーンな言い訳は警察がやってきたら通用しない。売春はいけない。それが日本の法律だ。
 
 俺はおさむさんから聞くまで風俗で童貞を捨てるのが一般的だと思っていたが、それは昔の話だという。お金を払って万が一、警察のガサ入れと重なってしまったら最悪だ。真面目に働いて得たお金をドブに捨てたくなかったが、童貞か処女を捨てたかった俺はおさむさんに身を任せた。
 
 結果として本当に最高に相性がいい恋人を手に入れたのだが、俺自身がそこまでの男ではないという悲しい事実がある。
 
「今日はチキンのトマト煮とスペアリブがあります」
「あぁ、絶対に美味しいね。匂いで分かる」
「サラダはおさむさんが苦手な葉っぱ系は入ってません」
「ありがとう。ホント、はずかしいけど野菜が苦手なんだ」
「肉にかじりついてる姿がワイルドでカッコイイです。すごい口元がセクシーだし」
「そういう考えからの献立のチョイス? 知ってたけど、エロいな」
 
 恋人である俺に裸エプロンを求めるおさむさんのほうがよっぽどエロいと思いながら彼のネクタイを引っ張ってキスをした。
 朝にそったおさむさんのヒゲがもう目立ち始めているのを自分の皮膚で感じる。
 男性ホルモンが多そうなおさむさんはヒゲが伸びるのも早い。
 
 エッチな恋人との濃厚な交わりはお金を払ってでもしたいので、おさむさんが金欠になったら今までのお金の分だけ俺が奢っていこうと思う。
 お金の切れ目が縁の切れ目というけれど、俺はお金がなくてもおさむさんと別れる気はない。たぶん。きっと。好きだから。
 
 
-------------------------------------------


作中の時給の話は三十一日間、二十四時間計算での時給換算です。
ありえないことを分かった上での会話なのでバカップルのじゃれあい。

軟禁状態で家事とラブラブエッチで一か月で百万円は高いのか安いのかは人それぞれの価値観で(笑)
恋人だからご飯作ってとか、恋人だから家にいてって言わないおさむさんが好きな受けは無自覚守銭奴。
エッチするたびにお金がもらえる状況っておかしくない?軟禁ってやばくない?と思いつつも結論は問題ないかなってあたりが……。

続編あったらエロメインです。

◆感想、誤字脱字指摘、続編希望↓からお気軽にどうぞ。
タイトル(一部や略称)と一緒にお願いします。
(お返事として更新履歴で触れることがあります)

短編SS用ご意見箱
感想や希望は作品名といっしょにお願いします。

 
2018/01/01
prev/next
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -