閉じられた日のこと


 参

酒を買いに外へ出ると門戸の脇に赤い椿の花が咲いていた。それは降り積もる雪の重さに耐えながらひっそりとそこへ佇んでいた。別段手入れなど施していないが、いつまでも樹形を崩さず美しく咲き誇るその姿を見て、その花を埋めた主をふと思い出し、遠い記憶に思いを馳せた。
彼女が嫁いできたのは、虫の音が鳴り始めた初夏のことであった。彼女は淡い藤色の着物を着ていて、父親に連れられ、座敷の隅に控えるように座っていた。表情の乏しい、気の強そうな女だと思った。だが伏し目がちなその眼差しは、ひどく美しかった。

「この度はこのような縁談を受けて下さり、非常に喜ばしく、妻ともども感謝をお伝えしたいと思います。どうか娘を宜しくお願い申し上げます」

この縁談は、父が取り決め、親同士の間ですでに話が決まっており、その話を聞かされたのはこの二日前のことであった。彼女の家は鬼殺隊とゆかりのある藤の花の家紋の家で、父が任務の際に彼らの命を助けたことが始まりであったらしい。江戸時代初期から続く、由緒正しい公家専任の呉服商の娘であった。

「槇寿郎、お前からも一言申せ」

父に促され、任務から帰宅したばかりの汚れた隊服のまま、畳に手の平をつけ頭を下げた。
それから数日は慌ただしく過ぎ去り、あれよあれよという間に婚儀が執り行われ、白無垢姿の女の横に座りながら、この女はこれでよいのかと一人考えた。

初めて床を共にした夜、彼女は少しだけ微笑んで、これからどうぞ宜しくお願いいたします、と云った。見知らぬ男のもとに嫁いでよかったのかと問うと、もう一度静かに微笑んで、私はすでにあなたを好いているような気がいたします、と云った。今でもその真意をはかることは出来ぬが、彼女の美しいその眼差しを、いつまでも忘れることはないであろう。




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