閉じられた日のこと


 弐

妻が死んだのはそんな日の明け方のことであった。任務から帰宅すると、床に臥せる妻の姿と、一点を見つめる杏寿郎と、正座した彼の膝にもたれる千寿郎の姿があった。
いつか来るであろうこんな日をずっと恐れていた。恐る恐る近づいたが、見慣れたその横顔を、怖くて触れることなど出来なかった。こんなにも近くにいるのに、その距離が縮まることはないのだと、永遠にこの手に戻ることはないのだと、無念で仕方がなかった。
耳にはただ己の息遣いだけが響いていた。

杏寿郎は気丈であった。母親を亡くした後も泣いている姿などは見せたこともない。日々同じ時間に庭へ出ては、日暮れまで淡々と刀を振るっていた。時には深い夜更けに厠へ立つと、日中と変わらぬその姿を見たこともあった。それは、彼がまだ齢十一の頃であった。
そんな姿に後ろめたさを感じるようになったのはいつからであっただろうか。
もう全てを忘れてしまいたかったのだ。




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