閉じられた日のこと


 壱

騒がしい夜のことであった。山奥から鳴り響く落雷とともに、烏たちの羽が夜空に散った。月明かりを頼りに深い緑を掻き分け、一心不乱に進んだ先には村人であろうか、一人二人と横たわる亡骸が雨に晒され、その顔は泥に埋もれていた。
もう幾許か、時が経ってしまっているのであろう。

「手遅れであるか」

点々と立ち並ぶ家々は全て見て回った。生存者は一人としていなかった。このような日は幾度となく訪れる。無駄だ、いつかの鬼のそんな声が聞こえてくるようであった。
切り立った崖の先まで辿り着くと、立ち尽くす女の背が見えた。ゆっくりとこちらを振り返り、合わせた視線を引きずるように後ずさると、その身は瞬く間に深い谷底へと吸い込まれるように落ちていった。
その女の顔がいつまでも焼き付いて離れぬまま、僅かな混乱のなか、間髪を入れず地面を蹴り上げ、後を追うように自身も谷底へと身を沈めた。女はなぜ落ちた。鬼はもういない。流されるその着物を掴み、引き寄せた時にはもうすでに女は事切れていた。

絶望とはこんなにも人を落とし込むのか。
夜ごと駈けずり回っても、止むことのない襲撃は、己の力の及ばぬことであるのか。




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