ひめごと(秘め事) (五条)






 私には、決して口外してはならない秘密ごとがある。それは、裏切り者の夏油傑と密会し、よもや姦通していることだ。私と傑は恋人同士だったが、まさか傑が高専から出ていくことになるなんて、その予兆すら気づけなかった自分が悔しい。私だって傑の裏切りは許せない、けれど、傑のことを愛しく思う気持ちだけは私だけのものだ。一度愛してしまったら、もう取り返しなんてつかない。
 突然私の前に現れた傑は私のことを乱暴に抱いて、また姿を消してしまった。一緒に地獄に堕ちようと言ってくれたのに、結局彼はいつものように私を置き去りにする。





「...なまえ」
「、っ」
「何してんの、お前」




 傑との情事後、路地裏で低い声が落ちてきた。びくりと肩を跳ね上げ、その声の主を視界に入れた途端、背筋が凍る気がした。悟はいつから居たんだろう。きっと呪力の残穢から、傑がさっきまでここに居たことに気付いているだろう。むしろ、私と傑の情事を最初から観察していたのかもしれない。私の制服は盛大にはだけ、私と傑がいったい何をしていたかなんて簡単だ。




「もう一回聞く。なにしてんだよ、お前」
「...聞かなくても、分かってるんじゃないの?」





 悟は私の両腕を縫い付けるかのように拘束して、何も言葉を発することなく、何一つ表情を変えることなく、私の秘部に指を差し入れた。どんなに抵抗しようともがいても、悟に力では勝てない。




「っ、あ、やめ」





 悟の骨張った長い指が私の中を掻き回せば、どろりと白濁した液が太腿を伝った。悟はようやく手を止めて、その液体が纏わり付いた指を私に見せつける。





「これ、なぁんだ」





 そして汚いものを見るかのように指先を睨んだ後、私の乱れた制服を正しながら、その指を私の頬、首、制服で丁寧に拭く。「好き勝手やりやがって」と言葉を吐いた悟は、どこか寂しそうに視線を落とした後、私の腕を掴んで「帰るぞ」と背中を向けた。ねぇ、いったいどこに帰ればいいの。私たちが帰る先には傑はいないのに。
 帰り道、悟は何ひとつ言葉を発さなかった。ただ黙って私の手を握って、黙々と高専への道のりを歩いてゆく。





「...風呂、入ってこいよ」
「、うん」
「夜、お前の部屋行くから」





 制服の汚れをとりあえず水で洗い流す。鏡に映る自分をふと見遣れば、鎖骨の下に赤い跡が付けられていた。ただの気まぐれなのか、独占欲なのか、それとも誰かへの牽制なのか。そんな傑のたったひとつの残り香に、思わず涙が溢れる。シャワーを浴びて傑の体液を洗い流せば、何か大切なものを失ってしまったかのような気分にすらなった。





「おま、髪濡れたままじゃん」
「...そうだね」
「仕方ねぇから乾かしてやるよ」





 悟は私をベットに座らせて、ドライヤーを手にする。熱風が髪をたなびかせれば、いつもと同じシャンプーの香りが鼻をくすぐった。そういえば傑、いつもと違う匂いがしたなぁ。ついさっきまで傍に居た体温を求めてしまう私の身体が、どうしようもなく切ない。





「髪、伸びたな」
「うん。そうだね」
「お前、傑は処刑対象だってわかってんだろ」
「...うん」
「なにやってんだよ」
「悟こそ、本当は今日、いつでも傑のこと殺せたんじゃないの?」





 私を巻き添えにしてでも、と付け加えれば、悟はドライヤーを止めて髪を梳かす。その指先はなんだか冷たくて、悟はきっと傑のこと、殺せたのに殺さなかったんだろう。





「あんなやつに惚れたお前が悪い」






 そんな言葉が私の鼓膜を揺らし、悟は私を組み敷くと、着ていた服を剥ぎ取って柔肌に触れる。そして、かたく熱を帯びた自身を当てがい、ぐぅと奥に割り入れた。少しも慣れていない秘部がまるで引き裂かれるようで、何の意味もないであろうこの行為が、まるで私の贖罪のようにすら感じる。






「っ、痛い、悟」
「力、抜けって」
「っあ、...っ」
「俺が上書きしてやるからさ」





 じわじわと熱を帯びる自分の身体に吐き気がする。悟は荒々しく腰を打ちつけたと思えば、奥に捩じ込まれた瞬間の私の反応をみて、頬に唇を落としながら奥を摩る。ぐちぐちと水音が部屋に鳴り響き、堪らず声を漏らすと、悟は片方の口角を意地悪そうに上げた。





「ここ。気持ちいい?」
「っ、ん、...っ!」
「言えよ。気持ちいいって」





 まるで少しの漏れも無く塗り潰すように、悟は腰を深く深く打ちつける。月明かりで見つけたのであろう鎖骨下のキスマークも、すべて上書きされてしまった。今にも果ててしまいそうになりながら、頭の片隅では冷静に、悟が今何を考えているのか想像するのだった。悟もきっと、こんなことを望んでいたわけでは無い。傑のことを忘れられない私に、何かを諦めさせようとしているのだろうか。






「っ傑」
「...」
「傑、...っあ、」
「今お前の目の前にいるの、俺なんだけど」
「っ、...ん、あ、」
「ほら、見ろよ。俺のこと。」
「わかって、る。わかってる」
「こっち見て」
「、悟、ごめん、こんなこと」
「いいから。お前はただ、でろっでろに気持ちよくなってりゃいいんだよ」






 悟はそれ以上、私に何も言わなかった。ねぇ、いっそ愛してると言ってよ。同情なんかで私のことを抱かないでよ。君を救えなかったこの私を、世界はもっと、責めればいいのに。







(2023.06.05)
ひめごと(秘め事)
隠して人に知らせない事柄。 かくしごと。 ないしょごと。


まがごと(禍事)の続き(お相手:夏油)

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